136話 しょーもない野望
そろそろ就寝と言う時間帯になって、ムイが帰ってきた。
怪しげな色彩を放つ水晶玉と、書類の束を手にして。
「まずは皆さま、落ち着いて最後までムイのお話を聞いてくださいませです」
至極真剣な顔で深呼吸を繰り返してから、ムイは報告を始めた。
その内容を簡単に纏めると。
・伯爵邸の執務室か、もしくは書斎、そこの一番奥の本棚の一つが、地下室へ続く隠し扉になっていたこと。
・地下室では、怪しげな実験室のような場所であり、変な色の水で浸した硝子張りの容器にエルフが閉じ込められて眠っていた。しかも、ズラリと壁中に。
・その地下室にいた、ゼリウス伯爵と思われる金髪男性と、研究者らしき男の話を盗み聞きした。
・聞いた感じだと、ごくりゅうしゅ?なるものを使って、邪龍ダンケルハイトを従わせて、王国の聖女と聖龍アウラオーレを滅ぼすつもりらしい。
・持ち帰ってきた水晶玉と書類は、近くにあったからとりあえず持ち帰ってきたきただけで、内容は確認していない。
「――い、以上ですっ」
緊張に息を切らしているムイを落ち着かせて。
「やっぱりロクでもないことを企んでいるようだね、あの成金頭」
話の終わりを見て、真っ先に怪盗ハートクイーンが口を開いた。
「けれど、ハッキリしたことがひとつある。……奴隷を大量に購入したと言う話ですよ」
奴隷の大量購入と、今のムイの話がどう繋がるのかと言うと。
「……そうかっ、その大量に購入した奴隷って言うのは」
「そう。地下室の壁中に並べられていたと言う、多数のエルフ。それが、購入した奴隷の正体のようですね」
いくら奴隷だからって実験動物みたいに扱ってたって言うのか、いくらなんでも酷すぎる。
「なら、その地下室でおこなわれていた非人道的な実験を理由に、騎士団に通報すれば……、……いえ、実験に使ったのが奴隷なら、罪にはなりませんか」
アイリスは自分の意見を挙げて……いく内に、それが無意味であることに気付いた。
基本的に、奴隷に人権はない。
購入者の"所有物“と言う扱いになるからだ。
購入者が奴隷を"壊した“ところでそれは購入者の自己責任であり、他者がその奴隷を"壊した“としてもそれは殺人ではなく、"器物損壊“と認定されてしまう。
エルフを使った非人道的な実験がどうのこうので、その地下実験室に騎士団を向かわせても、それを罪に問うことは出来ないので、それでは意味がないし、足が着いてしまった時点で、研究者達も地下実験室からさっさと引き上げるだろうから、そこはもぬけの殻にしかならない。
「怪しいけど罪には問えない、かぁ……」
「モドカシイ、ですネ……」
シャルルとシャオメイがそう言っている傍らで、エトナは水晶玉を【鑑定】し、リーゼさんは書類を読み込んでいる。
「……獄龍珠。これを読んだ感じ、人工的に結晶化させた魔瘴液の塊みたいなものだね」
魔瘴液の結晶体?
確か、魔瘴液がそもそも、エルフやハーフエルフの血液に、ガス化した魔素を浸透させた秘薬……と、前にエトナが【鑑定】してみせていたな。
その塊って……ようするに、『徹底的に濃縮された魔瘴液で出来た物』ってことか?どんだけヤベー代物なんだよ。
「使用用途は……邪龍ダンケルハイトに高濃度の魔素を浴びせつけて、使役させる?」
思わず耳を疑った。リーゼさんは目も疑っただろう。
「リーゼさん、邪龍ダンケルハイトって、聖女伝説で、聖女マリアンヌと聖龍アウラオーレに敗れて、封印されたって話じゃ?」
この間、フリーダさんから聞かされたお伽噺の内容を思い返す。
確か……ソンブルーヨ島とか言う場所に封印されたとかなんとか言ってたはずだ。
「そうだよ。どうもこの書類の内容を見る限り、邪龍ダンケルハイトの封印を解く前提……と言うか、封印を解くための手段は既に確立してる感じだね」
「邪龍の封印を解く!?」
アイリスが思わず腰を浮かせる。
「んー……邪龍を復活させて世界征服するのは分かったけど、それだけならわざわざ帝国と王国に戦争をさせる必要無くないっての?」
ふと、シャルルから指摘が入った。なんだちゃんと真面目に考えてるじゃないか。
「帝国と王国に戦争をさせるのは、闇ギルドが両国に武器を売り付けて、軍資金を得ようとしているのではないか、と言う仮定のままですが……」
邪龍の復活と両国の戦争勃発、その最終目標が結びつかない、とアイリスは言う。
この二つに繋がりがあるとすれば、どんな理由や目的がある……?
「……金儲けのためじゃなくて、『共倒れを狙っている』のかな?」
ふと、リーゼさんがそう呟いた。
同時に――闇ギルドの連中の独り勝ちか?と言うアンドリューさんの推察が脳裏を過る。
それはつまり、経済的な意味ではなく……
「はっはぁ……話の大筋が見えてきましたね。ゼリウス伯爵は、邪龍ダンケルハイトの封印を解き、その獄龍珠とやらを使って従わせて、王国の聖女と聖龍アウラオーレを滅ぼす。そして、泥沼化した戦争によって、帝国も王国もボロボロになっているところに、世界の主導権を自分が握って世界征服……と言うところですかね?」
怪盗ハートクイーンが大雑把ながら、闇ギルド及びゼリウス伯爵の最終目標を仮定した。
そんなしょーもない野望のために父様を殺したのかあの成金頭は、と歯軋りをしている辺り、かなり怒っているようだが。




