208話 ジジイの冷や水
翌朝。
朝風呂で昨夜の残った酒気を洗い落として、宿屋食堂でみんなと合流したら、食後に女性陣の大部屋に集まり直す。
昨夜、ルイン達としていた作戦会議の内容をみんなに共有する。
「ふむ……確かに。下水路を通ると言うところが少し気になりますが、それなら誰にも気付かれずに後宮内部に進入することが出来そうですね」
フリーダが最初に理解を示した。
「実際に通るのは、保守管理用の通路ですよね?それなら、汚水に濡れるようなことはあまり無いはずですし、下水路から出てくる前に消臭剤を使えば、臭いに関してはそれほど問題ではないかと」
下水路を通る=悪臭などを懸念したらしいフリーダに補足するのはアイリス。
前にマヌアコングの間引き依頼の際にしこたま買い込んだ消臭剤の出番だな、と言ったら。
「いえ、あの時に買ったものは全部シャルルさんと使い切ってしまいました」
とのこと。マジか。
まぁ消臭剤ならギルドストア辺りで買い込めばいいだろう。
レウィシア第一皇女はどうなのかと思えば。
「下水路を通るだなんて、なんだか隠密作戦みたいで、わくわくするわね!」
むしろ下水路を通ることを楽しみにしている。
みたいで、って言うか隠密作戦そのものなんだが……作戦に乗り気ならそれでいいか。
「となると、ワタシ達はお留守番かな?」
少数精鋭による隠密作戦のメンバー編成において、俺、アイリス、レウィシア第一皇女、フリーダの四人が向かうと聞いて、残りは待機なのかとニーリンが訊いてくる。
「そうなるな。今回は陽動も必要ないし、後は信じて待っていてくれとしか」
「その事なんだがな、リオ」
ふと、横合いからアンドリューさんが手を挙げた。
「オレも一緒に行かせてくれないか」
「アンドリューさんも?あまり人数を増やしたくはないですけど……」
四人でも割とギリギリなんだが……大丈夫だろうか?
「レウィシア殿下と聖女カナコが対談するに当たって、完全に一対一で話し合うわけでは無かろう?若い者同士だ、熱くなった時にジジイの冷や水もあった方が良かろうと思ってな」
それに、とニカッと笑みを見せると。
「歴史が変わるその瞬間に立ち会えるかもしれんのだ、これほど胸が躍ることもあるまい!」
……ようするに、自分もついていきたいだけじゃないか。年寄りの冷や水もあった方がいいと言うのも、強ち間違いでもないだろうけど。
「はぁ……まぁ、いいか。ルイン達には、俺から後で説明しときます」
アンドリューさんが急遽組み込まれたが、それ以外はおよそ俺が考えていた通りに作戦が組み立てられていく。
勝負は、今日の夕暮れ時だ。
日中の内に必要な物 (主に消臭剤とか)を買い揃え、対談が長引くことも考慮し、俺含む潜入組五名は軽く昼寝をして。
空が茜色に染まり始めた頃、いよいよだ。
「リオ、フリーダ殿下、準備はいいな?」
宿屋の玄関口でフリーダと手荷物を整え終えると、アンドリューさんが声をかけてきた。
「もちろんです」
「いつでも」
「うんむ。貴婦人お二方も、そろそろ準備が出来る頃だ」
もう少しだけ待っていると。
「皆さん、お待たせいたしました」
レウィシア第一皇女の声が聞こえたので、そちらへ振り向くと。
アイリスとレウィシア第一皇女の二人は、ドレス姿だ。
アイリスの方は以前にグリード暗殺の際に着ていた黒銀のドレス、レウィシア第一皇女はそれと対となるような白金のドレスだ。
ちなみに、ネオライトでゴンザレスさんから借りたものとは、アイリスのドレスのことだったらしい。
「おぉ、これはこれは。まるで太陽と月の女神が舞い降りてきたかのようだな」
アンドリューさんは頷きながら上手いお世辞を言う。
「まぁ、隊長さんったらご冗談がお上手ですこと」
くすくすとお上品に笑うレウィシア第一皇女。
「リオさん」
アイリスは俺に向き直ると。
「今のリオさんから見たドレスの私は、いかがですか?」
いかがですかと言われてもな……
「何だろうな……前と同じドレスなのに、今の方が、輝いて見える」
「とか言いながら、視線は正直みたいですね?」
「うっ」
しまった、大きく開けられた胸元を見ていたことに気付かれた。
そりゃ、普段は見えないし、なぁ……
「うふふ、女として意識してもらえたようで何よりです」
ドヤ顔されてしまった。
くっ、アイリスめ……こんな小悪魔みたいな一面もあったのか、侮れんっ。
「……リオ殿、アイリス。二人だけの甘い空間に浸るのはそこまでに」
若干棘があると言うか冷たい声色のフリーダに釘を刺されて我に返る。
「よぅし、それじゃぁ行くとしようか。リオ、まずはスラム街の西口広場に集まるんだったな?」
アンドリューさんがパンッと手を鳴らすのを聞いて、俺達四人の気が引き締まる。
「はい。手筈通りなら、ルインとヒルダが待ってくれているはずです」
スコットは下水路と後宮内部に繋がる場所へ先行し、鍵があればそれの解錠、あるいは破壊をしてくれているはずだ。
「そいつは重畳。出来ればその三人とも語り合いたいところだが、それはまたの機会にするとしよう」
頷いてから、宿屋を出る。
行き先はスラム街の西口広場だ。




