113話 魔法薬師ショーン
異常発達ブルーベアが暴れていたからなのか、それ以降は魔物と遭遇することもなく、バビロード登山道山頂部の町に辿り着いた。
この町から次は国境線、国境線を越えてからまた街道をしばらく歩いてようやく帝都だ、文字通り山場を越えたと言ったところか。
町に入ってから、リーゼさんとエトナはすぐに冒険者ギルドの出張機関のある集会所へ向かった。さっき剥ぎ取った異常発達ブルーベアの素材の提出、及びその概要説明のためだ。
一足先に今晩の宿を確保し、あとは夕食までは自由行動になるや否や、アイリスとシャルル、シャオメイ、ムイを始めとする女性陣はすぐに入浴に向かった。エトナとリーゼさんも集会所での用が済めばすぐに浴室へ直行だろうな。
その間、俺は手荷物を部屋に下ろしたら、ふらっと町を散策だ。
山頂部の町だけあって、麓町と比べても空気が冷えており、なおかつ薄く感じる。
思えば、王都を出てから随分と遠くまで来たものだ。
仮にここから王都へ戻ろうと思ったら、むしろ帝都の港まで進んで、そこから船でメルキューレを経由していった方が早いくらいだな。海域封鎖が解除していればの話だが。
……しかし、王都か。
大陸各地で風土悪化や異常気象に悩まされている中、何故か王都領周辺だけがそれに見舞われていないと言う。
この大陸に、王都では、一体何が起きているか……不気味でならない。
まぁ一冒険者が悩んでも仕方ない、それを何とかするのは王公貴族のお偉方の仕事だ。
良い頃合いに夕焼けが町を染め始めてきたので、そろそろ宿屋に戻ろうかと思った時。
「おぉー、リオ。一人で散歩か?」
ふと、アンドリューさんが手荷物を片手に声をかけてきたので、そちらへ振り向く。
「はい、女性陣はみんな風呂に時間掛かりそうですし、時間潰しついでにです」
「うむ、そうか。暇ならちょいとオレの用事に付き合ってくれんか?」
「いいですけど、用事って?」
「なぁに、ちょっとした買い足しだ。この町の魔法薬師は腕が良くてな。この町に久々に来たんだし、顔を見せるついでにいくつか買っておきたいのさ」
なるほど、ここにも知り合いがいるのか。
そう言うことなら、ついでに俺も一言挨拶しに行こうかな。
アンドリューさんに連れられて、大通りにある少し古ぼけた造りの店に入る。
カランコロンとドアベルが鳴るのを耳にしつつ、軽く店内を見渡すと、なるほど多種多様な薬品や、あるいは素材の状態から陳列されている。
「ふわぁ~~~~~ぃ、いらっしゃぁい……」
すると店の奥から、明らかに眠そうに大あくびをしながら、ブカブカのローブに身を包んだ10歳くらいの、白い髪のエルフの少年が出てきた。この店の店主の息子だろうか。
が、
「おぅ『ショーン』、相変わらず眠そうだな!」
「んん?ぁあ~、アンドリュー?久しぶりだねぇ……」
……この子どもが、アンドリューさんの言う知り合いなのか?もっとこう、ゴンザレスさんと同じくらいの壮年男性かと思ったんだが。
「……そっちの男の子は?」
ショーンと言うらしい少年が、俺を指しながらアンドリューさんに訊ねる。
「紹介するぞ、こいつはリオ。まだ若いが腕の立つ冒険者で、頼りになる奴だ!」
「初めまして、俺はリオ。アンドリューさんの商隊の専属冒険者だ」
とりあえずは普通に自己紹介をして、ショーンの方も眠そうに目を擦りながら自己紹介をしてくれる。
「ボクはショーン……ふあぁ、お店をご覧の通り、魔法薬師だよ」
さっきからあくびしまくってるんだが、大丈夫なのかこの子。
「ちなみにリオ。見てくれはガキンチョだが、ショーンは今年で325歳だ。エルフの中で言えば、ちょっとしたおじさんだ」
「さんびゃ……!?」
マジかよ、見た目と数字が釣り合って無さすぎる。リーゼさんとどっちと長生きなんだろう、 (特にリーゼさんには)絶対に訊けないが。
「もぉ、アンドリュー……ガキンチョはやめてって、いつも言って、る……のに……ぃ……ぐぅ……」
おいおい、喋りながら立ったまま寝始めたぞこの人。
「あの、ショーンさん?大丈夫ですか?」
「はっ……あぁ、ごめんねリオ君」
咳払いして、気を取り直して。
「えぇと……それでアンドリュー、どうしたの?」
「うむ、久々にこの町に来たんでな。顔を見せに来たのと、魔法薬の補充をちょいとだ」
「あぁ、それはどうも……ありがとうございます」
のっそりぺっこりと頭を下げるショーンさん。
「久々なんだし、ゆっくり見ていってね」
「ハッハハッ!残念だがそこまで長居は出来んなぁ」
いつもの豪快な笑いを見せながら、アンドリューさんは並んでいる魔法薬の小瓶を物色しにいくのを見て、俺も続く。
俺が普段使っている薬品と言えば、体力の回復薬とか解毒剤と言ったものだが、こうして見ると色んな魔法薬があるんだな。
……あぁ、そうだ。ちょっとショーンさんに訊いてみよう。
「ところでショーンさん、魔瘴液って知ってますか?」
「魔瘴液ぃ?あぁ、知ってるよ。……そんな危険な薬、どこで知ったの?」
魔瘴液のことを何気無く訊ねたら、俺がそれを欲しがっていると思ったのか、不意にショーンさんの眠そうな目が鋭くなった。
そう言う目をするってことは、危険性も知っているようだな。
以前のネオライトでの出来事と、つい数時間前に戦った異常発達ブルーベアのことを話すと。
「なるほどねぇ……大変だったんだねぇ」
理解を示してくれたようで、うんうんと頷いてくれた。
あらぬ誤解は、本当のことを話して納得してもらうのが一番の払拭法だな。




