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27 はじめての魔法

 リュカの魔法属性はなんと基本属性の全てがあった。

 水、火、土、風、木、光、闇の七属性持ちというのはこの世界でもかなり珍しいらしい。

 これにはエニグマも驚いてしまったのだが、さらに驚きだったのは魔力量の少なさだった。

 使える魔法は沢山ある筈なのに、魔力量がなさ過ぎた。魔力を溜められる場所が小さいのだ。


「魔素を感じて、身体の中で循環させる練習をしていけば、魔力を溜められる場所は大きくなっていきます。もっとも急激に増やす事は出来ません。お身体を壊してしまいますからね。どんな事をしたいのか考えながらゆっくりと魔法を楽しんでいただければと思います」

「分かりました」


 というわけでまずは魔素を感じる事と、魔力を溜める場所を把握する事の練習となった。その間にやりたい魔法を考えていく。


「と言われても、どんな魔法があるのかが分からないなぁ」


 魔法と一言で言われても、うっすらと浮かぶのは読んだ事のある小説の中に出てきたものや、小さい頃に見たアニメのものだ。けれどそれもよく分からない。


「そうですね。う~ん。生活魔法と呼ばれるものですと、『ライト』という光を灯す魔法や、『クリーン』という洗浄魔法。片付けに『プットバック』を使う者もいますね」

「なるほど……」


 そういえばそんな魔法が使われる話を読んだ事がある。あとリュカが覚えている魔法というと……


「鑑定とかは?」

「鑑定ですか? 鑑定はスキルですね」

「スキル……」


 それもなんとなく覚えがある。もちろん先程の属性というものとの違いは分からない。そんなリュカにエニグマは「少しずつお話をしていきますよ」と笑った。ちなみにリュカにはスキルがなかったようだ。

 とりあえずは先程言っていたようにどこにでもあるという魔素を感じて、それを取り入れて魔力として使うための器の場所を確認するのが課題になるのだろう。


「では先程言われた魔素を感じる事と、魔力の保管場所? ええっと魔力の器って言えばいいのかな。その二つから始めていきます。と言ってもよく分かっていないんだけど、よろしくお願いします」

「はい、リュカ様。よろしくお願いいたします。」


 ふんわりとした説明で始まった魔法の講義。

 けれどその講義で、リュカは魔法を使う事は出来なかった。


 -◇-◇-◇-


「どうちた、りゅか。げんきがないようにみえりゅが」


 夕食の時に少し心配そうに声をかけてきたフィリウスに、リュカは小さく笑って今日の事を話した。


「魔法を使う以前に魔素というものがよく分からないから、感じるというのが曖昧過ぎて……」

「……ふむ……わたちたちにとってはそこにあるべきものだったからなぁ」

「はい。空気と同じようなものと言われたのですが。見えれば分かりやすいんだけど。一応とても小さいみたいだけど、魔力の器はあるみたいなので頑張ります」

「そうらな。そりぇにちても、ななぞくしぇいしゅごい。りゅかはどんにゃまほうがちゅかいたいのら?」


 食後の果実水を口にしながらフィリウスはそう尋ねてきた。


「どんにゃまほうがちゅかえるのかわかりゃないなにゃら、まほうとかんがえじゅに、ちてみたいことや、できたらいいなというのでもいい」

「してみたい事や出来たらいいなか」

「そうら。わたちはまほうがちゅかえるようになったらしょらをとんでみたいとおもった」

「空ですか⁉」


 思ってもみなかった事を言われてリュカ思わず声をあげていた。


「ああ。だが、かじぇまほうらけではしょらはとべにゃい。しょのうちにどうちてしょらをとびたかったのか、わしゅれてちまった。さいしょはみんにゃそんなものら」

「ふふふ、空を飛ぶかぁ。楽しそうだけど、落ちたら怖いなぁ」


 クスクスと笑ってそう口にしたリュカに、フィリウスも小さく笑った。


「ええっと、エニグマが言っていた『クリーン』っていうのは元の世界の小説にも出てきたからやってみたいかな。あとは…………」


 部屋の中を見回したリュカはふと花瓶に生けられていた花が一輪萎れているのをみつけた。


「花が……」

「ああ、うまくみじゅがあがらなかったのか」


 フィリウスの言葉に従者の一人がさっと動いて、その花を外すのを見てリュカは「あ」と小さく声を上げた。


「りゅか?」

「あ、いえ、その、水がうまく上がらないなら下の部分を少し切って、火でちょっとだけ炙ってみるとか、砂糖水につけてみるとか……ああ、こういうのを元気に出来る魔法があったらいいのにな」


 要するに水の吸い上げが問題なのだ。以前温室で同じ花が咲いていたのを見た事ある。せっかく飾るために摘まれたのだ。それならば綺麗な姿で人の目を楽しませてくれたらいい。そうする事できっと花も喜ぶだろう。

 そう思いつつ従者の持つ花に向かって手を伸ばした時だった。


「え……」


 何かが身体の中で動いた気がして、お腹の辺りが少しだけ温かいと感じた瞬間、花首が下を向いていたそれがゆっくりと元に戻り始めたのだ。


「……なに? え? えぇ?」


 あの時の『彼』もリュカの首に手を触れてはいなかった。

 そして今の自分も花に触れてはいない。


「しゅごいな、りゅか! ひかりまほうら!」

「え、魔法?」

「しょうら、いやしのまほうと、おしょらくはさいせいのまほうもかけあわしぇているだろう」


 初めての魔法はどうやら高度な魔法だったらしい。それでもリュカ自身には自分が魔法を使ったという自覚はない。けれど従者が手にした花は生き生きとしている。

 ああ、こんな魔法だったらいいなと思った。

 もしかしたら『彼』が使った魔法が怖いという気持ちがあって、魔法を使う事をどこかで躊躇していたのかもしれないとも思った。


「記念にその花をもらえますか?」


 そう言うと従者はコクリと頷いた。それを見てリュカ専属のサーヴァント、スアヴィスがさっとやってきて「お部屋の方に生けておきます」と明るい黄色の花を受け取った。


「はじめてまほう、おめでとう。りゅか。とても、あにゃたらしい、やしゃしくて、きれいなまほうらった」


 フィリウスにそう言われて、リュカは少し照れながら「はい」と返事をした。


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