129話 令嬢ならではの共感
「――と言ったところですね」
ポツリポツリどころかベラベラと言う方が的確なくらい、怪盗ハートクイーンは色々とヤバいことを話してくれた。
国境線で武力挑発を頻繁に行い、帝国と王国との間に摩擦を生じさせ、意図的に戦争を引き起こそうとしているのは闇ギルドの連中ではないか、と言う目測は、怪盗ハートクイーンも同じだった。
アンドリューさんは「闇ギルドの連中の独り勝ちではないか?」と言うところで止まっていたが、怪盗ハートクイーンはさらに先――「裏で帝国貴族と繋がって、自分達が世界の覇権を握ろうとしているのではないか?」と言う、"行き着く先“も予測していた。
それはそれとして、
「あんた、帝国の男爵令嬢だったんだな」
俺としてはそれが一番驚きだった。
後宮の貴族令嬢が追放されて……なんかつい最近も似たような話を聞いた気がするな。
「えぇ、そうですよ。意外だったかな?」
「意外、と言うか。私も、元々は王国の公爵令嬢でしたから」
そこに、横合いからアイリスも加わる。
「尤も、私の場合は聖女様が王国に召喚されて、濡れ衣を着せられて、第一王子から婚約破棄されて、即日追放と言う形で、両親は恐らく健在……だといいのですが」
「ははぁ、なるほど。キミも魑魅魍魎どもの手前勝手な都合で人生を狂わされたクチでしたか」
同情するよ、と怪盗ハートクイーンは溜め息混じりに頷いた。
すると……
「えぇ……えぇそうです!聖女様とご結婚したいのなら、普通に私に婚約破棄をすればいいだけですのに、何故一族郎党まとめて濡れ衣を着せる必要があるのか、理解できませんよね!?」
突然、アイリスは物凄い早口になって愚痴をこぼし……いや、吐き出し始めた。
「全くもって同意するねぇ!大体、政略結婚は国家の運営のために必要なことだと言うのに、それをいとも簡単に反故にしようとするとは、自国を滅ぼしたいのかなあの阿呆どもは!」
それに同調するかのように、怪盗ハートクイーンも早口になる。
「確かに聖女様はお優しく真面目で、それもこぢんまりして可愛らしいお方でした!ですが!私だって自分を綺麗で美しく見せようと努力はしてきましたし、自分で言うのもなんですが、美貌には多少の自信はあるつもりです!」
「かーーーーーっ、勿体無い!こんな見目麗しくおしとやかで器量良しの公爵令嬢を手離すなんて、世界の損失だね!ワタシが男ならキミのような美少女、何がなんでも妻にして一生かけて愛してあげたいですね!」
「そもそも!私の御家は公爵で!王家に古くから仕えているんですよ!?汚職や不正に手を染めていたならまだしも、何の謂れもなく濡れ衣を着せて爵位を取り上げたりしたら、他の方々が黙っているとでも思っているのですか!」
「愚かしい……実に愚かしい!今の帝国も王国も、そんな奴らばかりなのか!?自分の立場、器、目的、何も知らない阿呆どもが!さっさと破滅してしまえばいい!」
このままどんどんエスカレートしていく……かと思いきや突然、「ぐふっ!?」と怪盗ハートクイーンが苦しみだした。
「おいおい、大丈夫か?お前さんはまだ養生せにゃならんだろうに」
「うぐぐ……申し訳ない、少々熱くなりましたね……痛つつ……」
あぁ、まだ傷口も塞がりきってないのに、身体に力を入れるようなことをしたから、傷が響いたのか。
「まぁ……お前さんの事情と、その行動理念は分かった。とにかく今はゆっくり休んで、傷を治すんだ。その後のことは、それから考えればいいだろう」
「かたじけない……そうさせていただきます……」
弱々しく頷きながら、怪盗ハートクイーンはシートに背中を預けて息を吐き出す。
夕立が降り頻る中、フードを目深に被った、全身包帯だらけの紅い髪の男は、右腕を三角巾で吊りながらもしっかりとした足取りで、帝都を歩いていた。
――誰であろう、モーゼスだった。
バビロード登山道の中腹で遭遇した、怪盗ハートクイーンとの戦いで右肩を負傷し、やむを得なく崖から飛び降りて……重傷こそ負ったが、どうにか死なずに済んだのだ。
その後、一度麓町に戻って傷を癒し、ある程度回復したあとは、サンドロ砂漠を渡り、封鎖解除されたメルキューレから船で帝都に戻ってきた。
行き先は、ゼリウスの伯爵邸だ。
以前と同じく、偽造の身分証を提示し、入念なボディチェックをされてから、連行されるようにゼリウスの執務室へ通される。
入室すると、
「やぁ、おかえりモーゼス。……随分ひどそうな怪我だね、大丈夫かい?」
やはり、何の苦労もしてなさそうなボンボン……ゼリウスが不遜な態度で身を案じてきた。
「油断していたつもりは無かったんだが、しくじった」
俺のことはどうでもいい、とモーゼスは本題を切り出す。
「例の、【タイム連打】スキルについて、俺の所感で分かったことがいくつかあった」
「おぉ、分かったんだね。是非とも聞かせてほしいな」
元より今回の依頼の本題がそれだ。
【タイム連打】スキルを持つ冒険者について、実際に戦って、どのように見えたり感じたりするか。
モーゼスは、あの若い冒険者――リオとの戦いを思い出しながら、【タイム連打】について自身の所感を混ぜながら話す。




