143話 ポンコツフリーダさん
もうしばらくして、シャルルも山菜を抱えて拠点に戻ってきたので、早速調理開始だ。
と言っても、肉や山菜を一口サイズに切り分けたものを鍋に放り込んで煮込み、灰汁を取ったら適当に味付けをして、もう少し煮込んだらハイ出来上がりの、簡単料理だ。
シャオメイがいればもっと手の込んだ美味しいものを用意してくれるだろうが、贅沢は言わない。
「ごめんねー、時間かかっちゃった上にあんまり質のいいの採ってこれなくて」
シャルルは申し訳無さそうにそう言った。
風土悪化や異常気象が長く続いてきたこともあって、安全に食べられるものを見つけるのに少し苦労したらしい。
「大丈夫ですよ、私はそんなにたくさん食べられませんし、量的にはむしろちょうどいいくらいかと」
「それに、フリーダさんが起きてきたら食べるだろうしな」
三人分を想定して用意したが、もしフリーダさんが起きてきたら、彼女にも分けられる程度の量もある。
深皿に盛り付けて、それではいただきますと言うところで。
「ん、んんぅ……っ?」
もぞもぞと物音と、簀巻き状態のフリーダさんの声が聞こえてきた。気が付いたらしい。
「あ……フリーダ姉様が気が付いたみたいですね」
アイリスは食事の手を止めて、簀巻きフリーダさんに近付き、屈んで目の高さを近付ける。
「おはようございます、フリーダ姉様。寝ている間に簀巻きにされたご気分は如何でしょうか?」
あ、これアイリスめっちゃキレてる時の声色だ、さっきも聞いたから分かる。
「ア、アイリス……?んん……?私、何を……って、えぇっ!?」
するとフリーダさんは、今の自分が簀巻きにされていることに気付いた。
「こっ、これは一体……!?アイリス!どう言うつもり!?」
「どう言うつもり?それは私の台詞ですよ、フ リ ー ダ 姉 様 ?」
「ヒュッ」
フリーダさんがビビるほどの怒気。
「近衛騎士団団長とあろう御方が!いいえ、帝国の第二皇女とあろう御方が!裸になってリオさんを押し倒して!何を……いえ、"ナニ“をするつもりだったのですかッ!!」
「はっ、はだっ……!?え、待って?と言うことは私、今もしかして……」
「えぇ、下はともかく、上は何も着ていませんよ」
「いやああああああああああ!?」
ばふんばふんごろんごろんと芋虫のように暴れるフリーダさん。この間会った時とキャラが違いすぎる……この人こんなポンコツだったか?
ともかく、どうやらフリーダさんは正気に戻っているようなので、男である俺がテントの外に出てから、簀巻き状態から解放して、脱ぎ散らかしたインナーやら装備を着け直してもらって。
もう入って大丈夫とシャルルに呼ばれて、テントの中に入ると。
「申し訳ありませんでした!私としたことが、リオ殿になんて不躾なことを……ッ!」
開幕一番、フリーダさんが見事な土下座をキメてきた。
「あーもー、そんな土下座なんてやめてください。怪我したわけじゃないんだし、仮にも皇女様がそんなことしないでくださいよ」
ちょっと怖かったと言うか、驚いただけだし。
それよりも、と。
「腹減ってますよね?こんなもんで良ければ、一緒に食べませんか?」
鍋に残った水炊きを指す。
「いえ、そんな私は、」
ぐぅぎゅるるる……
今の音、明らかにフリーダさんの方から聞こえたな。
「は、い、今のは……」
「はいフリーダ姉様、どうぞ」
顔を真っ赤にしつつもフリーダさんが慌てて弁解しようとしている間にも、アイリスは深皿に水炊きの残りをよそって差し出す。
「う……じ、実は、二日ほど何も食べていないのです……いただき、ます」
躊躇しながらも、深皿とスプーンを受け取るフリーダさん。
二日も何も食べない、と言うか食べられない状態だったのか。そりゃ腹の虫が暴動を起こしもするわ。
いただきます。
具をスプーンで掬って、一口。
うん、ウロロフスの肉も山菜もいい感じに柔らかく煮込まれてて、旨い。シャルルは「あまり質のいい山菜が採れなかった」と言っていたが、そう言うほど特に気にならないな。
「うぅ……三日ぶりのまともな食事です……ッ」
「お肉と山菜を切って、鍋で煮込んだだけですよ、姉様」
涙を流して喜ばん勢いで、フリーダさんは味わっている。
そんな大袈裟な、と言いたいところだが、二日近くも何も食べていなければこうもなるだろう。
あっという間に食べ終えて、ごちそうさまでした。
腹も満たせて落ち着いたところで……フリーダさんの事情聴取だ。
「さてフリーダさん。バビロード登山道の山頂町で俺達と別れてからの経緯を話してくれますか。話せる範囲だけでもいいですから」
俺を押し倒したことはともかく、二日も何も食べられないような状態だったなど、普通ではない。
それに、アイリスの推測が正しいのなら、少なくとも国境線を越境してから、帝都にも帰還していないはずだ。
その質問を受けて、フリーダさんの目が真剣なもの――騎士団長としての目になる。
「そうですね……その前にまず、リオ殿と、そちらの……シャルル殿でしたか?今の帝国の、それも後宮内部のことについて触れなければなりません。少し長くなりますが、構いませんか?」
俺達三人ともこくりと頷いて是正してみせたのを見て、フリーダさんはここ数日……厳密には、帝都から登山道の山頂町に赴く直前までのことを話し始めた。




