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タイム連打ってなんだよ(困惑)  作者: こすもすさんど


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149話 非道の慧眼

「……いつになったら目処が立つんだ!」


 もうじき日が暮れる頃になって、帝都の伯爵邸の執務室で、モーゼスは机に拳を叩き付けて怒鳴り声を上げる。


「何度も言っているじゃないか。この手の研究開発は、時間も金もかかると」


 対面しているのは、涼しい顔をしたゼリウス。


「それは貴様らの都合だろうが!こうしている間にもフィーナがいつ死ぬか分からんのだぞ!」


「それは君の都合だろう。君が怒鳴ることで目処が立つなら、いくらでも怒鳴ってくれ」


 売り言葉に買い言葉、モーゼスは苛立ちに奥歯をギヂリィと軋ませた。


「無論、彼らには"魔素の浄化療法”の確立を急がせている。そも、こちらの都合を優先してもいいと言ったのは君のはずだ」


「ならさっさとそちらの都合を済ませろ!金ならいくらでも出すし、傭兵として従うとは言ったが、限度がある!」

 

「さっさと済んだら困るのは君の方だろう。せっかく闇ギルドを使って王国との摩擦を起こして軍資金を捻出しているのに、『戦争が始まって困るのはこちらも同じだ』」


 どこまでも澄ました顔をするゼリウスに、モーゼスは眉間に青筋を立てかけ――しかしゼリウスの言葉に違和感を覚え、意図的に呼吸を挟んで怒りを静める。


「……貴様は戦争を望んでいるのではないのか?闇ギルドの連中を使って戦争を引き起こし、双方に武器を流して泥沼化させて、金を搾り取るだけ搾り取る、と言うのは理解できるが」


 違和感を覚えたのは、「戦争が始まって困るのはこちらも同じ」と言う言葉だ。


 戦争になったらそれこそ戦争屋の本領だ、とも言っていたのだ、モーゼスはゼリウスの私兵として戦争に参加し、出来るだけ長引かせることを求められていた。

 しかし先程のゼリウスの発言はむしろ逆、戦争が始まってほしくないような言い方だ。


 それはどう言うことかと言うと。


「分かってないね、モーゼス。戦争をしている状態よりも、『適度に緊張感を保っている状態のほうが儲けやすい』んだよ。戦争中は兵器と消耗品しか売れないが、それなりの緊張感を保っている状態ならば、それらに加えて色々なものが売れる。流通も安定するし、安心して商売が出来るというものさ」


 基本的に戦争は、消費しかしない。

 単に物質的なものだけではなく、人間も。

 将来的な消費者になるであろう人間を減らすと言うことは、最終的に先細りを意味する。軍需産業――兵器の商売など、所詮は局所的なもの。一時的には儲けられても安定した商売とはなり得ない。


「緊張感を保った状態で、物だけを無駄に浪費してくれるのが一番良いんだよ。『人間の命自体に金銭的価値は無いが、金の流れを作るのは人間にしか出来ない』んだ。人が一人減るだけで、どれほどの量の物が売れなくなると思う?」


 死ぬ、ではなく、減る。


「君に求めている役割は、戦争が始まった時を想定しての構えさ。緊張感を保ち続けるなら最上だが、戦争が始まったら始まったでそれに合わせて儲け方を変える、と言うだけのことだ」


 ゼリウスの言葉に、モーゼスは心底から嫌悪感を覚えた。虫唾が走ると言ってもいい。


「貴様と言う奴は……」


「君の"ご息女”のことを思えばこそだ。確約は出来ないが、尽力はすると言う言葉に嘘はない。こちらとしても、"自由に動かせる手駒"が掌を返されても困るからね」


 本当に。

 本当にどこまでも利己的で、しかも断りにくくいやらしい手法だ、とモーゼスは心の中で吐き捨てた。


「……貴様の言いたいことは分かった。今はまだ貴様の手駒になってやる」


「訊きたいことは以上かな?すまないがこの後にも客人が一人来るから、出来るだけ足がつくようなことをしたくない」


「……また来る」


 そう言い残して踵を返そうとしたモーゼスだが、「あぁ、そうそうもうひとつ」とゼリウスが何かを思い出したように声を上げたので、足を止める。


「"例の商隊”が帝都内にいるらしい。もしかすると君の邪魔になるかもしれないから、必要なら独断で始末しても構わないよ」


「………………」


 それに対して何を言うこともなく、モーゼスは執務室を後にした。




 モーゼスがハウスキーパーに連行されるように屋敷を後にした頃には辺りも暗くなり始めていた。

 ゼリウスは身なりを整え直し、執務室を出た。


 応接室に移動して、使用人に紅茶の準備をさせている間にも。


「失礼いたします、ゼリウス様。例の方がお目見えになられました」


 先程モーゼスを連行したハウスキーパーが再び声をかけてきた。


「丁重にお連れしてくれ」


「かしこまりました」


 ハウスキーパーが応接室を後にして、すぐに別の使用人がドアをノックしてきた。


「お待たせしました」


「どうぞ、お入りください」


 きっかり二秒の間を置いてから、ドアか開けられた。

 入ってきたのは、ドレスを着こなした金髪紅眼の少女――


「ようこそいらっしゃいました――リリナ殿下」


 帝国第三皇女の、リリナだった。


「ごきげんよう、ゼリウス伯爵。首尾はいかがですの?」


「上々かと。後は細々とした調整を終えて、ソンブルーヨ島に赴くだけです。……ところで、そちらは?」


「残念ですが、"フリーダ”を仕留め損ないました。今は、密偵に行方を探らせています」


「構いません、第二皇女を帝都から引き離し、影響力を削いだだけでも上出来です」


 紅茶を添えられて、ゼリウスとリリナの密談は続く。

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― 新着の感想 ―
やっぱり冷戦状態の方がよく売れますよねぇ。 先の見えない不安を覚えてる時こそ物を買わせるいい機会ですよ。 そんで……どんな会話が交わされるのやら。 越後屋と悪代官な感じだったりするんだろうか。
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