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Reセカイ  作者: 月乃彰
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第126話 〝壊れた──〟

 ミナの捜索開始から数日後。

 ヒナタの監視カメラのチェックにより、ミナの大まかな居場所を割り出すことはできなかった。

 しかし代わりに、怪しい人物を見つけることができた。リンたちが調べると、その人物の素性が判明した。


「リオ・フォーサイス。元一級魔術師であり、現一級魔詛使い。固有魔力は『夢幻法術』。簡単に言えば完全催眠能力ね」


 プロフィールを纏めた書類を、リンは机の上に広げた。

 現在時刻は11:30。場所はメディエイト。フルメンバーが集まっていた。


「⋯⋯そして、この事件の真相についても大方見当がついたわ」


「それは⋯⋯どういうこと?」


 リエサは食いつくようにリンに聞き返した。


「リオ・フォーサイス一級魔詛使いは、魔詛使集団『新秩序』の構成メンバーの一人。『新秩序』の目的は──現GMC体制の破壊よ」


 リンは何か思うところがあるらしく、考え事をしている。

 しかしリエサからすれば関係のないことであり、彼女は彼女なりに現状をまとめる。

 『新秩序』の目的。それは現在のGMC体制の破壊。そのために今回の騒動を起こしたと思われる。

 なぜか?


(財団との関係の悪化。財団との敵対。あるいは両方ってところかしら。御三家が財団側にとって敵対的な行動を取るように唆したのだとすれば筋は通る。まあもっとも憶測ばかりで確証はないけれど⋯⋯)


 なんにせよ、この事件がそう単純なものではないとわかった。GMC体制の破壊を目論む集団が関わっている。碌でもないことを考えているに違いないだろう。

 敵はGMC上層部、保守派だけではない。


「西園寺さん、『新秩序』の居場所はわかるの?」


「暁郷さんの調査結果で大まかな場所は割り出せた。魔術的に隠れ家にできそうな場所はいくつかピックアップしてるから、あとは虱潰しに調べていけば分かると思うわ」


「わかった。じゃあ襲撃しよう」


「ええ⋯⋯ええ? それは早計すぎるわ。相手は魔詛使集団。時間掛けて行くべきよ」


「⋯⋯でも、こうしているうちにミナに何かあったら? 未だ『マナ家』にはミナの身柄が渡されていない。おそらく、いや確実に『新秩序』はミナを利用して何かしようとしている。それを一刻も早く阻止しないといけないわ」


「月宮、少し冷静になれ。俺も星華のことは心配だが、だからといって焦って動けば碌な結果にはならないぞ」


 リエサを落ち着かせるようにアルゼスはそう言った。


「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯ごめんなさい。少し取り乱した」


 空気が少しだけ悪い。が、いつまでもこうはしてられない。

 リエサのためにも、そして事態の収束のためにも、行動を始めなくてはならないと考えたアレンは思考し、方針をまとめる。


「⋯⋯どちらにせよ、行動は早めのほうがいい。GMC上層部は星華の身柄が渡されなくて焦っている状況だ。そろそろ本格的に動き始めるだろう。それより早く、星華を見つけないといけない。だから今晩は事前調査だ」


 アレンはリンから受け取った資料のうち、『新秩序』の隠れ家候補が記された地図を広げた。

 ポイントは四ヶ所ある。


「人員、時間的にも、探ることができる場所は今日だけだと二つだな。どこを探る?」


「わたしはこことここを調べるべきだと思いますね」


 真っ先に答えたのはヒナタだ。指した場所は森の中にある廃墟と町中の路地裏である。


「廃墟の方はシンプルに人が寄り付かないから。魔術に関してもあまり知りませんが、こういう場所のほうが結界も貼りやすいのでしょう?」


 ヒナタはリンたちの方に目をやる。彼女らは肯定するように頷いた。


「そして路地裏の方。このあたりは区画整理で余った場所で、人通りは比較的少なめ。何より複雑な地形をしています。つまり尾行を巻きやすく、察知しやすい。わたしが犯罪者なら隠れ家はここにしますね」


 ヒナタの考察を誰も否定する気はなく、他に有力な意見もなかったため、今晩はその二つを調べることになった。

 調査員はそれぞれ二人。路地裏の方にはリエサとアルゼス。廃墟のほうにはリンとヨセフだ。


「廃墟のほうはおそらく魔術的結界が施されています。今回はあくまで調査なので結界は破壊しません。だから通信が途切れる可能性がありますけど⋯⋯」


「わかった。そっちのほうは魔術師の君たちに一任する」


「了解しました、エドワーズ機関長」


 アレン、ヒナタはメディエイトにてバックアップ。今回の現場は市街地ということもあり、彼らの得意分野だ。


「くれぐれも大きな騒動は起こさないように。準備、休憩込みで三十分後に作戦開始といこう」


 ◆◆◆


 夜、学園都市、某所にて。

 人通りの少ない路地裏を、『新秩序』の幹部格であるリオは歩いていた。

 リーダーから受けた命令は一つ。『星華ミナを監禁し続けろ』。

 理由は財団側の調査を待つため。GMCおよび『マナ家』がこの誘拐事件に関わった証拠を取るための時間稼ぎ。

 が、そのうち『マナ家』の魔術師がリオたちを探し始めるだろう。いや、もうしているはずだ。

 『マナ家』はリオたちを利用し、星華ミナを魔詛使いの仲間だと汚名を着せ、表向き逮捕、処刑の為に指名手配した。勿論用済みになったリオたちは殺されるだろう。魔術界の上層部らしい計画だ。

 つまり、リオたちをもう生かしておく理由はなくなっている。


「──私たちの計画の第一段階は、『マナ家』の人間と財団、学園都市側の人間が遭遇すること」


 路地裏でも少しだけ広い場所。月明かりがスポットライトのようにリオを照らしていた。

 彼女は突然そこで立ち止まり、そしてその言葉を口にした。


「まさか、私が貴方たちの尾行に気がついていないとでも思っていたのかい? 数日前にここらへんを調査していた人間と、それよりもっと前から私を監視していた魔術師。そして今、この瞬間、私を襲おうと思ってたでしょ? でも声を掛けられて止まってしまった⋯⋯そういう感じのはず」


 リオは魔術陣を展開し、一般攻撃魔術を放つ。それは同時に二つ。別々の箇所を狙っていた。

 防御魔術が二つ、展開。諦めて、彼らは姿を表した。

 一人はリエサ。そしてもう一人は黒いローブに身を包んだ何者か。背丈から察するに男だろう。


「⋯⋯なるほど。メディエイト、か。そうだね、財団も流石に表立っては動けなかったか。そしてもう一人の方は⋯⋯まあ予想通り、『マナ家』の魔術師ね」


 リオはそう言った、次の瞬間、男の背後に周り、ナイフで彼の首を切り裂いていた。

 速かった。いつかの殺人鬼を思い出した。あれほどではなかったが。

 そしてリオはリエサにゆっくりと近寄った。まるで殺気がない。それとも⋯⋯。


「⋯⋯どういうつもり?」


「貴女はメディエイトの人間だろ? つまり財団側。私たちが憎む相手じゃないし、何より交渉の余地がある。あと、君には目撃者、証言者として帰ってもらいたいからね」


「つまりあんたは私に、財団とGMCの仲を別つための証人になって欲しいってわけね」


「そうそう。話が早くて助かるよ。もしかして、こっちの目的とか正体とか把握してる?」


「⋯⋯⋯⋯」


「答えないか。まあ、でも大体わかった。──協力はしてくれない、ってことだ」


 リオ目掛けて結晶の弾丸が放たれる。彼女は容易く、それを回避した。


「GMCに壊滅されちゃ私たちが困るし、私たちは犯罪者になりたいわけじゃない。『マナ家』、魔術界上層部のやり方が気に入らないってのには同意だけど──」


 『Accel Edit』、〈倍加速(ダブル・アクセル)


 リエサは結晶の柱を複数生成。それらに加速の魔術を付与し、射出した。


「──それはミナを攫って利用しているあんた達も一緒だわ」


 防御魔術によって掃射を防いだリオは、その火力に驚いていた。

 超能力に魔術の重ね掛け。これまでの常識では考えられない技術だ。

 練度は二級魔術師並み。その火力は一級でも上位に相当。総合的に考えて、リオが知っている情報からすると、異常とも言えるレベル。


「魔術を知って一ヶ月弱ってところなのに。才能への期待込みで一級魔術師に推薦されたっておかしくないわね」


「そりゃどうも」


 結晶の弾丸が無数に放たれる。

 路地裏という閉鎖的な空間。そこで放たれる面制圧の攻撃。回避は難しく、防御を強いられる。

 しかし、リエサの結晶の弾丸は貫通力が高く、面積を絞り硬度を上げた防御魔術を使う必要があった。

 いくらジャストガードを徹底し消費魔力を抑えても、そもそもの物量が通常の魔術とは違う。加えて超能力主体の攻撃であることが、リオに無駄なリソースを吐かせていた。


(リオ・フォーサイスの固有魔力は直接戦闘向きじゃない)


 『夢幻法術』──不明ではあるが条件を満たせば、対象の完全催眠を行うことができる精神操作系の固有魔力。

 現時点で既に術中に嵌っている可能性がないと言えば嘘になるが、発動条件が分からない以上、それは考えても無駄だ。


(現段階においても催眠魔術を使ってきていない状況。逆に言えば、その発動条件は満たせないってこと。このまま、押し切る!)


 リエサの弾幕が更に激化する。流石のリオでも、これが続けば敗色は濃厚。これは事実だ。


「強いね、貴女。私の固有魔力も把握しているみたい。でも、少し勘違いしているのかな?」


「──ッ!?」


 リオは魔術陣を展開する。それが固有魔力のものである可能性はある。何が来る。何が行われる。リエサはそれを警戒する。

 ⋯⋯しかし、


「なぜ、私が()()()()()使()()()()()()()、さ」


「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 リエサの目から、光が消える。その場に、立ち尽くす。


「⋯⋯さて。月宮リエサ、貴女には駒になって──」


 リオの催眠の術中に嵌まれば、その精神は掌握される。

 全魔術師の中でも、彼女は最強の催眠使いだ。抗うことは、数少ない術師を除き存在しない。

 ──そして、月宮リエサはその一例であることをリオは知らなかった。


「──全く、世話が焼けるな」


「⋯⋯何者?」


 黄色の目から青色に変わったのをリオは確認した。加えて、魔力が僅かに変化したのも。

 別人だ。


「それを君に教える理由はあるのか?」


 魔術光線がリオに放たれる。彼女はそれを避けた。


(魔力出力が上がっている。⋯⋯と、いうより、拡散が抑えられている。魔術師としてのレベルが上がった?)


「君とはまともにやり合いたくないところだが、ただでは逃してくれないだろう?」


「そーね。そっちの貴方の心も、渡しなさい」


 リオは魔術陣を展開する。が、アルターはそれを見ないようにした。

 直後、術陣は消える。


「催眠魔術の発動条件。術陣を見せること、だろ? そして展開時間にも制限があるみたいだな」


(そこまでなら予想できる術師は少なくない。それならそれで使いようはある!)


 リオは術陣を展開する。これに大した魔力消費(コスト)はない。

 術陣を見せるということは、相手は必ずそれに対処しないといけない。

 魔術師同士の殺し合いにおいて、たった一秒でも視界を制限できることとそのための思考リソースを奪うことはアドバンテージとしては破格だ。

 

「浅いな。魔術が煙たいのなら、やることは一つだろ?」


 『Accel Edit』、起動。

 

 アルター・フィリアベルツ一級魔術師。

 彼は生前、心核結界に至る魔術師ではなかった。

 しかし、死人であろうと彼は存在している。

 存在し、成長している。

 月宮リエサが彼から魔術の感覚を学ぶことができるように、彼もまた、月宮リエサの魔術の感覚を理解していた。


「──っ。──心核結界ッ!」


 リオもまた、心核結界の使い手だ。

 しかし、魔力出力において、アルターを上回ってはいない。練度でも、彼女は心核結界を使える程度。


(君の技、借りるぞ)


 アルターはかつての弟子が、初めて、彼を上回った時に見せた魔術を、今ここに再現する。


「心核結界〈壊れた(ブロークン)──」


 ──が、瞬間、()()()()()()


「手間取ってるね、リオ。だから、来ちゃった」


 薄いピンク色のミディアムヘア。

 紅く、星が宿る瞳。

 純白のワンピースタイプの制服に、ピンク色の上着を身に着けている。

 可憐な少女。しかしその純粋無垢な精神は、犯されている。

 『夢幻法術』による催眠効果。

 認識能力への干渉。水溜りを湖に見せたり、そこら辺の一般人を有名な芸能人に見せたり。認識能力を騙し、誤認させる。


「あなたは、誰かな?」


 心核結界は展開された直後、爆破解体された。

 月宮リエサに掛けられた催眠魔術は条件だけを満たした状態であり、改変は行われていなかった。つまり、発動そのものはしていなかった。

 心核結界の展開による魔力回路の麻痺によって、リエサは精神の掌握状態が解除される。

 だがしかし、リオの魔術による精神改変の結果は、当然だがそれ以降、彼女が魔術を解いたとしても続く。


「⋯⋯ミナっ!?」

 

 リオは星華ミナに対し、自身を『幼い頃からの親友である』と、そして月宮リエサなど、星華ミナの仲間を全員、『知らない人間である』と、()()()()()()()()()()

 そのことを頭で理解できても、リエサの心がそれを信じられなかった。

 ミナは手を伸ばす。そして瞬間、周囲に星屑が舞う。

 見てから反応することはできない。感知能力がなければ避けるという選択肢すら現れない。

 しかしリエサは違う。反応、視認、認識するまでもなく、タイミングが分かる。

 だから防ぐことができた。


「⋯⋯っ!」


 周囲の建物が瓦礫に変貌する。ミナとリオの居る場所だけが無傷のままだ。


『月宮、一旦退け。星華とあの魔詛使いを同時に相手することは不可能だ』


 アルターが心核結界を展開したが、展開直後に破壊されたため、リエサの魔力回路は疲弊する程度で済んでいる。

 超能力を司る脳回路には影響がない。疲弊した魔力回路でも、超能力を併せれば逃げることはできるはずだ。


(でも⋯⋯! 今! ミナを連れ戻すことができるチャンスよ!)


『それより先に君が倒れたら意味がないだろう! ここは逃げろ!』


(⋯⋯っ。⋯⋯ッ!)


 『Accel Edit』、起動。

 リエサの身体速度が四倍まで跳ね上がる。そして一目散に逃亡し始めた。


「リオ、追いかけたほうがいい?」


「構わない。下手に追いかけて反撃されても困るしね」


「わかった──危ないっ!」


 上空。無数の氷柱が落下してくる。

 ミナはすぐさま手を伸ばし、それらを全て爆破する。

 ミナは大きく息を吐いた。


「すご。わたしの全力でようやく相殺できるだなんて」


「はは⋯⋯流石、とんでもない」

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