120話 帝国の危うい情勢
ひとまずは食事を注文してから。
まずは俺とアンドリューさんの口から、フリーダさんとの出会いから今に至るまでを話す。途中でリーゼさんが「さすがはリオくん、相変わらず女の子に対する手が早いね」とか言ってきたが無視して。
「それで、お嬢さんとフリーダ殿下は知り合いのようだが、元とはいえ王国の公爵令嬢と、帝国の第二皇女殿下だ、どう言った関係なんだ?」
アンドリューさんが、この場の誰もが気になっているアイリスとフリーダさんとの関係を訊ねると、「それは私が」とアイリスが挙手した。
「私とフリーダ姉様は、再従姉妹なのです。私の祖母上が、フリーダ姉様のお祖父上……先帝の妹に当たり、王国のエイルブルー公爵家に嫁ぎに来た形になるのです」
アイリスとフリーダさんが言うには、王国と帝国は互いの政略的な利害一致――俺には何のことかさっぱりだ――もあって、双方の王族皇族と、有力な貴族を結ばせ合せて、両国の結束を確かなものとしているらしい。互いを互いに縛り付けるための鎖みたいなものだろうけど。
「アイリスはどうしてここに?話を聞く限り、こちらの商隊長殿の元にいるようだけど……」
今度はフリーダさんの方が、アイリスは今ここで何をしているのかを訊ねる。
「実は……」
アイリスが、王国のフルス第一王子から婚約破棄をされ、爵位を奪われた挙げ句王都からも追放されたことから始まり、今こうしてアンドリューさんの商隊の専属冒険者になっていることを話すと。
「そんなことが……」
「そう言うわけで、今の私は王国も帝国も関係ない、ただの冒険者アイリスです」
フリーダさんとしては考えもしなかったことだろう、まさか自分の再従妹がそんな経緯の元で、今は冒険者なんて (悪く言えば)野蛮な職業に就いていたんだ。
「……アイリスくらい離れていれば、爵位を手放しても帝国とは直接関係無くなるとは思うけど。それでも、下手をすれば両国の関係が拗れるどころじゃすまないわ。新たな聖女が王国に降臨したとは聞いていたけど……フルス第一王子は一体何を考えているの」
アイリスのこれまでの経緯と言うか、こうなってしまったそもそもの元凶とも言えるのが、王国の聖女の存在だろう。
「今、王都では何が起きているのかも、私では分かりようも無くて……ごめんなさい、姉様」
「あなたは何も悪くないわ!……誰が悪いと言う話では無いのでしょうけど」
それでも腑に落ちないものがある、とフリーダさんは眉をひそめる。
「王国での聖女降臨に、王都領域以外で発生する風土悪化と異常気象、国境線付近で散発する武力的挑発行為、おまけに魔瘴液と言う危険な薬物が裏で出回っている……」
溜め息をひとつ挟んでから、
「帝都では災害異変に人心は乱れ、不満の声も日増しになり、テロ紛いな暴動も多発していて……帝国の急伸派の中では、王国の聖女が災害異変の元凶だと決め付けている声も上がっているわ。それに加えて、国境線での緊張も高まっている……このままだと、帝国が王国に宣戦布告をしてしまうかもしれない」
戦争。
リーゼさんが懸念していた通りのことが起きてしまうと言うのか。
「戦争……姉様、帝国は今、そんなに情勢が不安定なのですか?私に出来ることであれば、戦争阻止に尽力させてください」
暴発寸前、泡を吹いている鍋に無理やり蓋をして押さえ付けているような状態が、帝国の現状だと言うフリーダさんに、アイリスはどうにか戦争を阻止できないかと訊ねるが。
「今のままでは、止められない。戦争は避けられないでしょうね」
第二皇女であると同時に、近衛騎士団団長と言うポストに就いている彼女がそう断言してしまえる程度には、今の帝国は危うい状態なのだろう。
帝国……帝都……そうだ。
「フリーダさん、帝国の伯爵貴族の、ゼリウス・マーリドって知っていますか?」
麓町にいた時、怪盗ハートクイーンから聞いた、気を付けた方がいいらしい伯爵貴族の名前を思い出したのだ。
傭兵や私兵を集めて、闇ギルドの連中とも何やら企んでいるらしいが、フリーダさんなら何か知っているだろうかと思って訊いてみると。
「ゼリウス伯爵ですか?若輩者ながら有能な伯爵とは聞いていますが……彼が何か?」
「以前に知り合いが言っていたんですけど、ゼリウス伯爵は最近、何か企んでいるらしいから気を付けた方がいいと言われたので、何か知っているかと」
「何か企んでいる?あの男、やはり……」
何か知っているようだ。
「フリーダ殿下、そいつの真意を知っているのか?」
アンドリューさんも気にしている。
「……これはあくまで、又聞きした噂に過ぎないのですが。『奴隷市で大量の奴隷を購入した』とか、『資料館で聖女伝説に関する書物を買い取った』とか、『怪しい男を自宅に招き入れている』と、聞いたことはあります」
奴隷の大量購入に、聖女伝説の関連書物の買い上げ、さらには怪しい男との関係か。どう見ても考えても怪し過ぎる。
叩けば埃が出るどころか、端から見ても埃まみれだな。




