137話 獄龍珠の対抗策
すると、エトナの方も水晶玉の【鑑定】が終わったようだ。
「……鑑定結果。この水晶玉は、獄龍珠の失敗作のようですね。」
獄龍珠の失敗作。
ムイが言うには、机の上に似たような水晶玉がいくつもあったそうなので、その複数の失敗作のひとつをパク……持ち帰ってきたわけか。
「すみません……完成品を持ち帰ることが出来れば良かったんですけど……」
しゅん、と落ち込んでしまうムイ。
「うぅん、むしろよく頑張ってくれたよ、ムイちゃん」
するとリーゼさんはムイを褒めた。フォローや慰めのためではない、もっと実利的な理由だ。
「獄龍珠の製法が、この書類に記載されているんだけど……私が読んでみた感じ、その"真逆“の物を作ることも出来ると思うの」
「真逆?リーゼさん、それは一体?」
獄龍珠の真逆と聞いて、どう言うことかとエトナは訊ねる。
「獄龍珠が魔瘴液の上位互換だとしたら、魔素を放出して対象の魔力を急激に増幅させ、しかも使役……うぅん、この場合はむしろ"洗脳“と言う言葉の方が正しいかもしれないね」
つまり、理性の箍を外させて正気を失っている相手を洗脳して言うことを聞かせるのが、獄龍珠の本質ってわけか。
それを普通の魔物じゃなくて、お伽噺の存在に使おうって言うんだ、ゼリウス伯爵の頭も相当イカれてやがるな。
「真逆の物って言うのは、魔素の浄化……つまり、獄龍珠によって無理矢理増幅させられた魔力量を、元に戻すための力を持つ水晶玉が作れるんじゃない?ってこと」
なるほど、魔素を打ち消すための力を込めた水晶玉を作れないか、と言いたいわけだ。
「ふむ……リーゼ女史。ワタシは魔法や魔術にはそんなに詳しく無いのだけど、理論的には十分実現可能な対抗策だと思いますよ」
アンチ獄龍珠とも言うべき対抗策を挙げるリーゼさんに、便乗する怪盗ハートクイーン。
「ようは、基本的な製法は獄龍珠と同じで、水晶玉に込める力を変えればいいと言うわけでしょう?尤も、それも決して簡単なことではないだろうけど、仕組み自体は単純だ、不可能ではない……そうですね?」
「そう、ハートクイーンさん正解。火事に対しては大量の水による勢いで一気に消してしまう方が簡単で効果的なのと同じだからね」
肯定するリーゼさんだが、「ただ……」と言葉尻が沈む。
「無機結晶物質の中に魔力を込めるって言うのは、言葉で言うほど簡単じゃないの。確かに魔力貯蔵量に優れてはいるけど、非常に繊細で緻密な、魔力コントロールが出来る人じゃないと、かなり難しいかな」
「え、リーゼさんってエルフなんでしょ?出来ないんですか?」
シャルルが純粋に疑問を投げ掛けた。
それに対する答えは、
「私の場合は、自分が持っている魔力を、闇属性や氷属性に転用する力には優れていると自負しているんだけどね……こう言うのは、土属性の扱いに優れた人の方が得意かな?」
むしろ私は獄龍珠を作る方が向いているかも、と言うリーゼさん。
エルフなら魔法や魔術関係は何でも出来ると言うわけではない、向き不向きはあると言うことか。
「そっかー……」
「期待に添えなくてごめんね、シャルルさん」
土属性……と言うか、繊細かつ緻密な魔力コントロールが出来る人か。
俺やシャオメイ、怪盗ハートクイーン、アンドリューさんは門外漢だし、アイリスやシャルルは自分の得意な属性のことしか出来ない、エトナやムイは分野が異なるし、リーゼさんでもかなり難しいと来た。
獄龍珠への対抗策、理論上は可能だがそれを実行出来る人がいない。
……一人だけ、心当たりがあるとすれば、
「・・・ショーンさんなら、出来るか?」
俺の声に、みんなの視線が集まる。
「ショーンさん、と言うと。フリーダ姉様と話していた、エルフの魔法薬師の方ですよね?」
直接的ではないが、フリーダさん越しに関わりのあったアイリスがその名前と肩書きを覚えていた。
「そうだ。魔法薬を作れるくらいには、魔力制御が出来る人なんだ。事情とその用途を話せば、やってくれるんじゃないかって思うんだ」
他に出来る人を知らないから、ほぼ消去法に近いが、リーゼさん以外で出来るかもしれない人は、ショーンさんしか知らない。
「ですケド、専門外のことでショウし、お願いシテもやってクレるでしょうカ?」
知識があっても、実行可能であっても、無責任なことは出来ないとして断る可能性もある、とシャオメイは言う。
造船所で船を造る技師に、航海士と同じことをやれと言っているようなものだ。船の造りには詳しくても、実際に海に出て正確な航海が出来るとは限らない。
「そこはアンドリューさんの口から"お願い“すれば、何とかなるだろ」
無茶振りを可能にさせるのは、あの人の得意技みたいなものだからな。
――多分、今アンドリューさんはでかいくしゃみをかましたかもしれないが。
獄龍珠対策の件は、アンドリューさん経由でショーンさんに丸投げするとして。
明日からはどう動くべきか、みんなで額を突き合わせて話し合っている内に、ムイが寝落ちしてしまったのを見て、もう日付が変わっていたので、いい加減に消灯、就寝にかかった。




