119話 また明日
フリーハントしたギカントオークから魔石と素材をいくつか剥ぎ取ってから、バビロード登山道山頂部の町に戻ってきた頃にはすっかり暗くなっていた。おかげで落日草の成分が消えにくくなったのは結果論だが。
ショーンさんの魔法薬店はそろそろ戸を閉じようかと言う頃だったので、何とか今日中に届けることが出来てよかった。
「おぉリオ、戻ってきたか。フリーダ殿下も、無事で何よりだ」
フリーダさんと言う帝国第二皇女が相手でも口調を変えないアンドリューさん。一応、"殿下“と敬称を付けているので、全くの不敬と言うわけではない。
「二人とも、おかえりなさ、ふあぁ……ちょっと遅かったみたいだけど、何かあったぁ……?」
ショーンさんはやっぱり眠そうに出迎えて来てくれた。
「実は、トンネル内でギカントオークに遭遇して、ちょっと排除に手間取っただけです」
「ギカントオークにぃ……えぇっ、それって大変じゃないの!?」
大型の魔物と遭遇したと聞いて驚くショーンさんだが、アンドリューさんは驚くこともなく。
「ギカントオークか。まぁお前さんのことだ、ちょちょいのちょいだったんだろう?」
「いや、そういうわけでも無かったんですが」
ギカントオークとの遭遇から討伐に至るまでを詳しく説明して。
「なるほど、レディを守るために身体を張ったと言うわけか。なら、いつものことだな!」
ハッハハッ!といつもの豪快な笑いを見せるアンドリューさん。
いつものこと……いつもか?いや、討伐に関してはフリーダさんが一人で片付けてしまったが。
まぁそっちはついでの案件だ、率先して一歩前に出て、素材袋を開けて見せる。
「旧国境線跡地のトンネルの中の、特別立派な植物があったので、落日草はこれだと思います。確認をお願いします」
「どれどれ……」
ショーンさんは短く詠唱すると、エトナの【鑑定】のそれと同じ――いや、それよりは簡易的なものか?鑑定魔術を使って、俺とフリーダさんが採取してきた草を調べる。
するとすぐに、「うん」と頷いてくれた。
「大丈夫、ちゃんと落日草だね。それに、なかなか立派に育っているし、これならしばらく困らないかな。二人とも、ありがとうねぇ」
鑑定魔術を消して、ゆったりと頭を下げるショーンさん。
「ではショーン、報酬としてさっきの魔法薬をいただいても構わんな?」
「うん、いいよぉ」
今回の依頼の報酬は、魔法薬がいくつかと言う物々交換だったな。これにて契約履行だ。
「それとぉ……」とショーンさんはフリーダさんに向き直る。
「フリーダさん、作って欲しい魔法薬は、『加齢による美貌の衰えに効く薬』で良かったね?」
「はい。お代は言い値でお支払い致しますので、是非ともよろしくお願いいたします」
しかし、『加齢による美貌の衰えに効く薬』ってどんな薬なんだ?
"若返りの薬“は違法薬物なのに、それは合法なのか。
「あの、ショーンさん。それってどんな薬なんですか?」
興味本位で訊いてみたが、何故かショーンさんは苦笑した。
「リオ君、これは女性にとってデリケートな案件なんだ。悪いけどぉ、簡単には口外出来ないんだ」
もちろんフリーダさんにはちゃんと教えるから安心してね、と付け足して。
「そうですか、すいません」
素人が首を突っ込んでいい話じゃないなら仕方ない、素直に謝っとこう。
「はい、それじゃぁ今日はもう閉店です。ボクもこれから、フリーダさんにお願いされた薬の調合をしないといけないから、ねぇ……」
そう言いながら眠そうに欠伸をするショーンさん。
「薬師殿、薬はいつ頃に受け取りに?」
「明日の開店にはちゃんと用意しておくよ。また明日ねぇ……」
ショーンさんの魔法薬店を後にして。
女性陣はもうとっくに夕食も済ませている頃だろう、すっかり遅くなってしまった。
飯と風呂を済ませたらさっさと寝ようと思っていると、どういうわけかフリーダさんが俺達についてくる。
「フリーダさん?俺達にまだ何か用が?」
「いえ、今日は私もこの町の宿で一晩を過ごそうかと」
「あぁ、それもそうですね」
まさか皇女殿下とあろう方が野宿するとは思えないし、言われてみれば確かにそうだ。
なら行き先は自然と一緒になるか。
宿屋に入って、俺とアンドリューさんは一度部屋に戻って手荷物を置いてから食堂へ、フリーダさんは受付で部屋を借りる手続きを済ませ、荷物を置いたらすぐに食堂に向かうと言うので、せっかくなら食事もご一緒しましょうと誘われた。
アンドリューさんは構わんぞと頷き、俺も断る理由が無いので、夕食をご一緒することに。
宿屋食堂に入ると、アイリス達女性陣は既に食事は済み、食後のお茶会と洒落こんでいるようだ。
「おぅみんな、今戻ったぞ」
アンドリューさんが声を掛けることで、みんなの視線が集まる。
「おかえりなさい、隊長さ……ん?」
最初におかえりなさいを告げようとしたアイリスだが、一歩後ろにいたフリーダさんを見て固まる。
どうしたのかと思ってフリーダさんを見やれば、こちらも同じように固まっている。
ややあって。
「もしかして……フリーダ姉様?」
「アイリス……アイリスなの?」
「そうです!アイリス・エイルブルーです!」
「やっぱり!久しぶりねアイリス!」
――もしかしてこの二人、知り合いだったのか?




