109話 青の脅威
幸いと言うべきか、異常発達ブルーベア (仮)に追われている冒険者二人組は、こちらに向かって逃げているようで、向こうも俺達三人のことに気付いた。
「そこの二人!ここは俺達に任せろ!」
「はぁっ、はぁっ、すっ、すみませんっ……!」
二人組は息絶え絶えながらも会釈するように頭を下げながら、商隊のいる方へ逃げていく。
一歩遅れて、異常発達ブルーベアもまた、俺、アイリス、シャルルを視認する。
さっきは遠巻きに見ていただけだが、こう間近で見ると、普通のブルーベアよりも二回り……いや、三回りはでかい。
前肢は自身の胴体と同じぐらい太く、興奮して血走った目、体毛に覆われていない部分はぶっくり膨らみ、紫色に変色して脈打っている。
グロゴガァァァァァ!!と咆哮を上げ、前肢を振り回しながら襲い掛かってくる異常発達ブルーベアだが、受けてやる必要はない、散開して、異常発達ブルーベアを中心に三角形を描くような形で取り囲む。
一人が狙われたら、他の二人が背後や側面から攻撃出来るようにだ。
「――烈風閃!」
俺から見て左手側に回り込んだシャルルが、風属性を纏わせたチャクラムを左右同時に投げつけ、小さな竜巻と化したチャクラムが異常発達ブルーベアの右肩辺りを斬り刻むが、分厚い体毛を刈り取っただけで、その下の肉には届いていないだろう。
「――フラッシュレイ!」
それに合わせるように、アイリスからの光属性魔術のフラッシュレイが放たれ、異常発達ブルーベアの背中に小さな光が炸裂、浄化する。
次の狙いはシャルルかアイリスか――異常発達ブルーベアはアイリスの方に向き直ると、一気に飛び掛かってくるが、アイリスの方もすぐにその場から跳躍して躱し、無理に反撃せずに距離を取り直す。
そうしている間に、今度は俺が異常発達ブルーベアの背中に肉薄し、
「ぅらァッ!」
アイリスのフラッシュレイが浄化した部位にロングソードを叩き込む。
が、硬 い 。
本来、ブルーベアは頭部の他、背中や尻辺り――人間から見た背後全般が弱点であり、頭部を狙うために危険を冒して正面から立ち会う必要もなく、攻撃を躱して背後に回り込んで攻撃を叩き込んでいけば、青銅級でも油断さえしなければ、それほど労せずに討伐まで持ち込める。
だがこの異常発達個体の剛毛はかなり分厚い上に、体毛自体の強度も高いらしく、今の一撃でも毛先近くを刈り取っただけだ。
「っし!」
返す刀で逆袈裟に斬り上げて、ようやく皮膚に刃が届いたがそれでも堅く、刃の当て方を誤れば弾き返されるかもしれない。
異常発達ブルーベアもいつまでも隙を曝しているわけではない、背中越しに俺を睨み付け――即座に振り向き様に前肢を薙ぎ払おうとするが、
――【タイム連打】、発動解除発動解除発動解除発動解除発動解除……
姿勢を低くしてやり過ごすのは無理だな、ここはイニシアティブを取り直した方がいい。
【タイム連打】、解除――と同時に飛び下がって振り向き様の前肢の一撃を躱す。
そこにシャルルが異常発達ブルーベアの右側面から飛び掛かると、
「――『双風刃』ッ!」
投げ付けるそれとは別の、風属性付きの斬撃を上段から勢い良く叩き付けた。
俺の攻撃よりは効きやすいのか、風属性付きの攻撃を受けて異常発達ブルーベアは苦しげに唸る。
ブルーベアとは言え異常発達した個体だ、何を仕掛けて来るか分からない、楽観視はせずに確実に攻めていこう。
リオ、アイリス、シャルルの三人が異常発達ブルーベアと交戦を開始した頃。
三人とは一歩遅れてから現場に向かうリーゼとエトナは、追われていた冒険者二人を商隊の馬車が待機しているところまで逃げるように言い付けてから、現場に到着する。
異常発達ブルーベアに気付かれないように、慎重に岩陰から様子を窺うリーゼとエトナ。
「……確かに、普通のブルーベアとは明らかに異なる個体のようですね」
エトナはすぐさま【鑑定】スキルを発動し、距離がある以上、読み取りには少々時間と魔力を要したものの、読み取り完了する。
「ッ……鑑定出来ました。あのブルーベア、魔瘴液を接種した個体のようです」
「魔瘴液?と言うことは、ネオライトのグリード領主と同じものを?」
「同じかは分かりません。ですが、大型の魔物の魔力を暴走させるなら、それなりの接種量は必要かと」
グリードが服用したものと同一の物かは不明だが、人間の持つ魔力と、大型に分類される魔物が持つ魔力量は文字通り桁が違うので、小瓶程度の摂取量ではなく、もっと多量の魔瘴液を外的に摂取させたのではないかと、エトナは推測する。
リーゼもセプターを掲げ、魔力探知の魔法陣を敷いて、異常発達ブルーベアの魔力波長を読み取り――即座に異常反応を示した。
「やっぱりそうだね……私も戦列に加わるから、エトナちゃんはこのまま馬車へ戻って」
「分かりました。リーゼさんも、気を付けてください」
「うん」
二人とも魔法陣を消失させてから、リーゼは戦闘中の三人の元へ、エトナは踵を返して商隊がいる地点まで戻る。




