121話 戦争を望む者
再従姉妹の感動の再会、と言うには割と重い話になってしまったが、宿屋食堂の閉店時間が近くなって来たので、少し急ぎ足で食べてから。
フリーダさんは明日の午前中にショーンさんから薬を受け取ったら、乗ってきた馬で帝都へ帰還するらしい。単騎駆けすれば、ここから国境線を経由しても帝都まで一日あれば着くそうだ。
帝国領の情勢が不安定な今、可能な限り帝都へ戻っておきたいのだろう。
アイリスはフリーダさんについていく形でもう一度浴場へ。積もる話もまだあるだろうからな。
俺とアンドリューさんもようやく風呂だ、男女別に仕切られた中、男性用の浴場へ向かう。
「しかし、お嬢さんと帝国の第二皇女殿下が血族だったとは、驚きだな」
どっかりと浴槽に胡座をかいて浸かるアンドリューさん。
普段はジャケットを着ているから細く見えていたが、いざ脱ぐとすげぇ筋肉量、しかもあちこちに何があったのかと訊きたくなるような、大きな傷痕がいくつも刻まれている。
「ですね、意外と世界は狭いと言うか、誰がどこと繋がっているか分かりませんね」
俺もアンドリューさんの隣を失礼させてもらって。
「ハッハハッ!その通りだ!」
いつもの豪快な笑いを見せるアンドリューさん。
だが、と笑いを止めると、その顔が憂いを帯びてしまう。
「せっかく古巣へ帰るぞと言う時に、妙なことになったものだなぁ……それも、間近に戦争が起きるかもしれんときた」
「今はフリーダさん達騎士団が、兵士や市民が暴発しないように抑えて回っているみたいですけど、それも長くは保たないかもしれませんね」
下手すると、帝都に着く頃には既に開戦しており、不穏分子を都内に入れないように封鎖して門前払い、と言う可能性もあるだろう。そうなった場合は帝都近くの町か集落にまで足を伸ばさなくてはならないか。
「………………ふむ」
湯槽に浸かりながら腕を組んで瞑目するアンドリューさん。何か深く考えているようだ。
「――闇ギルドの連中の独り勝ち、か?」
「独り勝ち?それに闇ギルドって……どういうことですか?」
結論だけを先に出したアンドリューさん。結論だけでは分からないので過程も訊いてみると。
「王国と帝国が戦争状態になったとしたら、恐らく勝つのは王国の方だろう。昨今の風土悪化や異常気象もあって、帝国は国力が落ちているだろうからな」
「それはまぁ、確かに。フリーダさんも言ってたんですけど、戦争を望んでいるのが王国だったとしても、勝った際の旨味が少ないから、その真意が分からないと」
「うむ。だから、王国でも帝国でもない、"第三者“が戦争を望んでいるんだろう」
「"第三者“……それが、闇ギルドの連中だと?」
何だか最近、どこに行っても闇ギルドの名前を聞くなぁ……それだけ奴らが裏社会から表に食い込んでいるってことなんだろう。
「オレの見立てが正しければだが、闇ギルドの連中は両国の不安を扇動して戦争を引き起こし、そうして双方が殴り合っているところに、物や情報を売り付けるつもりだろう。戦争と言うのは、とにかく消費しまくるんだ。武器も食べ物も、人の命もな」
「……人の命すら、"消費“なんですね」
クソみてぇな価値観だ、反吐が出る。
「そうやって、王国が優勢になれば帝国に肩入れし、帝国が優勢になれば王国に肩入れして、『戦争を出来るだけ長引かせる』んだ。戦争が続く限り、特に武器は飛ぶように売れるからな」
「金儲けのために戦争を長引かせるって言うんですか!?」
思わず声を荒げてしまった。
信じられないし理解も出来ない、そいつらに人の心とか無いのか?
「そして、儲けるだけ儲けたら、さっさとトンズラして雲隠れだ。どっちが勝ったとしても、王国も帝国もボロボロだろう。で、今度は戦後復興のためにまた物資を売り付けに来るってわけだ」
「……どこまで金を搾り取れば気が済むんだよ」
俺の呟きに対し、「搾り取れるだけに決まっているだろう」とアンドリューさんは即答した。
それが闇ギルドの連中の目的だとしたら、冗談じゃない。
「まぁ、オレが考え得る戦争のシナリオはこんなもんだが……リオ、お前さんはどう思う?」
「俺には政治とか戦争とかはさっぱり分かりません。けど、闇ギルドの連中の金儲けなんざのための戦争なんて、間違ってる」
「正しい戦争なんてもんは無い。戦争とは最も野蛮で、しかし最も効果的な外交手段だからな」
政治ありきの戦争、と言うのは分かる。
分かる、が……
「……だからって、俺達に何が出来るって話でしょ」
アンドリューさんは単なる商隊のリーダーで、俺やアイリスは雇われの冒険者だ。政治に首を突っ込めるような立場じゃない。
「さぁな。だが、「どうせ何も出来ない」とはなっから諦めるよりは、「何か出来ることは無いか?」と考えている方がよっぽどいいさ。考えた結果、何も出来ないことが分かったとしてもな」
はなっから諦めるよりは、考えている方がよっぽどいい、か。
戦争阻止のために、俺に出来ることはなんだろう。




