101話 登山道の壁画
シャオメイとのゆったりとした朝の散歩を終えたら、宿屋に戻って出立準備だ。
装備を整えてーの、馬車に荷物を積み込みーの、足りないものがあれば買い足しに行きーのとしていると、アンドリューさんから集合がかかった。
呼び出されたのは、冒険者四人と予備戦力のムイ。
何を話すのかと言えば、俺が昨夜にアンドリューさんに伝えたことだった。
「昨夜にリオが、メルキューレで出会った怪盗ハートクイーンと接触して、どうやら今日この辺りを、闇ギルドの連中が通るらしいと聞いた」
俺が怪盗ハートクイーンと接触した、と言うくだりを聞いて、みんなの視線が俺に集まったので、頷いて肯定する。
「怪盗ハートクイーンの思惑は分からんが、場合によっては闇ギルドの連中と一戦やり合うことになるかもしれん。お前さん達の力は信じているが、油断せずに気を引き締めて護衛してくれ」
アンドリューさんの真剣な眼差しと声色に、みんなも自然と気を引き締めている。
そこで、俺もひとつ補足させてもらおう。
「昨夜、その怪盗ハートクイーンが言っていたんだが、恐らくあいつは闇ギルドの奴らに襲撃を掛けると思う。敵の敵は味方……ってわけじゃないが、こっちが手を出さない限りは、あいつも俺達を攻撃したりはしないはずだ。どう立ち回るべきかは、その時の状況次第になるが……」
「行き当たりばったりだっての?」
シャルルが身も蓋も無いことをぶっちゃけた。
「シャルルさん、そこは『高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に即応』って言うんだよ」
リーゼさん……それを『行き当たりばったり』って言うんですよ。言い方が違うだけで。
「ハッハハッ!まぁそんなところだな」
しかしアンドリューさんが肯定してしまったので、行き当たりばったりも臨機応変も一緒くたにしてもよしになってしまった。
アイリスは苦笑してるだけで、ムイは何の話かよく分かってなさそうに小首を傾げている。
「連絡事項は以上だ。さぁ、出発するぞ!各員、配置に就いてくれ!」
アンドリューさんがパンッと手を鳴らすのを合図にぞろぞろと解散し、俺とシャルルが前方、アイリスとリーゼさんが後方、ムイは馬車の中で臨戦態勢で待機、とそれぞれの守りに就く。
麓町を出発し、半日もしない内に登山道の入り口が見えた。
「これより登山道に入る。魔物との遭遇率も上がるだろう、気をつけてくれ」
アンドリューさんの言葉に、気を引き締め直す。
登山道と言っても、単なる山道ではない。
所々石畳が舗装されていたりと、人工的に作られた道も各所に見られる。
俺達と同じような商隊がここを通れるように、工事が行われていたのだろう。
やはり山の中だけあって、『リザードマン』や『ウッドゴーレム』、『マタンゴ』と言った魔物と遭遇するが、リザードマンは俺とアイリスが前に出て肉薄し、ウッドゴーレムはリーゼさんの闇魔術とシャルルの風属性攻撃で吹き飛ばし、マタンゴが撒き散らす有毒性の胞子を吸い込んでしまっても、ムイが回復してくれるので、いずれも危なげなく撃破していく。
道なりに登り進めていくと。
「む、トンネルか……」
山の中をくり貫くような形で掘られたのだろう、トンネルが口を開けて待っているのを見て、アンドリューさんは目を細めた。
太陽の位置によっては中を照らしてくれるだろうが、それでも奥の方は真っ暗だろう。
点火したランプを馬車にくくりつけ、冒険者は松明を片手に灯りを確保してから、トンネル内へ。
トンネル内はやはり暗く、入ってすぐに暗闇だ。灯りがなければ少し先も見通せないだろう。
「暗いね……それに、松明持ってるから、いきなり魔物が出てきたらすぐに対応出来ないっての」
右手にチャクラム、左手に松明を持っているシャルルは、この状態ではすぐに戦闘態勢に移れないことに不安を感じているようだ。
俺も左手に松明を持ちつつも、何かあった時にすぐ対応出来るように右手は開けている。
「山棲の魔物なら、本能的に火を怖がるはずだから、松明を持っている人間にはすぐに襲いかかってこないはずだが……油断は出来ないな」
俺自身も、こう言った暗所を松明片手に進みつつ、魔物と戦闘になったことはあるが、松明を持っていると、自然と警戒して近付いてこない種が多い。
火を怖がらない魔物もいると言えばいるが、山中に棲息するものは大抵、本能的に火を怖がるものだから、出会い頭にいきなり襲いかかって来ると言うケースはそうそうないはずだ。だからって安心していいわけではないが。
トンネルを通過中にも、何匹かマタンゴが現れたが、やはり松明の火を警戒しているらしく、こちらが松明を振って火の粉を散らしてやると、すぐに踵を返して逃げ出していく。
明るい外ではこうはならないだろう。
そうしてもう何度か、戦わずしてマタンゴ達を撃退していると、ふと開けた空間に出た。
周囲に魔物が潜んでいるような気配がないことを確かめていると、
「ん?これは……」
舗装した石壁に何かが描かれている。
松明で照してみると、所々が掠れてしまっているが、壁画のようだ。
その内容は、
『ヒトを乗せた白い龍と、黒い龍が大陸を股にかけて争い合う様相』
と言うものだ。
「ほほぉ、こりゃ興味深い壁画だな」
アンドリューさんも松明を手に、その壁画を見上げている。
その隣にはリーゼさんも。
「ヒトを乗せた白い龍と黒い龍……確か、『聖女伝説』の一説にも、これと似たような油絵があったはず」
聖女伝説?
お伽噺の類いか。
「聖女伝説と言うことは、この白い龍に乗っているのは、大昔の聖女と言ったところか」
アンドリューさんがそう頷いた。
さしずめ、聖なる白い龍を従えた聖女が、邪悪なる黒い龍を滅ぼすための聖戦を描いたものだろうか。
もう少しだけ壁画を鑑賞してから、馬車を進め直した。




