201話 聞いてほしいことがあるんだ
安息日を文字通り寝過ごしつつも、物資の補給などを完了させたら、翌早朝からカイツールの出立準備。
行き先は――王都クロスキングス。
俺にとっても、そしてアイリスにとっても因縁の地と言えるだろう。
俺はルイン達【紺碧の刃剣】から (思いやり故に)追放され、アイリスはフルス第一王子から濡れ衣を着せられて婚約破棄、追放された。
お互い、二度とここへ戻らないことも覚悟していたものだが……存外、早く戻ってくることになったな。
とは言え今回は、ゆっくりと懐かしさを覚えている場合ではない。
目的は、レウィシア第一皇女を聖女カナコとの対談に持ち込ませ、祈祷による豊穣の独占をやめてもらうこと。
それが成功すれば、レウィシア第一皇女とフリーダを送り帰すために、今度はすぐに帝都へ蜻蛉返りすることになる。
とにもかくにも、まずは王都に着いてからだ。
それはそれとして……王都に着くまでに、俺はひとつ、付けなければならない『けじめ』がある。
勝負は、二日目の晩、不寝番の時だ。
カイツールを出立し、初日の不寝番はシャルルに頼んで普通に不寝番をこなす。
翌日午前中で睡眠時間を取り、昼からまた護衛に戻り。
今晩の野営地――ちょうど四ヶ月前、俺がアンドリューさんの商隊の護衛依頼を受けた、初日の夜と同じ場所だった。
夕食を終えた後、今日の不寝番は誰がやるかと言うところで、俺はアイリスに声をかけた。
「アイリス、今日は俺と不寝番担当になってくれないか?」
「私ですか?いいですよ」
二つ返事で快諾してくれたアイリス。
断られる可能性も無くは無かったが、今晩だけはどうしてもアイリスを指名しなくちゃならないから、頭下げてでも頼むつもりだった。
「ありがとう。よろしく頼む」
まぁ……俺がアイリスに『よろしく頼む』のは、不寝番だけじゃないんだがな。
そろそろ不寝番以外は就寝に入る深夜になる。
「それじゃ、今晩も頼んだぞリオ」
アンドリューさんには、不寝番に入る直前に、毎回こうして「頼んだぞ」と声をかけられる。
こう言う気遣いが、人望を集めるんだろうな。俺もその人望に集まっている一人だけど。
「任せてください」
「……思い返してみれば、野営の時は、いつもお前さんに負担をかけさせちまっていたなぁ」
しみじみと思い出すように呟くアンドリューさん。
確かに、アンドリューさんの商隊を護衛するようになってから、夜に寝ることが減った気がするが。
「いいんですよ。不寝番は慣れっこですし、その分は朝に寝させてもらってますから」
「お前さんがいいって言うからにはいいんだろうが……たまには野営の時でも、寝かせてやりたいもんだ」
まぁそれはそれとしてだ、とアンドリューさんは満面の笑みを浮かべると。
「頑張れよ、若人!」
ハッハハッ!といつもの高笑いを残して、アンドリューさんは自分の馬車に入っていった。
頑張れよ、か。
アンドリューさんにも、俺の心の中はお見通しなのか。
逆に言えば、俺がそれだけ分かりやすいってことなんだろうが。
「さて、と」
焚き火の近くに陣取り、ロングソードをいつでも抜ける位置に置いて。
程無くして、アイリスもやって来た。……何故か顔を赤くしながら。
「お、お待たせしました、リオさん」
「待っていたわけじゃ、……無くも、ないか」
昨日からずっと待っていたんだ、この時を。
焚き火に薪をいくつか立てて入れて火を強くして、俺の隣にアイリスがちょこんと座る。
緊張するな……
「………………」
アイリスも緊張している。
こりゃ、俺がこれから何をするつもりなのか、既に悟ってる感じだな……
「明日、いよいよだな」
とは言え、お互い緊張しあったままいきなりそれを伝えるのも間が悪い、まずは話しやすい話題を挟もう。
「そう、ですね。明日……王都に、帰って来るんですね」
俺もアイリスも四ヶ月ぶり、動機は異なれど、同じ時に王都を去ることになったことに、何だか因縁じみたものを感じる。
「家族の安否も、分からないままなんだよな」
アイリスのご両親は、彼女本人と同様に爵位を剥奪されたと聞いている。
恐らく王都内で陽の目を見ないような生活をしているのだろうが……
「はい……これまでの旅で、私の名前が王都に届いているとは思えませんし、家族とは四ヶ月も音信不通なままでした」
陽の目を見ない生活を強いられるだけならまだ良かったのかもしれない。
蝶よ花よと育ててきた愛娘が、一人王都から放り出されたとなれば、生存は絶望的だろう。
「ですが、それも明日か、もしくは明後日には解決出来るはずです。ニーリンさんが、帝国の侯爵家と連絡を取り合ったのと同じ手段を使えば、きっと……」
顔を見せることは難しくとも、手紙を放り込むくらいは出来るはずだと意気込むアイリス。
「ちゃんと、家族と再会出来るといいな」
「はい。……でも、私達が本来やるべきことも、忘れてはいけません」
「だな」
家族との再会は、アイリスにとっての寄り道。
本来の目的は、カイザス陛下の名代であるレウィシア第一皇女と聖女カナコを対談させること、これが最優先事項だ。
さて……そろそろいいか。
「なぁ、アイリス」
「はい?」
「――聞いてほしいことがあるんだ」




