133話 ムイにお任せあれです!
「あのー……ちょっといいでしょうか?」
すると、ムイがそろーっと手を挙げた。
「どうしたムイ、何かいい案があるのか?」
猫の手ではないが、ここはスライムの手 (スライムに手は無いが)も借りたいところだ。
「先ほどシャオメイさまが挙げられた、お屋敷にこっそり忍び込む、と言う提案なんですけど、そのお役目、ムイなら上手く出来ると思うんです」
「いや、それは騎士団の捜査でも、"黒“である証拠を見つけられなかったから、忍び込んでもあまり意味は無いと思うぞ」
リスクは高く、リターンは不明。どちらかと言えば望み薄。
しかしムイは、そこで諦めずに理由を述べる。
「騎士団の皆さまと、ムイとでは視点が違いますから、ムイなら必ず……きっと……多分、怪しい証拠を見つけられるはずです!」
必ず、きっと、多分、の部分がちょっと心配なんだが……
「それに、ムイならスライムの姿になれますから、顔が割れる心配もありません。もし見つかっても、人気のないところで人間の姿になればいいだけです」
何なら逃げ足にも自信があります、と言うムイ。
確かに顔が割れる心配がないと言う点は理解できる。
個人的には反対だが、決定権を持つのはアンドリューさんだ。
「アンドリューさん、どう思いますか?」
どうするのかとアンドリューさんに訊くと。
「ふむ……ならばムイよ、頼めるか?」
ムイに伯爵邸への潜入任務を与えた。
「だが、決して無茶はするな。少しでも危ないと思ったらすぐに逃げろ。これはオレの、隊長命令だ」
「お任せあれです!」
強い口調で命令を下すアンドリューさんに、ムイは力強く頷いた。
ムイに特命が与えられたところで、俺、アイリス、リーゼさん、シャルルの冒険者四人は、帝都のギルドで所属登録だ。
戦争阻止のために何か出来ないかと行動する合間にも、依頼を受けて帝都の外に関する情報を集めたり、帝都の冒険者との情報交換で何か分かることがあるかもしれないからだ。
大衆酒場がギルドの出張機関を兼ねているので、そこに赴く。
王都の大衆酒場と同じく、昼間から冒険者達が豪勢な食事をかっ食らいながら、酒を飲みつつのどんちゃん騒ぎだ。
それら喧騒を聞き流しつつ、受付カウンターでギルドカードを提示。
所属登録はするものの、今日は帝都に着いたばかりでゆっくり休みたいところなので、依頼は受けない。
所属登録だけ済ませたら、エトナとシャオメイ、ムイ、それとフードを目深に被って正体を隠した怪盗ハートクイーンと合流して、次は宿屋で今晩の寝床を確保だ。
居住区にあるらしい宿屋の位置を確かめつつ、鍛冶屋の場所も確認だ。この後で武器を預けに行くつもりだしな。
無事に寝床 (多人数用の大部屋と、シングル一部屋)を、それも一週間ほど借りることが出来たので、一旦荷物を下ろして。
俺はこれから鍛冶屋の方に武器を預けに行く、と女性陣六人に連絡すると、アイリスとシャルルも同じことを考えていたようで、三人一緒に鍛冶屋へ行く。
しかし……
「あー、すまんなぁ。今ちょいとデカい仕事が入っててな、そっちを優先しなけりゃならんのよ」
ガッチンガッチンと金鎚が規則正しく打ち鳴らされる中、対応に来てくれた鍛冶屋のオヤジさんは、申し訳なさそうにそう言った。
先約があるなら仕方無いが、何日かなら依頼を受けなくてもいいので、先に預けるだけ預けてもいいか。
「今日、俺達三人の武器を預けたら、受け取りまでどのくらいになりますか?」
それぞれ、ロングソード、レイピア、チャクラム双振りの三つですと答えると。
「うーん……ちょっと待ってくれ、進捗状況を聞いてくる」
そう言ってオヤジさんは工房の奥に入っていき――すぐに戻ってきた。
「最短で二週間、場合によっちゃ一ヶ月もかかりそうだ。そんなに長いこと預けるわけにはいかんだろう?」
「早くても二週間もかかるのですか?」
しかも最短で二週間だから、まず確実にそれ以上――三週間は必要だろうことに、アイリスは目を見開く。
他の依頼と並行できないほど重大な仕事があるのかと理由を訊いてみると。
「実は、兵隊さん用の武具を急いで大量に仕立て上げなきゃならんのよ。最近、国境線が物騒なもんだからそのためにとか、なんとかな」
兵隊用の武具、しかも大量に。
間違いない、戦争のために使うものだろう。
依頼したのは恐らく、普通の武器商人を装った闇ギルドの構成員か。
だが、今ここで「それは闇ギルドの連中が、帝国と王国の両方に売り付けて、戦争を泥沼化させるための物だからやめてくれ」と言ったところでそれは聞き入れてくれないだろう。
鍛冶屋からすれば、仕事はただ仕事。
オーダー通りに武具を作って、それで金をもらい、また利用してくれるならばなおよし、に過ぎないのだ。
しかも、相場通りの価格でしかやり取り出来ない普通の冒険者用の武具よりも、軍隊用の武具――さらに通常よりも高額の金を払ってもらうんだ、そっちを優先しないわけにはいかないだろう。評判にも関わるだろうしな。
「そっかー……それじゃ、今回はしょうがないっての」
明後日か三日辺りで受け取るつもりだったシャルルは肩を落とす。
「悪いな、今回はちと間が悪かったってことで、またの機会に頼むわ」
親父さんにそう見送られながら、俺達は鍛冶屋を後にしていった。




