111話 性質変化
「リオさんっ、大丈夫ですか!」
異常発達ブルーベアが暴れた拍子に地面に叩き付けられた俺に、アイリスが慌てて駆け寄ってくる。
「俺は平気だ、痛ってて……」
背中を少し強く打ったぐらいだが、骨や筋に異常は無いだろう。
「ならいいのですが……私も、ムイちゃんみたいに治癒術が使えれば、すぐに治せますのに」
「気持ちは分かるが、無い物ねだりしても仕方ないからな」
よっと、と勢いを付けて起き上がって。
「さて、剥ぎ取るとしようか」
その前にロングソードを引き抜いておかないとな。ずっと刺さりっぱなしだし。
異常発達ブルーベアに突き刺さったロングソードを引き抜いて鞘に納めてから、いざ剥ぎ取りと言うところで、
「あ、ちょっと待ってリオくん」
リーゼさんが待ったをかけた。
何故待ったをかけたのかと言うと、エトナが【鑑定】し、リーゼさんも魔力探知で調べてみたところ、どうやらこの異常発達ブルーベア、魔瘴液を接種した個体らしいのだ。
なるほど、それなら肉体の肥大化や極度の興奮状態、時折もがき苦しむような仕草を見せるのも納得だ。
「魔瘴液の影響で、魔石や他の素材にも何かしらの変化があるかもしれない。だから、念のため気を付けて剥ぎ取ってほしいの」
いつもと同じように剥ぎ取れるとは限らないと言うことか。
アイリスとシャルルに合わせて了解を返すと、早速異常発達ブルーベアの傷付いた部分にナイフを突き入れる。
魔石と、爪、牙、毛皮などを剥ぎ取っていくものの、やはり普通のブルーベアよりも硬いせいで、上手くナイフを入れないとなかなか切り取れなかった。
あとは、リーゼさんからの指示で血液なども採血しておく。素材としての価値は無いものの、魔瘴液の影響を受けたサンプルとして欲しいとのこと。
魔瘴液の影響を受けて、素材に何らかの変化があるかの確認もしていたが、特に魔石にその影響変化が顕著だった。
何度か見たことがある、ブルーベアの魔石と比べても、全体的に黒ずんでいる。
魔石だけではない、爪や牙、毛皮も同様に黒ずんでいる。
アイリスとシャルルが剥ぎ取った素材も、俺が剥ぎ取ったものと同じように黒ずんでいた。
剥ぎ取りを終えたら馬車が止まっているところまで戻り、異常発達ブルーベアの素材をエトナに見せて、【鑑定】してもらう。
その間に、俺は強打した背中をムイのヒールで治してもらいつつ。
「鑑定出来ました。……魔石、爪、牙、毛皮、いずれも魔瘴液の反応があります。それに、通常個体のものと比較しても、かなり性質が変化しています」
「性質の変化……具体的には?」
それを聞いて、リーゼさんは何がどう変化したのかを訊き返す。
エトナは自身が形成する魔法陣と、鑑定中の素材からは目を離さずに淡々と答える。
「まず、魔石。魔力の激増、及び暴走によって本来のブルーベアが持つ魔石の、三倍近い魔力量を持っています。これは、ブルーベア本来のポテンシャル限界の上から、無理矢理魔力を押し込んでいるようなもので、魔力暴走を続けていれば、恐らく短時間で肉体の方が耐えきれずに絶命していた可能性が高いかと」
前にネオライトで、グリードが持っていた魔瘴液の入った小瓶を【鑑定】した時と同じで、服用者は死ぬまで暴走し続ける、と言うことだろう。
「次に、爪と牙。これはどちらも肉体の肥大化によるもので、爪は細胞分裂を急速化せて伸ばし、拡大させて、牙は顎の骨自体を変形させて大型化させているようです」
人間に置き換えるなら、手足や顎がいきなりでかくなるから、それに伴って爪や歯も無理矢理大きくせざるを得ない、と言うところだろう。想像するだけでおぞましいな。
……そうなると、さっきロングソードを突き刺した時にすぐに抜けなかったのは、恐らく骨にまで到達した際に、その骨の細胞分裂によって癒着しかけていたのかもしれないな。
「それと、毛皮。これも爪と同じで、肥大化した肉体に合わせて細胞分裂を急速化させ、強引に毛根を増やし、急速化に伴って毛自体も成長が早まることで太く固くなるようです」
肉体自体に繋がっているものは、おおよそ細胞分裂の急速化によって、肥大化した肉体に合わせているようです、とエトナは結論付けるが……俺じゃ半分も理解できていないだろう。
ただ何となく、身体を無理矢理成長させている、と言うのが分かる程度だ。
「……以上が、鑑定結果です」
魔法陣を消失させて、エトナは「ふぅ」と一息つく。長時間【鑑定】を使い続けたから疲れたのか。
「ありがとうエトナちゃん。これらの素材は、ギルドに提出する際に、説明が必要かもしれないから、一旦私が預からせてもらうね」
報酬はちゃんとみんなで山分けするから心配しないで、と付け足して。まぁリーゼさんは金にがめついわけでもなし、そこは心配してないから大丈夫だが。
ともかく、商隊は再出発だ。
バビロード登山道の山頂部の町まであと少し、これ以上足を止めていたら日没までに間に合わないので、出来ればここからは止まらずに行きたいところだ。




