139話 各々の仕事へ
翌朝。
昨夜に話し合った内容を、アンドリューさんにも共有しようと思ったら、
「ぐごぉぉぉぉぉ……ぐがぁぁぁぁ……」
おもっくそ二日酔いになって寝てた。
帝都の知り合いのバーにでも行って、飲み明かしてきたんだろう。全くこの人は……長旅でのんびり酒を飲むなんて出来なかったからと言うのは分かるが。
「……ダメです、完全に泥酔しています。全く起きる気配がありません」
アンドリューさんを【鑑定】したエトナが、起こしても起きる見込みが全くのゼロであることを伝えてきた。
「ネオライトの時ト同じですネ……」
商隊入りのための面接を受けていた日のことを思い出しているシャオメイ。二日酔いの頭で面接して大丈夫だったのか?大丈夫だったんだろうが。
「昨日にワタシを言いくるめた方とは思えない体たらくぶりですねぇ……」
怪盗ハートクイーンは、フード越しにアンドリューさんの酔っ払いきった姿を見て、苦笑してそうに見える。
「まぁ、このまま寝かせておこっか。お昼には起きてくるでしょ」
ここでアンドリューさんを起こすことを即座に諦めるリーゼさん。大事な話をしようって時に、二日酔い頭では考えられるものも考えられないだろうしな。
と言うわけで。
俺、アイリス、シャルルの三人は近場の依頼を受けつつ情報収集。
リーゼさんとエトナは都内の図書館で聖女伝説関連――厳密には邪龍ダンケルハイトに関する情報収集。
シャオメイは商業区にて食材の買い出しと、市民からここ最近の帝国についての聞き込み調査。
怪盗ハートクイーンはまだ傷が塞がっていないので養生、ムイはその看病及び話し相手だ。
朝一番で俺達が受けたのは、『マヌアコング』二十頭の討伐依頼だ。
マヌアコングと言うのは、緑色の毛を持つ太った猿に似た姿を持つ小型の魔物で、基本的に帝国領内にしか縄張りを持たないため、王国領では見られない。俺は魔物図鑑で存在自体は知っていたから、知識だけはある。
小型の魔物としてはオーク並みにタフな上に力も強く、太っている割りに動きもそれなりに素早い。
それに加えて……あまり言いたくはないんだが、フンを投げてきたり、放屁――ようはオナラを浴びせつけてくるような攻撃もしてくるらしい。
このフンや放屁による攻撃が、冒険者達から大変忌み嫌われており、衣服や装備などに臭いが付着しようものなら、専用の消臭剤を使わないと落ちないレベルでしつこい上に、とんでもなく臭い。
俺の口からマヌアコングの生態を聞かされたアイリスとシャルルは、真顔で他の依頼にしようと提案してきたが、近場ですぐに行って帰ってこれる軽めの依頼がこれしか無かったのだ。
なんでも、奴らのボスである『キンファコング』が討伐された関係で群れが統率を失い、その中でも規模の大きい残党の掃討が、今回の間引き依頼に繋がったと言うわけだ。
既に街道にも姿を見せており、通行人にフンを投げ付けたり、屁をかましたりして迷惑をかけているらしい。
そんなわけで仕方なく、本当に仕方なく、渋々と、本当に渋々と、二人も依頼についてきてくれた。
出立前にギルドストアで、買い占めん勢いで大量の消臭剤を買い込むことになったのは、まぁ大目に見てやろう……
「シャルルさん、速攻で終わらせて早く帰りましょう。そして帰ったらすぐにお風呂です」
「あたしも同感だっての。ちょっと汗臭いぐらいならいいけど、フンとかで汚されるのはほんっとにイヤ」
出立して、目的地である水源地に向かっている間も、二人は据わりきった目でそう話し合っている。怖いぞ。
「二人とも、いくらなんでも警戒し過ぎだ。油断していいわけじゃないが、張り詰め過ぎても余計に疲れるだけだぞ」
特にアイリスに至っては、ネオライト近くの廃坑で初めてオークを相手にする――「オークは野蛮で好戦的、女性を捕えて孕ませる」と言う誤った認識を持っていた――時と同じ……いや、それ以上に警戒しまくっている。
フンや屁を浴びせつけられるより、捕まって凌辱された挙げ句孕まされる (多大なる誤解)方がよっぽど実害が大きいと思うんだが……多分そう言う問題じゃ無いんだろう。
いいからちょっと落ち着け、と言おうとしたら、
「いいえリオさんは何も分かっていません!女性にとって異臭や悪臭は天敵っ、あってはならぬ概念ですッ!!」
「そうだっての!血腥いのは冒険者だから仕方無いけどっ、それとこれとは話が別!察しろってのッ!!」
殺意すら込められてそうな目で、アイリスとシャルルに詰め寄られてしまう。こえーよ。
「わ、分かった、分かったから。出来るだけ早く終わらせて帰ろう、な?」
とりあえず頷いて同意して見せる。
変に意見したら本気で怒らせてしまいそうだ……
分かればよろしい、とアイリスとシャルルは息を吐き出して落ち着く。
この、怒りと敵意全開の二人を相手にしなければならないマヌアコング達が不憫でならない。同情はしないが。
そろそろ、目的地の水源地に着きそうだが……いかん、なんだか胃が痛くなってきた……
マヌアコング達よ、間違ってもこの二人にフンや屁をしないでくれよ。……後で (主に俺が)困るから。




