206話 とりあえずビール
酒場に戻る前に宿屋に一度立ち寄って、みんなにこれからルイン達と飲んでくることを伝えてから。
「えー、そうだな、【紺碧の刃剣】……いや、オレ達四人の再会を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
酒場の片隅の円卓に座り、ルインが取る音頭に合わせて乾杯、なみなみと注がれたビールのジョッキをカキンカキンと打ち鳴らし合う。
まずはぐいーっと一杯。
「ぷはーっ、ビールとか久々に飲んだな」
口元に付いた白泡を手の甲で拭う感覚も久し振りだ。
「久々って、そんなに忙しかったのかよ?」
俺と同じように口元の白泡を拭うスコットは、意外そうな顔をしている。
「まぁ、なんだかんだ色々あったし、旅の途中も不寝番ばっかりだから、こんな風に騒ぎながら飲むことも無かったんだよ」
……アンドリューさんがよく酔い潰れるから、「こうなりたくはないなぁ」って思っている節もあるんだがな。
「リオも、今日くらいは好きに飲んで……って、明日からも忙しくなりそうなの?」
今度はヒルダだ。
俺達四人の再会と言うよりは、俺が他三人にあれこれ話すのがメインになりそうだな。
「あぁ。でも、今夜は特別だから少しだけな」
三ヶ月ぶりの再会だ、少しくらい羽を伸ばしても許してもらえるだろう。なんならみんなからは「もうちょっとだらしなくていい」とか言われそうだが。
乾杯してからしばらくは、お互い見ない間にどうのこうのと語り合っていると。
「・・・なぁ、リオ」
ふとルインが、俺の顔を窺うように話しかけてきた。
「なんだ?ルイン」
すると、突然席を立ち、俺に向かって頭を下げた。
「すまなかった。いくらお前を思いやってのこととは言え、あんな風にパーティから突き放したりして」
「お、おい、そんな、頭下げるなよ」
慌てて頭を上げさせようとするが、
「ずっと、謝りたかったんだ」
ルインは頭を下げたまま続ける。
「ブレイドビートルに殺されかけたあの日、お前が助けてくれなきゃ、オレは三ヶ月前にお陀仏だった。なのにオレは、自分の過ちを認めないばかりで、何も……何も言えなかった!」
ルインの悲痛な謝罪だけが、この席を打つ。
「謝って済むような問題じゃねぇのは分かってる。けど、"カッコ悪いまま“なのは趣味じゃねぇんだ!だから……オレに、けじめをつけさせてくれ……ッ」
「……」
俺としては、あの日にルインをぶん殴った時に"清算“はもう済ませているが、ルインとしてはとにかく一度は頭を下げて、謝罪の言葉を口にしたかったらしい。
ならばその"誠意“は、きちんと受け取る必要があるだろう。
「謝罪は確かに受け取った。だから、もう顔を上げてくれ、ルイン」
俺がそう言って頷いてみせると、ルインはようやく顔を上げてくれた。
「それと……あの時、助けてくれてありがとな」
アイリスに言われたことを思い出したのだろう。
リオさんにお礼を言わないのは何故ですか、と言われたことを。
「どういたしまして、だ」
ほら、とジョッキを突き出す。
それを見たルインはきょとんとして……苦笑しながらも、ジョッキをぶつけてくれた。
もう一口、ぐいーっと。
「あぁ、やっと言えた。やっと、スッキリしたぜ」
さっき会ってからずっと、俺の顔を窺うようにしていたルインの顔が、ようやく崩れた。
――懐かしいな。
まだ酒も飲めない子どもだった冒険者駆け出しの時、ノンアルコールビールを苦い辛いと言いながらも大人ぶっていた、あの頃を思い出す笑顔だ。
スコットもヒルダも、同じように笑う。
ずっと道を違えていた俺達は、今日やっと、自分の歩んできた道の先が交わったんだ。
――酒が入ってきたせいか、少し口が軽くなっているなと自覚する。
少しだけと言いつつ、結構飲んだな……?
まずい、このままだと喋っちゃならんことまで口走ってしまいそうだ、少し頭を冷まそう。
「お姉さん、お冷やひとつ!氷たっぷりで!」
配膳の受付嬢にお冷やを頼むと、すぐに「はーい!七番席お冷やいっちょー!」と気前のいい返事が返ってくる。
氷をカラコロと擦り鳴らしながら冷水たっぷりのジョッキが差し出されたので、「ども」と会釈しつつ、ゴクゴクと。
「ぷふぅっ……」
キンッキンに冷えてやがる、ありがてぇ。
「リオ?」
突然お冷やをがぶ飲みし始めた俺を見て、ヒルダが目を丸くしている。
「ちょっと酔ってきただけだ、気にすんな。……で、何の話してたんだったか」
酔ってきたなー……と思った辺りでちょっと口が滑ったかもしれない。
すると、スコットが。
「あぁ?お前が言い出したんだろ、『どうやって兵隊に見つからずに、後宮の女神像の間に辿り着けるか』って」
な に や っ て ん だ 俺 ェ !?
やばい、もしかして帝国周りのことも言ってしまったかもしれん。
「あー、あー、それはその、すまん、気の迷いってやつだ、忘れてくれ……」
慌てて誤魔化そうとする。
「んー……おーい!お冷やもう三つ頼むわー!」
ルインもそれなりに酔ってきているようだが……何故かお冷やを三つも頼んだ。
すぐに運ばれてきたお冷や三つは、それぞれスコットとヒルダにも手渡され、酔い醒ましに飲む。
するとルインは真剣な顔をして。
「お前、後宮の女神像の間で何しようってんだ?」
「……」
これは……言うべきか?
だがルイン達を巻き込むわけには……いや、ルイン達なら何か知っているかもしれない。
もう一口お冷やを飲んで、氷を噛み砕いて。
「他言無用に出来るか?」
三人にそう問いかけると、すぐに真剣な顔で頷いてくれた。
これも懐かしいな、作戦会議の時の雰囲気だ。
「実は……」




