147話 つまり、肉まんのことである
水源地のキャンプ地から撤収し、帝都へ戻るまでの間に、フリーダさんに『ショーンさんに頼んで欲しいこと』を伝えると、フリーダさんは快く引き受けてくれた。
帝都の町並みと外壁が見えてきたところで、少し離れた林の中にフリーダさんを待たせておき、俺達三人は依頼を完遂して帰ってきた冒険者の顔をしながら帝都に入る。
一度ギルドの方に立ち寄って依頼の達成報告と報酬を受け取り、すぐに馬車の停留地へ向かう。
時間帯は昼過ぎ頃、アンドリューさんもいい加減起きている頃合いだろう。
停留地では、デスクワークに勤しむエトナと、その近くで夕食の準備を始めているシャオメイの姿が見える。
とりあえず、エトナに帰還と依頼の達成報告だけしておこう。
「エトナ、今戻ったぞ」
声をかけると、すぐにペンの手を止めて向き直ってぺこりと一礼してくれるエトナ。
「お帰りなさい、皆さん」
「依頼の報告で、マヌアコング二十頭の討伐依頼、完遂して帰ってきたところだ」
「達成おめでとうございます。……アイリスさんとシャルルさんは、この後でお風呂でしょうか?」
エトナの視線がアイリスとシャルルに向けられると、二人とも気まずそうに頷いた。
多分、マヌアコングの汚い攻撃 (直喩)を喰らったんだろうな……
「報告は以上。アンドリューさんは起きてるか?」
「隊長なら馬車にいますが、まだ少し酒臭いかもしれません」
「話が聞ける状態なら十分だ、ありがとう」
「はい、お疲れ様でした」
アイリスとシャルルは今すぐにでも宿屋に戻って風呂に直行したいところだろうが、これからアンドリューさんと大事な話があるので、こっちの案件の方が優先だ。
エトナに見送られつつ、アンドリューさんの寝室を兼ねた馬車に失礼しまーすっと。
「アンドリューさん、ちょっといいですか?」
「おぉ、三人ともお疲れさん」
アンドリューさんもエトナと同じように書類仕事をしていたが、すぐに反応してくれた。
「昨夜、ムイが伯爵邸に潜入した結果報告は聞いたぞ。えらいことに首を突っ込んじまったみたいだな」
昨夜のムイの報告内容は、エトナが紙に書いて纏めてくれたので、それを提出、起きてきたアンドリューさんにも情報共有してもらったようだ。
「ゼリウス伯爵の身柄を押さえることが出来れば一番いいのですが、それは難しいところです」
アイリスがそう言ってくれたように、邪龍ダンケルハイトの復活そのものを阻止するのが一番手っ取り早いんだが、そうは問屋が卸してくれない。
「獄龍珠と言ったか。その対抗策をショーンの奴に作れないか、と言う話だな」
「アンドリューさん、その事なんですが……」
そこに、さっき話したフリーダさんの件と重なる。
フリーダさんの事の経緯を話し、そのために馬車馬と、食料などの物資を使ってもいいかと話すと。
「うむ、構わんぞ」
あっさり許可が降りた。まぁアンドリューさんのことだから、二つ返事で了承してくれるとは思っていたが。
「しかしそうなると、最低一人はフリーダ殿下と国境線に向かうことになるな」
アンドリューさんは懸念点を挙げた。
急用があると言う名目がある以上、馬と一緒に帝都を出て、すぐに帰ってきて、しかも馬がいなくなっているとなれば、確実に怪しまれる。
「では、ここは私がフリーダ姉様と国境線に向かいましょう」
すると、アイリスが挙手してくれた。
「私なら乗馬の経験もありますし、ショーンさんに事を伝えて、フリーダ姉様を国境線に送り届けたあとは、真っ直ぐ帰るだけですから」
あ、でも、と視線を彷徨わせると。
「……その、せめて身体を洗ってからでも、よろしいでしょうか?」
フリーダさんが待っているので長風呂は出来ないが、せめて身体を洗って流すくらいはしたいと言うアイリス。それくらいならいいだろう。
今が昼過ぎで、アイリスが身体を洗っている内に二人分の手荷物や食料を手配すれば、帝都を出立するのは夕方頃になる。
そうなると最低一晩は野宿が必要になるから、その分の準備も必要になるな。
「うむ、早く行ってこい。リオ、シャルル、帰ってきて早々で悪いが、お前さん達にも準備を手伝ってもらうぞ」
「了解です」
「あたしも身体洗いたいんだけど……ま、後でいっか」
シャルルは若干不満だが仕方ない、もう少しだけ我慢してもらう。すまんな。
アイリスが宿屋の浴場で身体を洗っている間に、アイリスとフリーダさんの二人分の旅支度の用意を整えていると、シャオメイが。
「隊長サンからお話ハ伺いマシた。今日ノ夕食に、コレを」
彼女が差し出したのは、ちょうど今作っている料理を包んでくれた物のようだ。麻袋越しにホカホカしていて温かい。
「これは?」
「『包子』デス。小麦粉で作った生地二、牛肉や玉葱ヲ包んで蒸し上げたモノになりマス」
うん?よく分からんが、ロールパンみたいなものか。
それなら手荷物の中にも入るし、手軽に食べられるからちょうどいいか。
俺達にも今晩にそれを用意してくれているようだし、楽しみだ。
「騎士団長サン、なんだカ大変そうデスし、コレを食べて少しデモ元気にナッテくれればト」
「手間かけて悪いな、ありがとう」
シャオメイはフリーダさんと会ったことは無いだろうに、気を遣わせてしまったな。この事はアイリスに伝えてもらおう。




