134話 蠢く野心
リオ、アイリス、シャルルの三人が鍛冶屋を後にする頃を同じくとして。
帝都内にある伯爵邸。
その執務室にて、ゼリウスは密偵からの報告を聞いていた。
「例の商隊がこの都に入った?」
例の、と言うのは、件の【タイム連打】スキルを持った銀級冒険者リオや、カイツールの元ギルドマスターのリーゼ、最近知ったことだが、王国の元公爵令嬢のアイリスも所属している商隊のことだ。
「はっ。加えて、ニーリン・ガーネット元男爵令嬢らしき人物と行動を共にしている模様」
その名前を聞いて、ゼリウスは目を細めた。
「ニーリン・ガーネット、か……長らく行方不明だったが、しかし何故このタイミングで帝都に戻ってきた?」
自らの"計画“の妨げになることから、謀略を用いて、闇ギルドの構成員に金を握らせてガーネット男爵家当主のウィリアムを事故死に見せ掛けて暗殺し、一人娘である男爵令嬢のニーリンを間接的かつ遠回しに追い立て、ガーネット男爵家を取り潰すことに成功したと言うのに。
尤も、ニーリン本人ではない可能性もあると言えばあるが。
「ふむ……足跡は全て揉み消したはずだが。もしや、嗅ぎ付けられたか?」
何かしらの情報源を得て、ウィリアムを殺害し、ガーネット男爵家を取り潰しにしたのが、自分だと気付いたのか。
であれば、例の商隊に身を寄せているのは仮の宿代わりか、協力者か……懸念していた【タイム連打】スキルの持ち主であるリオと繋がりがある辺りに、疑心暗鬼を覚える。
加えて、近衛騎士団の騎士団長のフリーダもこちらを疑っている。仮に家宅捜査をされても問題ないように取り繕ってはいるが、
「じきに"計画“の最終段階に入ると言うのに、面倒なことになりそうだ……」
少々強引でもモーゼスに始末させるべきか。始末出来れば最上、最低でも計画実行までの時間を稼いでくれればよし。
「分かった。引き続き、例の商隊の動きは具に見ておいてくれ」
「はっ」
密偵に現金の詰まった袋を手渡し、それを受け取った密偵はすぐさま執務室を後にしていった。
それを見送って――すぐにまた別の密偵が入ってきた。
「報告。"獄龍珠“が完成したとのことです」
「おぉ、ようやく完成したか。……あぁ、ここに持ってこさせなくていい。万が一騎士団に嗅ぎ付けられると面倒だ。今晩、私の方からそちらへ赴くと伝えてくれ」
「はっ」
一人目の密偵と同じように現金の詰まった袋を手渡して、退室させる。
自分以外に誰もいないことを確認してから。
「もう少しだ……もう少しで、『聖女に奪われた世界』を解放することが出来る……ッ!」
その紫色の瞳には、強迫観念に似た、凝り固まった使命感に満ちていた。
その日の晩。
宿屋にて入浴と食事を終えて、ゆったりと時間を過ごし――いい具合に暗くなってきたところで。
「それでは皆さま、行ってきますです!」
窓を開けて、ムイはスライムの姿に変身すると、ぴょいんと跳ねて窓から飛び降りて行った。
もちろん落下して大怪我をすることもなく着地し、路地裏に消えていく。
「しかし驚いたね、彼女……ムイくんは、元々はスライムだったとは」
寝間着の下はまだ包帯だらけの怪盗ハートクイーンは、ムイが飛び降りて行った窓を見つめながらそう呟いた。
見た目普通の女の子が実は魔物のスライムが変身した姿でした、なんて言っても普通は理解して貰えないだろうから、ムイが変身して見せることで納得してもらったのだ。
「まぁ、ちょっと色々あって、今は同じ商隊の仲間だけどな」
【テイマー】の冒険者に捨てられた云々は、今ここで話すことも無いだろう。
「ムイちゃん、一人で大丈夫でしょうか」
アイリスも、一人で伯爵邸に忍び込みますと言うムイのことが心配らしい。
「心配は心配ですが、今はムイちゃんを信じて待ちましょう」
心配なのはエトナも同じだが、信じて待つ以外に出来ることはない。
「けど、もう夜も遅くなるし、この間の不寝番の時みたいに、途中で寝ちゃったりしなきゃいいけど」
前に、不寝番をしますと意気込んだのはいいものの、途中でギブアップしてしまった時のことを思い出して苦笑するシャルル。
「アノ時は、朝までグッスリでシタからネ」
シャオメイも同様だ。
「…………………………」
みんながムイのことを心配したり苦笑したりしている中、リーゼさんだけはずっと難しい顔をしながら何かを考え込んでいる。
「リーゼさん、何を考えてるんです?」
どうしたのかと訊いてみると。
「王国……闇ギルド……聖女……風土悪化……天体の乱れ……魔瘴液……奴隷……武力挑発……戦争……死の商人……聖女伝説……聖龍アウラオーレ……邪龍ダンケルハイト……帝国……」
俺の訊ねなんて聞こえてないように、つらつらと単語をいくつか並べているリーゼさん。
しかし、
「………………ダメ、繋がりそうなのに繋がらない。別の視点から見直さないと」
そう呟いて、またすぐさま思考に耽る。
「あの、リーゼさん?」
「……え?あぁ、聞いてるよ。リオくんが、ムイちゃんを含むこの中で、誰が一番好きなのかって話だったかな?」
全 然 違 ぇ 。




