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41 それからの事

 良く晴れた青い空。

 マグナシルヴァ王国大神殿の隣にある大聖堂では盛大な結婚式が開かれた。

 国王の盾となり呪いをかけられた宰相は解呪され元の姿を取り戻し、公式では王太后の遠縁と言われているが、大聖女と同じく異世界から来た使徒が大聖女と共に彼の呪いを解いたのだと噂されていた。

 美しい銀色の髪と吸い込まれそうな藍色の瞳の美丈夫と並ぶ、歴代の大聖女と同じ黒髪と黒目の柔らかな雰囲気の美しい青年。


 驚くほどの人が参列する中、元の世界と同じように大神官からお互いを愛し、敬い、助け合い、共に生きていく事を神に誓うかを問われて、フィリウスは「誓います」と答えた。そしてリュカもまた「誓います」と答える。


「愛しているよ、リュカ」

「はい。愛しています。フィル」


 初めての口づけはわずかに触れるだけだったけれど、それでもドキドキとして倒れそうになったリュカをフィリウスはそっと抱き寄せた。

 その様子を見た国王ラディスラウスは「私の手柄だな」と言って笑ったとか……


ともあれ、二人の結婚は王室と同じように民からも祝福され、王都はお祝い騒ぎになり、なんと絵姿まで売り出された事を知ったリュカは呆然として、フィリウスは「ぜひとも手に入れよう」と笑った。

 お披露目式にはフィリウスの両親もきていた。二人は嬉しそうにフィリウスを見て、リュカに「ありがとう」と頭を下げた。

 そしてコンコルディア領でのお披露目も盛大に行おうと笑顔で言われて、リュカは引きつるような笑みを浮かべながら「よろしくお願いいたします」と言うしかなく、フィリウスはそんなリュカに「大丈夫だよ」と慰めにもならないような言葉をかけた。どうやらマグナシルヴァ王国の宰相閣下も両親にはかなわないらしい。

 ともあれ宴は恙なく進み、夜の帳が落ちる頃、二人はそっとそこを抜け出した。勿論それが慣習なのだ。式が終わった後の宴は夜通し続く。そして適度な時間に花婿と花嫁は宴を抜けて次の儀式に向かうのだ。


「疲れただろう、リュカ。お疲れ様」

「フィルも、お疲れさまでした」


 湯あみを終えて今日から一緒に使う事になる寝室に通された二人はそう言って頭をさげた。

 これからはいわゆる………………そういう時間だ。

 もっともリュカはエニグマが言っていたような印を神殿で受けてはいない。フィリウスが「ゆっくり考えよう」と言ったからだ。元より本当に元の姿に戻れるとは思っていなかった。

 その為に婚約も破棄した。

 そしてその為にリュカが危険に晒された。

 もう過ぎた事だった。それでもお互いの胸の中に傷は残った。


「えっと…………」

「うん。リュカが嫌な事はしないよ」

「…………嫌と言うわけでも……」

「そうなの? それなら出来るところまで進んでみようか」

「………………そう正面切って言われると……」


 赤くなったり青くなったりするリュカにフィリウスが笑う。


「リュカ」

「はい」

「これからもよろしく頼む」

「あ、はい。こちらこそ」


 ベッドの端に二人で腰かけて用意をされていたワインに似た何かを少しだけ口に含んだ。


「甘い……」

「ああ、そうだね。甘くて、でもすっきりしていて飲みやすいかな」

「ああ、そうですね。本当に」

「でもリュカ、そういうお酒こそ気を付けなければいけないよ?」

「え?」

「甘い酒ほど度数が高く、回るのも早い」

「…………そう、なんだ」

「そう。だからこういう時に出されるんだ」

「え?」


 トンと軽く肩を押されてふわりとベッドに倒れた。


「嫌なら言うんだよ。言えなかったら肩を押しなさい」

「………………うん」

「愛しているよ、リュカ。君がこの世界に来てくれて良かった」

「…………うん。この国の宰相様がフィルで良かった。俺も………」


 愛しているという小さな声は口づけに飲み込まれて、その夜、二人は無事に初めての夜を一緒にすごしたのである。



  -◇-◇-◇-



「とてもすてきなちゅきよですね。いっしょにしゃんぽにでかけませんか?」


 にっこりと笑う三歳児が出した手をリュカは嬉しそうに「はい」と頷いて取った。

 今日は満月。二人の秘密だと言った通り、これを知るのは二人だけだ。もっとも夜の散歩に秘密の護衛が付かないわけはなく、最低限の者がそれに気づかない振りをしているのだろう。


「フィル、今日は奥庭の温室に綺麗な蘭の花が咲いたんです。まだしばらくは咲いているというので時間が取れたら見に行きましょう」

「しょうか。ではあしゅのひるにでもいこう」

「え? お城は?」

「あしゅはやしきのしごとら」

「そうですか。では明日一緒に見ましょう」

「うむ。ああ、そうら、はなといえば、つきよのばんしかしゃかないはながしゃきそうらとにわしがいっていた。しゃいたらいっしょにみにいこう」

「はい」


 結婚式から半年が過ぎ、彩夏から子供が出来たと知らせが届いた。

 それを見て少しだけ羨ましいなと思った。

 元の世界ではそれを望む事は出来ないけれど、この世界ではそれが可能になる方法がある。それでも今はもう少し、こんな生活を楽しむのもいいかもしれない。


「あしゅはおおきなわたちといっしょらぞ」

「はい。どちらのフィルも大好きです」

「りゅか、しょうではない」

「…………あ、そ、そうですね。どちらのフィルも愛してます」

「うむ」


 ギュッと握られた小さな手はきっと明日はリュカの身体を抱き締める大きな腕になるのだろう。それを幸せだと思いつつ、リュカはフィリウスと一緒に大きな丸い月を見つめた。

 聖女召喚に巻き込まれるのも悪くなかったと思いながら―――――――……


                            

   ー了ー

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

こちらは『全年齢』ですので、これで精一杯かなwww

近頃は口づけくらいは大丈夫で、朝チュンくらいならOKと聞いていたので大丈夫だと信じたい。


ネトコン13に参加をしているので、こちらはこれで終わりです。


応援ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! リュカくん幸せそうでよかった(^-^) そして夜の大人フィルさまの色気がすごいですね (//∇//)♡素敵 機会がありましたらその後の二人も見てみたいです! お疲れさまで…
小さな手も、大きな手も、どちらも強く優しく温かい。彼が伸ばす先にある手の持ち主も、温かく優しく強い。良き領主夫妻に護られることになる領民も幸せだし、素敵な家族が増えたコンコルディア家も幸せですね。「そ…
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