135話 スニーキングミッション
隊長さまの特命を受けて、ムイは今夜、ゼリウスさまと言う伯爵のお屋敷への潜入任務です。
普段は商隊の雑用や炊事、時には予備戦力として、『皆さまが普段していることのお手伝い』しか出来ないムイですが、今回初めて『ムイにしか出来ないこと』を任されたのです、気合が入ります、むんっ。
伯爵のお屋敷の場所は、事前に怪盗ハートクイーンさまが教えてくれたので把握済みです。
スライムの姿で、暗闇に紛れるようにこそこそと伯爵のお屋敷を目指します。
伯爵のお屋敷に到着しました。
ですが、正面玄関には強そうな門番さんが二人も立っています。
もちろん、ムイが思い切り体当たりをしたり、ファイアボールを撃ち込めば、二人ともやっつけられますが、それだと騒ぎになってしまい、任務失敗です。
なので正面は避けて、敷地の裏側に回り込みます。
塀を越えるにはスライムのままでは無理です、一度人間の姿に戻って、手足を使ってよじ登ります。
無事、塀を乗り越えたら、どこからならお屋敷に入れるかと探して……通気口を見つけました。
人間の姿では無理でしょうけど、スライムの姿ならなんとか通れるはずです。
スライムの姿になって、出来るだけ身体を小さくして通気口の中に入ります。
通気口の中は暗くて狭くて埃っぽいですが、ムイにはこの潜入任務をやり遂げなければならない責任があります、我慢して進みます。
広間、厨房、個室、浴場……それぞれに繋がった通気口から出てきては、何か変わったものは無いかと探して回っていきます。
すると、屋敷の奥の方にあるお部屋に着きました。
ここだけ他のお部屋と比べても豪華で、庶務室か応接室でしょうか、本や書類などもたくさんありそうです。
人気が無いことを確かめてから、お部屋に降りて、お部屋の鍵が掛かっていることを確かめます。
つまり、ここのお部屋の主さまは留守にしており、部屋に入るには鍵を開ける必要があるので、もしガチャガチャと言う音が聞こえたら、すぐに通気口に逃げ込めばバレないはずです。
人間の姿になってから早速あれこれ探り始めます。本のページを捲るなら、人間の指が役に立ちます。
見られたら微塵も言い訳できない状況ですが、恐らくきっと多分大丈夫です、はい。
最初、商隊の契約書などは読めなかったムイですが、旅の途中でアイリスさまやエトナさまに文字の読み書きについてご教授いただいたので、なんとか読めます。
色々と見て回りましたが、怪しそうな本は見つかりません。やっぱり決定的な証拠になりそうなものを、見つかるような場所には置いていないのかもしれません。
いいえ、弱気になるのはダメです!
ムイはこの潜入任務を任されたのですから、何の成果もありませんでしたでは、達成出来たとは言えません。
怪しそうな本……怪しそうな本……
……あれ?
何でしょう、この本棚だけ他の本棚と違って、不自然な隙間があります。よく見ないと分かりませんけど、ドアの隙間くらいの……あっ、この本棚、もしかして。
そっと本棚を前に押してみると、押したところの本棚が壁の奥に沈み込みました。
やっぱりこの本棚、隠し扉になっていました!
本棚の一番奥にこんな扉を隠しているなんて、怪しい匂いがプンプンします。この奥にきっと、決定的な証拠になるものがあるはずです。
深呼吸をして、意を決してスライムの姿になってから、隠し扉に入ります。ドキドキ……
そろーり、そろーりと地下階段を降りていきます。どうやら地下室へ続いているみたいです。
そして、いよいよ地下室らしい場所に着きました。何だか嫌な臭いがします。
壁中に、変な色の水を注がれたガラス張りの容器に閉じ込められたエルフさん達がずらりと並び、眠るように漂っています。怖いです。
やはりお部屋に人間が何人かいます、物陰からそっと聞き耳を立てて盗み聞きです。
「――れで、邪龍ダンケルハイトを手中に収めることが出来るんだね?」
「理論上は、です。既に大型の魔物による実験結果は出ていますが、封印されているとは言え邪龍の力は未知数、過信はなさらない方が良いかと」
金髪の男性――多分あの方がゼリウス伯爵さま――と、研究者っぽい方々が、何だか難しいお話をされていますが、内容はしっかり覚えておかないとです。
「無論だ。だが、この獄龍珠で邪龍ダンケルハイトを従わせることが出来れば、王国の聖女と、聖龍アウラオーレを滅ぼせる」
王国の聖女と、聖龍アウラオーレを滅ぼす!?
……よく分かりませんけど何と言うことでしょう、あの金髪の方は、ごくりゅうしゅ?なるものを使って、邪龍ダンケルハイトと言う魔物を従えて、王国にとって大事な人を殺してしまうようです。
早く帰ってこの事を皆さまにお伝えしなければなりませんが、何か物的証拠になる物も持ち帰らないと……
ふと、この位置から一番近い位置にある机の上に、水晶玉がいくつかと、書類の束のようなものがあります。
よし、アレを持ち帰りましょう。
まだ話し込んでいるのを確かめて、パッと物陰から飛び出して、椅子から机に登り、水晶玉のひとつを口の中に入れて、書類の束を咥えて、すぐにお部屋を出て階段を駆け上がります。
幸い、ムイのことに気付いた様子はなく、追い掛けてくる足音も聞こえません。
隠し扉をそっと開けて、お部屋の中に誰もいないことを確認してから入り、入ってきた通気口を通って、お屋敷の外へ出ます。
塀を越えるため一度人間の姿になって、水晶玉は服の中に入れて、書類は口に咥え直してから、塀をよじ登って。
敷地を出たら後はもう大丈夫、出来るだけ人目につかないように、宿屋へ戻るだけです。
ふぅ、これで任務達成です。ムイは頑張りました!




