127話 かなり危険な状態だった
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「ん、んんぅ……?」
――死んだのかと思ったが、どうやら違うらしい。
自意識があると自覚は出来たが、頭が上手く回らず、自分が今どんな状況にあるのか確かめられな――
「うっぐぁっ、ぁっ、がっ……はっ、はっ……ッ!?」
瞬間、背中辺りに激痛を感じた。
「わわっ、急に動いたらダメです!」
傍らにいたらしい、水色の髪の少女が慌てて駆け寄ってきた。
どうやら自分は今、どこか――恐らく馬車の中で寝かされていることに気付く。
「ちょっと動かないでくださいね――ヒール」
すると水色の髪の少女は魔法陣を顕現し、治癒魔術を施してくれる。
おかげで、背中の激痛が少し引いていくように感じる。
「はっ……はぁ……す、すまないね、お嬢さん……ふぅ……」
落ち着いて背中をシートに預け直して、息を吐き出す。
「馬車の中……と言うことは、商隊かな……?」
記憶が覚えている限りなら、朦朧とした意識の中、顔を知っている、リオとか言っていた冒険者の青年に声をかけて……恐らくそこで意識を失ったのかもしれない。
「そうですそうです。今、隊長さまを呼んできますね」
とてとてと馬車を後にしていく水色の髪の少女。
事態を把握できたわけではないが、まだ生き長らえるようだ。
怪盗ハートクイーンが目を覚ました。
ムイからそう伝えられ、俺とアイリスは、アンドリューさんの護衛として同席を求められた。
「随分ひどい怪我のようでしたけど、意識が戻ったなら一安心ですね」
「止血出来てないまま長時間放置していたみたいだし、背中の出血量とかやばかっただろうな……」
意識が戻って良かったと言うアイリスだが、俺としてはむしろ出血量の方が心配だった。
雨に打たれて体温も下がり、相当衰弱していたはずなのに、よく息を吹き返したものだ。
「何にせよ、話が出来る状態なら話を聞かせてもらおうじゃないか。……彼女が何故あんなボロボロになっていた、理由も知りたいところだしな」
アンドリューさんがそう言ったように、怪盗ハートクイーンの強さは、そこらの野盗や破落戸数人がかりでも全く相手にならないほどだ。そんな彼女に、あんな重傷を負わせるほどの強力な魔物でも現れたのか。
いや……そもそも怪盗ハートクイーンはどういう人間なのか?
俺が知るだけでも、メルキューレのロゾック達への制裁と、モーゼスと言っていた闇ギルドらしい構成員を相手にしていたくらいで……魔物とは戦わないのだろうか。
いや、自衛のために魔物も戦いはするだろうが、冒険者のように依頼を受けたりはしないのかもしれない。
ターゲットにしているのはいずれも対人、それも悪事に手を染めている者や、闇ギルドの関係者のみで、魔物を標的にしているようには思えない。
正義のために、なんてお題目を唱えるような奴では無いだろう、正義どころか"怪盗"と言うアウトローな存在を名乗っているんだし。
それも、無軌道に片っ端から出来るようなことではない、何かしらの法則性があるのだろうが……
まぁこの場で俺が考えても結論が出るような話ではない、怪盗ハートクイーンの容態次第だ。
怪盗ハートクイーンを寝かせている馬車に近付くと、まず最初にアイリスが幌の外から声をかける。女性相手だから、せめてもの気遣いだ。
「失礼します、私達の商隊の隊長をお連れしました」
すると幌の中から「あぁ、どうぞ」と言う声が返ってきたので、数秒間を置いてからアイリスは幌を開ける。
アイリス、アンドリューさん、俺の順に姿を見せて。
……上体を起こしている怪盗ハートクイーンは、少し弱々しい――自虐的な笑みを見せていた。目の隈からして疲労の色も濃いだろう。
「オレがこの商隊の隊長のアンドリューだ。気分はどうだい、怪盗ハートクイーン」
「気分自体は最悪だがね……助かりました、ありがとう」
上体を起こした体勢で頭を下げて会釈する怪盗ハートクイーン。
「どういたしましてだ。お前さんを手当てした隊員の話を聞いたが、かなり危険な状態だったようだな。ウチに治癒魔術が使える奴がいて良かったな」
リーゼさんとエトナの話を聞く限り、生死の境界線を反復横跳びしているような状態で、一歩間違ったら死んでいた可能性が極めて高かったらしいとのこと。よく生きてたよこの人。
「ふふ……アナタ方に助けてもらえたのは、幸運だったよ。正直、これはさすがに死んだと思いましたからね……」
乾いた笑みで応じる怪盗ハートクイーン。
「まぁ、さすがに顔見知りが目の前で死なれては目覚めが悪いし、特にお前さんには、メルキューレの一件では助けられたからな。これで借りは返させてもらおう」
「あぁ、そんなこともありましたねぇ……」
それでだ、とアンドリューさんの顔が引き締められる。
「一体何があった?話せる範囲で構わんから、お前さんが知っていることを話してくれんか」
「はっはっはっ、ワタシは怪盗ハートクイーン……おいそれと手前のことを教えるわけにはいかないのだよ……と言いたいところですが、命の恩人ですからね、可能な限りはお話しましょう」
そうして、怪盗ハートクイーンはポツリポツリと、直近に起きたことを話し始めるのだった。




