207話 意外な抜け道
適度にお冷やを飲みつつ、俺は慎重に言葉を選びながら、ルイン達三人に俺達のこれまでの経緯と目的を話した。
最初は三人とも眉に唾を塗っていたが、俺がクソ大真面目に話しているのを見ていて気が変わってきたのだろう、最後にはいつもの作戦会議と同じ顔に戻っていた。
「――と言うわけだ。信じられないかもしれないが、これまでの状況証拠から見ても、限りなく本当のことに近いと見ていい」
「「「………………」」」
最初に行動を起こしたのはルイン。
ぐいっとお冷やを一口飲んでから。
「そんな話信じられるわけねぇだろ、って言いたいが……リオ、お前が言うからには本当のことなんだな」
少し、意外だった。
ルインには最初、それこそ「そんな話信じられるわけねぇだろ」と突っ返されると思っていたが、聞き入れてくれるようだ。
「スコットが言っていた通りね。ネオライト領と比べても、王都領だけ豊かすぎるのはどうしてかって」
次にヒルダが、スコットと目を合わせながら頷いた。
「スコット?」
俺もスコットに目を向けると。
「リオがブレイドビートルを討伐してくれた、その帰り道だ。ネオライト領と王都領、まるで線引きされていたみてぇだったからな。不自然だとは思ったが、その時はそう思っただけだったが……」
そう言う話なら納得だ、とスコットは俺の、さもすれば子ども騙しにもならないような与太話――実際はほぼ真実だが――を肯定してくれる。
ルインはさりげなく周囲を見回して、聞き耳を立てているような奴がいないこと確かめてから。
「……で、後宮の聖女様とやらを説得するために、夜に誰にも見つからないように女神像の間に行く必要があるって話だが」
言葉を整理するように一拍を置く。
「オレが知ってる限りなら、兵隊に見つからず、なおかつ後宮内部に繋っている抜け道がひとつだけある」
「本当か?」
酔った勢いの口から出任せではないはずだ。
そこはどこなのかと言うと。
「スラム街の地下……下水路だ。あそこには、設備の保守管理のための通路がある。そこを辿っていけば、後宮内部に繋がっているはずだ」
「下水路か……」
なるほど、そこは盲点だった。
生まれは知らないが、俺達が意地汚く育った場所だ、よもやそこが攻略の足掛かりになるとはな。
「だが、下水路と後宮内部を繋ぐ場所は、鍵が掛かっていたりしてないか?」
「そこは、俺の出番だな」
横合いからスコットが手を挙げる。
「……そうか、【シーカー】のスキルか」
【シーカー】は隠密系の技能を多数会得出来るスキルだ。
鍵穴を探って解錠、あるいは内側から破壊することだって出来るのだろう。
「鍵を開けて、後宮内部に進入してからは、時間との勝負になるわね。実際に後宮内部に進入するのは、少数精鋭でしょう?」
ヒルダが、後宮内部に進入してからの想定を訊ねてくる。
「そうだ。今考えている編成は、俺とアイリス、レウィシア第一皇女、それからフリーダ第二皇女の四人だ」
後宮内の見取り図を知るアイリスと、聖女カナコとの対談交渉役であるレウィシア第一皇女は必須。
もし衛兵と出会したとしても、フリーダがいれば武力による力尽くで押し通ることも出来るはずだ。
俺が行く意味?恋人が身体張るってのに、自分だけ大人しく引っ込んでいるわけにはいかないだろうが。
それに……聖女カナコの召喚から始まったであろう、これら一連の事件の結末を、この目で確かめたいのも理由のひとつだ。
「となると、だ……」
具体的な作戦の目処が立ってきたところで、ルインがまとめに入ってくれる。
しばらく見ない内に、一皮剥けたなぁ……頼りになる奴だよ。
「まずはリオ。決行は明日のこの時間、スラム街の西口広場で落ち合うのはどうだ?そこからの方が、下水路の保守管理通路にも近い」
「あ、悪いルイン、出来ればもう一時間早く頼む。出来れば、聖女カナコが女神像の間に来るまでに待ち伏せしておきたい」
アイリスの話によると、朝食前と夕食前に女神像の間で祈祷するらしいからな、夕食前の時間帯になる前にそこで待ち伏せしておけば、ほぼ確実に出会えるはずだ。
「分かった」
まずは明日に落ち合う時間帯と場所。
「次にスコット。お前は夕方頃に、先んじて下水路と後宮を繋ぐ場所の鍵を開けておいてくれ。もし保守管理人に出会したら、最悪始末してもいい。オレ達が来るまでに頼んだぞ」
「あいよ、りょーかい」
軽い調子で頷くスコットだが、その顔は真剣だ。
「ルイン、私は何を?」
ヒルダが、自分の役目は何だと訊ねる。
「オレとヒルダは、リオ達の護衛だ。これからオレ達三人でスラムの連中にこの事を報せて、変なちょっかいをかけないように根回しするが、万が一ってこともあるからな」
確かに、アイリスにフリーダ、レウィシア第一皇女、内二名は武装しているとはいえ、いずれも見目麗しい美少女だ。彼女らを見たスラムの連中が、何もしてこないとは限らない。
「分かったわ」
各々、これからと明日にするべき事が決まった。
「今回のこの件が全部終わったら、もう一度飲み合おう。お代はもちろん俺持ちだ」
朝まで飲み明かしてもいいだろう、それくらいは許されてしかるべき。
「おっ、聞いたか二人とも。リオがオレ達の財布になってくれるそうだぜ?」
「そりゃいい、当然全メニューフルオーダーだよな?」
「女の子侍らしていいご身分なんだし、これくらい安いものでしょ?」
おぉぅ、三人して好き勝手なことを言いやがる。
だが、そんな軽口がとても心地好くて、心強い。
「おぅ、お前ら全員徹底的に酔い潰してやるから覚悟しとけよ」
なんて啖呵を切りつつも。
四人で一気にお冷やを飲み干したあとは、全員無言で席を立った。
各々のやるべきことを為すために。




