200話 寝起きと決意と
200話!
カーテンの隙間から差し込む朝日と、小鳥のさえずりを感じ取り、
「………………ねっむ」
ほとんど眠れなかった。いや、実際には眠っていたんだろうが、熟睡感がまるで無い。
眠った感覚がまるで無いことを自覚する。
原因は分かっている――エトナのことだ。
シャオメイとは違い、エトナは拙いながらも一所懸命に感情をぶつけてきた。
その事に、俺は思いの外心を揺さぶられてしまったらしい。
結局、俺はエトナに何も言えず、何もしてやれなかった。
八つ当たりしてきたのがルインだったなら「知るかよ」の一言で殴り飛ばしていただろう。
エトナに対しても、それで済ませていいならどんなに楽だったことか。
けれど、エトナはきっと俺のことを本当に想っていてくれて、好いてくれていたのだろう。
その気持ちは嬉しいんだが……ではエトナと恋人同士になりたいのかと訊かれれば、そうではない。
俺が、心から寄り添いたいと思える相手は――
不意に、コンコンとドアノックがされる。
「リオー、起きてるー?」
シャルルの声だ。
「ん……あぁー、起きてる、ぅ……」
今日は安息日なので、二度寝してしまってもいいのだが、起こしに来てくれて、起きている以上、反応しないわけにはいかない。
のろのろとベッドからずり落ちるように降りて、壁伝いにドアまで向かう。
がちゃり。
「おはようわっ、どうしたってのよ、その顔?」
おはようと言いかけてそのまま驚くシャルル。
だろうなぁ、今の俺多分ヤバい顔しているなって自覚がある。
「……はよぅ」
「ちょっとちょっと、水分無くなったリビングデッドみたいな顔してるっての……とりあえず顔洗ったら?」
水分無くなったリビングデッドみたいな顔ってどんな顔だよ、想像出来るのが嫌だな……
「そぉする……」
とにかくまずは洗面所に行かなければと思うのだが、足取りが覚束無い……
「はいはい、リビングデッドのモノマネは、顔だけにしろっての……はい、肩貸したげるから」
朝からひっでぇ言い種だ。否定できないが。
するとシャルルは俺の右隣に回り込むと、肩を貸してくれる。すまんな。
シャルルに連行されるように洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗う。
……意識は目覚めるけど、瞼の重さは変わらない。
あれだな、『身体は動くんだけど、目だけが眠い』状態だ。
「ぷふぅ……く、はあぁぁぁぁぁ……」
「はい、タオル」
欠伸を一発かますと、シャルルがタオルを差し出してくれた。
「おぉ、悪いな」
タオルを受け取って、水気を拭き取っていると。
「……昨日のあの後、エトナちゃんと何かあった?」
「ッ」
シャルルの言う「昨日のあの後」と言うのは、ムイの口を塞ぎながら立ち去り、俺とエトナを二人きりのままにしてくれたことだろう。
いきなり核心を突くようなことを……っ
「その様子だと、何かはあったっぽいね」
「それは、まぁ……あったな」
否定はしない。
「ふーん……」
何かを見定めるように、俺の顔を見つめるシャルル。
「……なんだよ」
「んーん、べっつに。なんとなーく、分かったから」
「何が分かったんだ?」
「それ、あたしの口から言わせる気?」
ジト目で睨まれた。
「……すまん」
訊いてはならないことらしいので、とりあえず謝って。
「ま、ある意味仕方ないとこはあるんじゃない?リオにとっても、エトナちゃんにとっても」
多分、昨夜のエトナと、今の俺の反応を見て分かったのだろう。
エトナが俺に告白してくれて、けれど俺の心の方向の先にいる存在のこともあって、八つ当たりしながらも身を引いたことを。
「あたしが横から何か言う権利とか、無いんだけどさ。中途半端なことだけはやめなさいよ。そんなの、誰も喜ばないから」
中途半端なこと、か。
そうだ……俺はエトナに何も言えていない、伝えられていないじゃないか。
結論は知っていても、ちゃんと言葉にして真っ直ぐ伝えろと、シャルルはそう言いたいんだろう。
「あぁ……」
今日にでももう一度エトナと話して、俺の気持ちをちゃんとハッキリ伝えなければ。
「俺も、いつまでもこのままじゃダメだって、分かってるつもりだ」
ニーリンが言っていた通りだ。
のらりくらりしている時間は、もう無い。
「分かってるんなら、よし。朝ごはん、食べに行こ。みんな待ってるし」
そう言って、シャルルは踵を返して先に宿屋食堂へ向かっていくので、タオルで水気を拭きながら後を追う。
「……ま、あたしじゃあの二人の間に入る余地なんて、最初から無かったって言うのは、分かってたけどさ」
何か、小さな呟きがシャルルから聞こえた気がしたが、よく聞こえなかった。
少し時間のズレた朝食を終えた後、エトナを呼び出して、俺の今の正直な、心のままの気持ちを伝えた。
エトナは少しだけ、痛みを堪えるような顔をしてから「お返事、ありがとうございます」と頷いて、すぐに「お二人ならお似合いだと思いますから、きっと上手くいきます」と、お世辞を言ってくれた。
俺の胸の奥も少し痛んだが、通すべき筋は通した。
後は――本当に伝えるべき相手に、この気持ちを伝えるだけだ。




