202話 今宵、私は
――ほんの数十分前。
リオさんに今晩の不寝番を共にしてくれと頼まれた私は、普通に「いいですよ」と答えました。
昨夜の不寝番はシャルルさんでしたから、その翌日の今晩は、シャルルさんの他に不寝番の経験のある冒険者――私が選ばれることには、何の疑問もありませんでした。
その後で、レウィシア姉様とフリーダ姉様にも、「今夜は不寝番に就きます」と伝えに行くと。
突然、両姉様は顔を見合わせた。
「ついに……かしらね」
「えぇ、明日に王都入りすることを考慮しても、今夜しかタイミングは無いかと」
「一世一代の大勝負、再従姉として、ニヤニヤしながら見届けなくてはね!」
「なりません姉様!そのような野暮なこと、馬に蹴られて地獄に堕ちますよ!」
「再従妹の恋路を確かめるためなら、地獄に堕ちても惜しくはないわ!」
「絶 対 ダ メ で す !」
「えー、そんなぁ……」
何やら言い合いになっていますが……馬に蹴られて地獄に堕ちるとか、再従妹の恋路とか言っている辺り、多分……
「あの、お二人とも。もしかしてですが……リオさんが私を不寝番にお願いしたのは……」
私が躊躇いがちに横から口を挟むと、両姉様はぐりんと顔をこちらに向けてきました。
「頑張るのよアイリス!大丈夫、あなた達二人はお似合いで、きっといいカップルになれるわ!」
「えぇ、リオ殿は少々押しが弱いところもあるでしょうけど、そこはあなたからも押していくのよ!」
「え、えぇと……は、はい、頑張り、ます……?」
あぁ、これはやはり、"そう言うこと“なのでしょう。
つまり、リオさんはこれから私に……
「………………」
な、なんでしょう、急に恥ずかしくなってきました。
顔も熱くなってきたような……
「あらあらまぁまぁ、もうすっかりその気になってるわ♪」
「な、なんだか私まで恥ずかしくなってきたわね……」
レウィシア姉様は既にニヤニヤしてるし、フリーダ姉様まで恥ずかしがらないでください。
「お、お二人ともからかわないでくださいっ!それに、リオさんのことですから、真面目に不寝番をしてほしいと思っているだけかもしれま……」
「期待していないの?」
――途端、レウィシア姉様は真顔になりました。
「え」
突然の真顔と、二段階くらい落ちたトーンの声に、思わず気圧されてしまいました。
フリーダ姉様も同様に、レウィシア姉様の顔と声に戸惑っているようです。
「端から見るだけでも分かりやすいくらいには、彼は本気よ?」
「そ、それ、は……」
政略的な悪意や、身体への不埒な視線には敏感な方だと自認しているつもりですが……
ここ最近のリオさんの目は、明らかに私のことを意識していて――それでいて不快なものではない、不思議な視線を向けていることには気付いていました。
それがまさか、私への恋心――そんな可愛らしいものだなんて、思ってもみませんでした。
……そう考えると、今になって自分がどれだけ捻れた心の持ち主であったかを自覚させられます。
続いて、フリーダ姉様も。
「私がどうこう言える立場では無いけれど。リオ殿はきっと、あなたに対して誠実に向き合おうとする。それくらいは、分かるつもりよ」
「誠実に……」
――そう言えば以前、帝国領の冒険者用の拠点の中で、フリーダ姉様が (惚れ薬のせいもあって)裸になってリオさんを押し倒していたのを見た瞬間、自分でもよく分からないほど怒っていた気がします。
帝国の第二皇女とあろう御方がなんてふしだらなことを、とかではなく (いやそれも無くは無かったですが)、リオさんを奪われてしまうような、不安とか焦燥とか……
「ふぅ……私達がこれ以上何か言うのも無粋ね。フリーダ、そろそろ寝ましょう」
「そうですね姉様、あとは若い二人にお任せするとしましょう」
お互いに「おやすみなさい」を告げてから、私はレイピアを手に、不寝番用の焚き火へ足を向けました。
・・・期待、してもいいのでしょうか。
この商隊には、エトナちゃんやリーゼさん、シャルルさん、ムイちゃん、ニーリンさん、魅力的な女性がたくさんいます。
その中でも、リオさんは私がいいと。
自惚れているわけではありませんが、私の容姿も理由のひとつかもしれません。
醜女よりは、美女である方がいいとは思いますし――尤も、リオさんは容姿や身体で相手を選ぶような人ではありませんが。
焚き火の近くには、リオさんが既に陣取っていました。
「お、お待たせしました、リオさん」
「待っていたわけじゃ、……無くも、ないか」
つまり、リオさんは待っていたと。
私に……告白しようとする、この時を。
お互い、緊張しているのが丸分かりです。
これでは具合が悪いと思ったか、リオさんは明日からの話を先に持ってきました。
私も、両親の安否確認も出来ないまま四か月も経ってしまったことに、思うところはあります。
ですが、本来の目的はそうではなく、あくまでもレウィシア姉様とカナコさんとの対談が主目的です。
私の両親の安否確認は、ついでに程度のものであって、最優先事項ではないのです。
けれど、出来ることなら顔を合わせて、この四か月のことも話したいです。
・・・好きな人が、出来たことも。
「なぁ、アイリス」
「はい?」
「――聞いてほしいことがあるんだ」




