100話 誇りに思っていいこと
100話達成です
昼過ぎから夕方頃まで昼寝していたとは言え、戦闘になったらすぐに起きれるようにと、半分くらいは仮眠だったので、夜になれば不寝番や戦闘の疲れもあって、泥に沈むように惰眠を貪った。
その、翌朝。
自発的に起きて、カーテンから漏れる光から夜明け頃だと読み取る。
「…………よく寝た」
背伸びをしても、この間のような日常生活に支障をきたすレベルの筋肉痛はない、むしろ心地好い――痛気持ちいいくらいだ。
今日から数日は険しい登山道を上ることになり、砂漠とはまた違う形で足腰を使うだろう。
他のみんなが起きてくるまでは、まだ少し時間がありそうだし――軽く町を散歩でもするか。
宿屋を出ようとしたところで、
「お?」
「あ、リオサン。おはようゴザいます」
シャオメイと出会した。
昨日の朝も早かったし、今朝も自然と早起きになったんだろう。
「おはようシャオメイ。シャオメイも散歩か」
「モ?と言うコトハ、リオサンも散歩ですカ?」
「まぁな。せっかくだし、一緒に行くか?」
「ハイ、ご一緒させてくだサイ」
と言うわけで今朝はシャオメイと一緒に散歩だ。
砂漠の砂の向こう側から朝焼けが顔を出し始め、暁色に染まる町並みをのんびり歩く。
昨日まで早朝はまだ死ぬほど寒かったが、山の麓であるここは、少し肌寒く感じる程度だ。
「ソウ言えばリオサンって、イクツぐらいから冒険者二なったンですカ?」
ふとシャオメイが俺に関する質問をしてきた。
幾つの時から冒険者になったんだっけ……
「んー……多分、10歳かその辺だったんじゃないか?」
「じゅ、10歳でデスか!?……ん?アレ?多分って、どう言ウことですカ?」
年齢の話をしているのに数字が曖昧なのはおかしくないか、とシャオメイは言いたいようだ。
「正直言うと、俺も自分が今いくつなのか、正確には分からないんだよな。サバ読みしていたとはいえ、ギルドカード上では18歳だから、多分そうだと思うんだが」
「エェ……?ゴ自分の生年月日、分からナイんですカ?」
「うん、分からん。産みの親も知らない孤児だったからな」
ギルドカードに記載している生年月日も、曖昧かついい加減だ。生年月日を記入するに当たって、自分が今何歳くらいで……から逆算し、誕生日は適当だ。
「え……孤児、だったンデスか……?」
「あれ?シャオメイには話してなかったか?俺、王都のスラム街出身なんだよ」
冒険者になったのも、他に稼ぐ方法を知らなかったからだと言うことも教えると。
「ソレは、ソノ……ゴメンナサイ」
俺の境遇を不憫に思ったのか、縮こまってしまうシャオメイ。
「謝るなよ。他のみんなは知ってるから、シャオメイにももう話してると思ってた。悪い」
孤児や浮浪児が食い扶持を求めて冒険者になるなんて珍しくも無いんだから、と言いかけて、「い、イエ!リオサンは悪クありまセン!」とシャオメイに食い気味に遮られた。
「その……私ハ、親兄弟から家ヲ追い出されたとは言エ、家庭そのモノは裕福デシたし、自分の誕生日もちゃんと覚えてマス。……アマリ思い出しタくはナイですけど、家族ノ顔も覚えてマス。けど、リオサンみたいに、自分がイツどこで、誰に産んでもらっタのかスラ分からナイなんテ、そんなの……」
「可哀想、なんて言ったら怒るぞ」
「エ?」
シャオメイはシャオメイなりに俺のことを気遣ってくれている、と言うその気持ちは嬉しいんだけどな、でも哀れむのはちょっと違うと思うんだ。
「確かに俺は、自分の生まれも分からないような、死んでも誰も困らない、誰にも泣いてもらえないような奴だったかもしれない」
スラム街にいた奴らのほとんどがそうだったからな、その辺で野垂れ死んでいても、「邪魔だな」としか思われないだろう。
「けど、そんな俺にも、一緒に冒険者になって成り上がろうって支え合ってきた仲間がいるんだ」
ルイン達とは色々あった末に、パーティから追放されはしたが、それは俺のことを思ったが故の、"余計なお世話“だった。口で言っても伝わりそうに無かったから、拳で言いたいことは伝えたつもりだ。
だからルイン達とは、いつかまた会えると信じている。
「まぁ、色々と擦れ違ったり余計なお世話があったりして、そいつらとは今パーティを組んでないんだが。それでも俺は、あいつらを仲間だと思ってるし、スラム街であいつらと一緒に生きてきたことも、誇りにしていいと思っているんだ」
「誇り……デスか」
「あぁ。なんにも無かった俺が、唯一昔からずっと持ってるものだ」
……なんか、また柄にもなく自分のことを語っちまったな。
「……強いんですネ、リオサンって」
すると、俯きがちになっていたシャオメイの顔が上がった。
「強い?俺が?」
「ハイ。誇りナンて、考えタことモ無かったデス。私よりモズッと辛イ過去を過ごして来タのに、誇りに思エルことがアルなんて、トッても強いト思います」
「そうか?俺からしたら、あんなに上手い料理を作れるシャオメイの方がすげぇって思うよ。俺がシャオメイだったら、自分の作る料理を誇りに思う」
昔馴染みとの絆なんて、自分達にしか分からないようなものより、手に付く職の方がずっと誇れると思うんだが。
「……誇りに、思っテいいんですカ?」
戸惑うシャオメイに、俺は断言するように大きく頷いた。
「ソウ……ですネ。リオサンがそう言ってくれルなら、そう思っテみようと思いマス」
「是非そうしてくれ」
「即答されチャイました」
おかしそうに小さく笑うシャオメイ。
――この日を境に、シャオメイに笑顔が増えたと気付くのは、もう少し先のことだ。




