146話 ギブアンドテイク
「――と言う経緯があり、リオ殿を押し倒したことに関しては、全く記憶がありません……ッ」
ぷるぷると羞恥心に身震いしているフリーダさん。
「リリナちゃんが、そんなことを……」
アイリスは、リリナとか言う第三皇女とも顔見知りのようだ。この分だと、第一皇女のレウィシアさんとも顔見知りか。
「確かに、リリナとは隔たりがあるような関係だったけれど、だとしても互いに邪険にしない程度には……と思っていたのに」
嫌なことを話させたためか、フリーダさんの顔が曇る。
決して仲良しとは言えないが、険悪と言うわけでもない程度には良好な関係だった義妹に裏切られたんだ。憤りもあるだろうが、それよりも落胆の気持ちの方が強いだろう。
「何だってのよそのリリナって娘!いくら腹違いだからって、お姉さんを殺そうとするなんて!」
むしろ憤りを露にしたのはシャルルの方だった。
「世の中、親兄弟に会いたくても、もう二度と会えない人だっているんだってのに……ッ」
シャルルのその言葉は、俺に深く刺さるものがある。
孤児院育ちで、親代わりの院長や弟妹同然の孤児達はいても、血の繋がりのある肉親の顔すら知らないんだ。シャルルにとって、リリナ第三皇女のやろうとしたことは、到底許せることではないだろう。
「ともかく、フリーダさんの経緯は分かった。で、このまま俺達と一緒に帝都に戻るわけにはいかないと」
妹に命を狙われたんだ、そんな場所へ戻ろうものならすぐさま帝国の兵士に捕まっておしまいだ。
「そうですね……せめて馬があれば、国境線に詰めている兵達に事情を説明し、匿ってもらうことも出来るのですが」
国境線と帝都の距離は徒歩で三日半ほどだが、馬を飛ばせば日が暮れる前に着くことが出来る。
先にもフリーダさんが話したように、下手に村や町に匿ってもらおうとすれば、リリナ第三皇女の刺客に狙われる可能性がある以上、帝都から距離があり、なおかつ帝国兵の詰所がある場所が一番安全だろう。
「馬、ですか……しかしフリーダ姉様、それを調達しようにも、どこかの町に立ち寄る必要がある以上、リリナちゃんの刺客に狙われないとも限りません」
アイリスが懸念を挙げた。
「なら、私は町の外で……いえ、私が外部の協力者に頼んで物資を調達することも、恐らく読んでいるかもしれないわ」
仮にフリーダさんに町の外で待ってもらい、俺達が馬を調達したとしても、「誰かが馬を購入した」と言う事実を刺客が目敏く見つけ、そこを付け狙ってくるかもしれない、と言うことか。
刺客に狙われずに馬を調達し、フリーダさんに届けるには……
「………………俺達の商隊の、馬車馬ならどうだ?」
妙案を思い付いた。
三人の視線が俺にも集まるので、フリーダさんと目を合わせて。
「今、俺達は帝都に腰を落ち着けていますし、当然馬車もそこに置いています。帝都の内側からなら、まさかそこから馬や物資を調達するとは思わないかと」
「なるほどね、敵の懐が一番怪しまれないってことだっての?」
シャルルが俺の言いたいことを代弁してくれた。
「そうだ。俺達商隊の中で、誰かが「隣町に急用がある」とかなんとか言って、馬車馬と一緒に門を出て、門番の目の届かないところまでフリーダさんと合流して、そのまま国境線に向かってもらう……これなら、自然な流れで馬を持って帝都の外に出られると思うんだが、フリーダさんはどう思いますか?」
「しかし、良いのでしょうか。これは私の問題、リオ殿達の手を煩わせるわけには……」
前に"若返りの薬“を求めていた時もそうだったが、自分一人じゃにっちもさっちもいかないってのに、変なところで生真面目だな、この人は。
「フリーダ姉様、無関係な他人を巻き込みたくないと言う、そのお気持ちはご立派ですが、困った時はお互い様です。私達にも、手伝わせてください」
「そうそう。それに、見返りがどうとかも考えなくていいっての。困ってるんなら、「助けて」って言って、頼ってくれるだけでいいんだっての」
アイリスもシャルルも、フリーダさんを助けることに何の疑問もない。
「アイリス……シャルル殿……」
ぱちくりと目を白黒させるフリーダさん。
「ま、そう言うわけです。乗りかかった船だ、出来る限りのことはしますよ」
最後に俺がもう一押し。
ややあって。
「ありがとうございます、お三方。この御恩は、必ず形にしてお返し致します」
「そんな、頭をお上げください、フリーダ姉様」
深々と頭を下げるフリーダさんに、アイリスは慌てて頭を上げさせる。
しかし、ゼリウス伯爵の野望 (仮)の阻止と、戦争回避のために尽力している上からフリーダさんを人助けか、なかなか忙しいことになりそうだ。
あっ……そうだ、国境線に向かうなら『ちょうどいい案件』があるじゃないか。
「フリーダさん、国境線に向かうついでに、ひとつ頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」
「私に出来ることであれば、何なりと。少しでも御恩を返させてください」
ギブアンドテイクと言う形なら、互いに頼みやすくなるのもあって、フリーダさんはイキイキと頷く。
「して、リオ殿。頼みたいこととは?」
「魔法薬師のショーンさんに、頼んで欲しいことがあるんです」




