140話 マヌアコングを狩れ!
水源地。
帝都から比較的近い位置にある狩り場で、帝都出身の冒険者が初めて依頼を受けると同時に最初に赴くことが多いらしい。
王都の平原と比べても広く、水源地と言うだけあって水辺が多いためか、植生物も多種多様。
……が、昨今の風土悪化や異常気象もあって、川の水は濁り、所々で毒素が発生しているのか、濁った紫色に変色した植物も見られる。
これは酷いな、風土悪化や異常気象の影響がここまで進んでいるものなのか。
拠点で一度休憩し、アイリスとシャルルは消臭剤が一定数あるかを互いに確認し合い、それから出発しようとするのだが、その前に。
「……早く終わらせたいなら、三手に分かれるか?」
三人固まって動くのではなく、それぞれ単独行動にするべきかと提案する。
カバーしてくれる味方が近くにいないので、相応に危険は伴うが、同時に討伐対象との戦闘回数も減る。
どっちが個々人への負担がかかるか、一概には言えないが、手早く終わらせるなら分散した方がいいだろうし、手早く終わればその分の負担も減る。
「三手に……と言うより、二手に分かれましょうか」
俺の提案にアイリスが意見し、
「うん。あたしとアイリスの二人と、リオ単独でそれぞれ分かれるってことで」
シャルルが仕分けを決める。
「まぁ、銀級が一人と、赤銅級が二人なら、それでバランスも取れるか」
それなら……
「双方のノルマは、マヌアコングを十頭ずつ討伐だな。十頭討伐したら、後は拠点で落ち合うって形でどうだ?」
「了解しました」
「はーい」
と言うわけで、俺は林道から、二人は川沿いから、それぞれ分かれてマヌアコングの討伐に赴く。
何故二人には川沿いから探索を始めてもらったかと言うと、マヌアコングは猿型……つまりは、水辺よりも木がある方に棲息しやすいだろうと考えたからだ。
水辺の方に足を伸ばしている個体もいるだろうが、いたとしても三、四頭も同時に出会すことはないはずだ。
とは言え、元々は親玉に統率されていた群れの残党だ、ギルドの調査隊の予測を超えた動きなど普通にあるだろうし、油断せずに行こう。
林道に入ってすぐに、それらしい姿を発見。
緑色の毛並みに、丸々太った腹部、細長い尻尾、鋭く長い爪。
アレがマヌアコングか。
数は二頭。片方は呑気に仰向けで昼寝し、もう片方は自生していたものを集めたのだろうキノコを食べており、こちらに気付く様子はない。
ここは少し迂回して、昼寝している奴から攻撃して先手を取るか。
林に紛れて進み、ぐーすかぴーと昼寝しているマヌアコングの近くにまで回り込みつつ近付き、もう一頭はまだキノコに夢中のようだ。
ロングソードを抜き、昼寝しているマヌアコングの頭側に回り込んで、
「ふっ!」
両逆手に持ち替えて、まだ眠っているマヌアコングの顔面にロングソードを勢いよく振り下ろす。
眉間を貫き、脳にまで到達したか、短い断末魔と共に、マヌアコングは白目を剥いて息絶えた。俺に討たれたと言う自覚がないままに死んだだろうな。
その短い断末魔が聞こえたのか、キノコを食べていたマヌアコングが慌ててこちらに振り向き、同胞が俺に狩られているのを見て、威嚇のために後ろ二本脚で立ち上がり、身体を振るわせながら、ヴォホォォォォォッ、と鳴き声を上げる。
威嚇を終えるなり、ナックルウォーク――前肢を地面に置いた四足歩行に戻り、ドスドスと足音を立てながら突進してくる。
が、遅い。
【タイム連打】を使うまでもない、突進を躱しつつすれ違い様にロングソードを一閃、緑色の毛皮を斬り飛ばす。
マヌアコングはすぐに振り向いて、前肢の爪を振り回してくるものの、如何せん動きが緩慢だな、爪を躱し、下から顎を斬り上げて、仰け反ったところに、軸足を入れ換えつつ流れるように首筋にロングソードを突き立てて、撃破。
オーク並みにタフと言っても、油断しなければこんなところか。
魔石や爪、毛皮などを剥ぎ取ってから、さらに林道を進んでいく。
それから、水辺から遠ざかるように道なりに林道を進みつつ、マヌアコングを間引きしていく。
怪我をするようなこともなく、時折フンや放屁を喰らいそうになったが、いずれも危なげなく討伐。
いくら消臭剤があるとは言え、悪臭攻撃は喰らわないに越したことはない、アイリスとシャルルから「臭い」と煙たがられるのも嫌だしな。
ロングソードの一閃がマヌアコングの胴体を肩口から深く斬り裂く。
十頭目。俺のノルマはこれにて達成だ。
剥ぎ取りで入手した魔石はちゃんと十個あるし、爪や牙、毛皮などもそれなりに揃ったので、ギルドに提出すれば纏まった小金になるだろう。
アイリスとシャルルの方は大丈夫だろうか、と水辺の方角を見やる。
まぁ、向こうは二人いるし、悪臭攻撃を警戒しつつも安全第一で動いているだろう、そこまで心配することはないか。
さて、拠点まで戻るとしよう。
拠点まで戻ってきて。
テントから物音が聞こえないところ、アイリスとシャルルはまだ戻ってきていないようだ。
休憩しつつ撤収準備を進めておこう、と思ってテントに入ろうとしたら、
テント内の簡易ベッドの上に、人が寝転んでいる……と言うより、倒れ込んでいる、と言う方が正しいような状態で横たわっていた。
アイリスでもシャルルでもない、長い黒髪に青緑色のマント、白銀の甲冑……まさか?
「フリーダさん……!?」
どうして彼女がここに!?




