115話 オレ達に任せておけ
「話は聞かせてもらったぞ、ショーン!」
すると突然、アンドリューさんが会話に混ざってきた。
「何やら薬の素材が足りないようだな、そんな時はオレ達に任せておけ!」
……オレ達に任せておけ?
何だろう、微妙に嫌な予感がするんだが……
「アンドリュー?任せておけって……どう言うこと?」
ショーンさんも何が何やらと首を傾げているし、フリーダさんも同様だ。
「ちょうどここに、腕の立つ冒険者がいる。つまりはそう言うことだ!」
びしすと俺を指すアンドリューさん。やっぱりかー。
「えー、アンドリューさん?俺の意志が迷子になってるんですが」
「まぁ、聞いてくれ」
ポン、と俺の肩に手を置くアンドリューさん。
あっ、これもなんか覚えがあるぞ……
「麗しの皇女殿下がお困りになられているのに、それを見過ごすと言うのは、男としてどうかと、オレは思うんだ」
その言い方!俺にアイリスの指南を頼んだ時と同じじゃねぇか!?
「いや、あの。俺、今日はさすがに疲れて」
「まぁ、聞いてくれ」
ほーらやっぱりそうだ!
全くもって俺の予想通り、今度は気持ち強めに肩を置かれた。
「お嬢さんやシャルル、ムイは風呂、リーゼさんはエトナと集会所だ。今動ける冒険者はお前さんしかおらん。やってくれるな?」
「……まぁ、薬草採ってくるだけだし、いいでしょう」
結局断れなかった。ほんと、何で俺ってこんなお人好しなんだ……
「冒険者の方でしたか。ですが、全て丸投げすると言うわけにはいきません。私もお供いたします」
責任がある以上は自分も行きますと言うフリーダさん。
いや、無理して同行してもらわなくてもいいんだが。
「さて、あとはショーンの一存次第だ。ここはオレにひとつ、頼んでみないか?」
「うーん、分かった……じゃぁ、リオ君とフリーダさん、落日草の採取をお願いします、と……アンドリュー、報酬は?」
報酬はどうするのかと訊ねるショーンさんに、アンドリューさんは「うむ」頷いて、手にしていた幾つかの薬瓶を並べる。
「これをいただいても構わんか?」
「物々交換だねぇ……手間賃も兼ねれば……うん、これでいいよ」
「交渉成立だな、ハッハハッ!」
交渉成立したのはいいんだけど、だけどさぁ、俺の意志はどこにいったんだ?
まぁいいか……とりあえず、フリーダさんに自己紹介だけでもしておこう。
「俺はリオ、アンドリューさんの商隊の専属冒険者です」
「エンペラル帝国軍近衛騎士団団長、及び帝国第二皇女――フリーダ・イシューと申します。此度はよろしくお願いいたします」
と言うわけで、俺とフリーダさんの二人は町を出ての南西の、旧国境線跡地へ向かうことになった。
徒歩で一時間も掛からないから、暗くなる前には帰ってこれるだろう。
行きすがら、軽く言葉を交わしておく。
「リオ殿は、王都のクロスキングス出身なのですね」
「ま、そんなところです」
スラム街上がりの孤児だと言うことは伏せておく。
人柄からして貧民を見下すような人じゃないだろうが、念のためだ。訊かれてもないことを答える必要もない、と言う建前もあるしな。
「ところで、さっきの話を横から聞いていたんですけど……フリーダ殿下は、皇妃様のためにショーンさんの薬を買いに来たんですよね?」
「えぇ。帝都では若返りの薬を製薬することは出来ないそうなので、バビロード登山道山頂部の町の、エルフの薬師殿に製薬をお願いしようと」
「こう言っちゃぁなんですが、第二皇女自らが使いっ走りに出るって、おかしな話だなと。普通は、部下とかを向かわせるべきじゃないですか?」
「いえ、私に命令が下された以上は、私自らがやり遂げねばならないと、そう思っています。それに、末端の者に向かわせて、妙な薬を買わされるのを防ぐためでもあるので」
「あぁ、なるほど」
第二皇女自らが薬を求めに来た以上は、誠意を欠くようなことをすれば首が跳ぶ (物理)ぞと言う示威も兼ねているのか。
それなら納得出来る話だ。若干パワハラっぽいが。
「……と、あそこが旧国境線跡地か」
それらしい場所が見えてきた。
既に朽ち果てて久しい、長大な石造りの壁は確かにアバローナ王国とエンペラル帝国を区切るための線として機能していたのだろう。
その壁の下には、蟻の巣のようにいくつも分岐した穴と言うか溝のように掘られた跡がある。
恐らくこの溝の中が地下に繋がっていて、そこのどこかに落日草が生えているらしい。
「しかし、何で国境線を新しくする必要があったんですかね?」
ここは"旧“国境線跡地であり、今現在は新しい国境線が敷かれている。
新しい方の国境線も、これと同じような石造りの壁なのだろう。
「リオ殿は、"聖女伝説“のことを存じないのですか?」
「すいません、不勉強なもので」
聖女伝説って言葉も、この間の登山道のトンネルの中に描かれていた壁画で知ったくらいだ。
「差し支えなければ、落日草を探す間、私がお教えしましょうか?」
「そうですね……ちょっと興味が湧いてきましたし、お願いしてもいいですか?」
長いこと聖女なる存在は現れていなかったそうだが、何故今になって王国に聖女が召喚されたのかも気になるしな。
「承知しました。ではまず……"聖龍“『アウラオーレ』と、"邪龍“『ダンケルハイト』の両龍のことから始めましょうか」




