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Reセカイ  作者: 月乃彰
125/130

125話 氷の心

 魔族連合の襲撃事件、そしてその解決から二日後。

 ミナは昨日、病院を退院し、今日、学校に登校していた。

 リエサはメディエイトに用事があるらしく、久しぶりにミナは一人で寮に帰ることになっていた。


「⋯⋯⋯⋯」


 いつもの帰り道を少し外れて、人気の少ない道に入る。

 路地裏でもなく、ただ、人が少ないだけ。帰り道にどこか寄り道しようと思えば、何ら不思議ではないルート取り。

 だから警戒こそすれ、違和感を覚えなかったストーカーはミナに背後を取られた。


「さっきからわたしの後をつけているけど、誰?」


 ストーカーは、背丈はミナとあまり変わらず、同性。黒いパーカーを着ており、フードで頭を覆っており顔は伺うことができない。

 彼女は両手を上げた。


「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯優しいね、星華ミナちゃん」


「──え」


 瞬間、女はミナの顔にハンカチを押し付けた。想定外の動きとスピードにミナの反応は遅れてしまった。


(しまっ──これ、くす、り⋯⋯っ!)


 ミナは一息した時点で意識が朦朧とし、そして失う。

 パーカーを着た女は倒れるミナを抱き抱え、そのままその場から去った。

 しばらくして、ミナが意識を目覚めさせたとき、まず見たのは全く知らない天井だった。

 冷たい床にそのまま、というわけではなく、ミナはベットに寝かされていた。

 しかし両手両足は拘束されており、身動き一つできない。できることがあるとすれば、首を動かし周囲の状況を把握することぐらいだろうか。


(超能力⋯⋯駄目。現実安定装置か何かで能力が使えないようにされてる)


 超能力は使えず、しかし、ミナの魔力強化程度だと、少なくとも現状の体制からでは拘束を破壊することはできなかった。


(あれからどれくらい眠ってたんだろう。多分、そんなに経っていないとは思うけど⋯⋯)


 考えても結論はでない。とりあえず待つしかない。寮に戻らなければ、捜索はしてくれるはずだ。

 そんなことを考えていると、不意に部屋の扉が開いた。ミナはそこに目をやると、一人の茶髪の少女──歳は同じくらいか、一つ上くらいだろうか──が部屋に入ってきていた。

 彼女が着ている黒のパーカーには見覚えがある。そうだ。彼女に眠らされて、今ここにいるんだ。


「ごめんね、起きて早々に逃げられたり暴れられたりしたら嫌だったから、ちょっと窮屈だけど縛り付けさせてもらったよ」


「⋯⋯何が目的なの? あなたは誰? ここはどこ?」


「矢継ぎ早に質問しないでよ。でもまあいいや。答えてあげるね」


 女はミナが眠るベッドに腰を掛けた。花の甘い香りがする。


「私はリオ・フォーサイス。魔詛使いよ。とある依頼で貴女(あなた)の身柄を確保しろ、って言われたから、貴女を攫わせてもらった」


「⋯⋯⋯⋯」


「あ、依頼主は『マナ家』ってとこね。魔術界御三家の一つが、魔詛使いに依頼するって⋯⋯いやまあ、そんな真っ黒い事は、なんら珍しくないけどさ」


 女──リオは、まるで愚痴でも吐き捨てるようにそう言った。


「⋯⋯あっさり依頼主を言うなんて、どういうつもり? それとも、わたしが逃げられないって本気で思ってるの?」


「元々、依頼はまともにこなすつもりなかったんだ。そうだねぇ、私の⋯⋯いや、()()()の目的も話そっか」


「⋯⋯は?」


「簡単に言えばね、私たちは今のGMC。そしてこの世界の在り方を壊そうと思っているんだ。だっておかしいでしょ? 魔術師が誰にも知られずに魔族や魔獣と戦い、人知れずに死んでいくなんて。何百年も前は誰もがそれを知っていて、誰もが魔術師を敬っていたのに、今はそうじゃなくなっているんだ。おかしいとは思わない?」


「ちょっと、待って。急に何を⋯⋯」


「私たちはGMCを壊すつもりなの。そして数日前、GMCは大魔族三体と戦い、勝利したものの損害は深刻。⋯⋯チャンスだと思った私たちは、GMCを襲撃することにした。けれどGMCは財団と手を組んでいる。それは厄介だ。だから、そこで貴女の出番ってわけ」


 リオはミナに顔を近づけた。


「貴女の固有魔力『変質』は、『マナ家』相伝の魔力。今の『マナ家』はそれを持つ貴女の肉体が、喉から手が出るくらい欲しがっているだろうと思ってさ、情報を流したらすぐに依頼が来たよ。その『変質』の魔力を持つ人間を攫ってくれ、って」


 リオは話を続ける。目には狂気と憎悪と呆れが混ざり合って、映っていた。


「大義名分のために『マナ家』は貴女を殺人犯に仕立て上げて、GMCが表向きには貴女を死刑にするだろうね。けれど実際、貴女は孕み袋にされるだろうね。貴女の固有魔力を受け継いだ子供を手に入れるために」


 ミナは思わずゾッとした。目の前の魔詛使いが言っていることが本当かどうかなんて全く分からないのに、その全てに説得力を感じてしまう。

 喋り方もあるだろうが、リオは本心からそう思っているのだと、分かってしまうからだろうか。


「GMCの上層部はクソだし、勿論、『マナ家』もゴミだよ。そして魔術師たちの多くは勿論、これに懐疑的な見方をしている。『マナ家』の企みにも気がつくはずだ。だって私がそうなるように情報を漏らしているからさ」


 リオは立ち上がり、両手を広げた。


「それではクイズ。これからどうなるでしょう?」


「⋯⋯それは。⋯⋯それは、『マナ家』の企みが阻止される?」


「そうだね。そうだ。そうさ。現場に出ていた魔術師たちは、きっと、大魔族ギーレを討ったとされる貴女、星華ミナを英雄視なり、功労者として敬っているはずだ。そんな人間が、『マナ家』の身勝手な理由で人殺しの汚名を着せられ、その人生がグチャグチャにされるなんて、許せないはずだ。何よりその真相を知った財団は、きっとGMCとの協力関係を破棄するだろう。協力者を失い、内輪揉めが発生し、そこに私たち『新秩序』が反乱組織として魔術師たちを扇動することで、GMCを事実上崩壊させる。良いシナリオだとは思わない?」


 ミナに魔術界のことは分からない。魔術師ですらない魔術使いの彼女が、この問題を正しく判断することはできない。

 けれど一つ。わかることがあるとすれば、


「⋯⋯それでも、あなたは間違っている」


「⋯⋯なぜ? 貴女の人権なんて無視しようって連中を、貴女は壊したくないの?」


「たしかに、あなたの言うことが本当ならば、GMCも『マナ家』もおかしい。けれど、今の社会を壊してまですることじゃないと思う」


「⋯⋯人知れずに死にゆくことを肯定すると? 魔術も使えない人間のために、魔術師が、感謝もされず死ぬことを認める、と?」


「魔族、魔獣の発生そのものを抑えるには知られないことが重要なんでしょ? わたしの魔術の先生が言っていたの。この世界は助け合いで成り立っているんだ。そのためなら、その現実を認めなくちゃいけない。それに、誰にも知られず死んでいくわけじゃない。少なくともわたしは、知っている」


 リオは立ち上がり、ミナから離れるように歩く。そして壁にもたれ掛かり、彼女のほうを見る。


「大人だね。しっかりしてる。間違っていないよ。でもね、星華ミナ。時に人間は正論よりも感情を優先したがる生き物なんだ」


 リオはそのまま部屋を出ようと扉を開けた。そして去り際、彼女は言う。


「──私は今の世界のあり方を、どうしても認めたくないんだ」


 ◆◆◆


 密会の後日。星華ミナの失踪から二日後、アレンはリエサ、ヒナタ、アルゼスと、そしてリン、ヨセフを呼んだ。

 10:00、メディエイトにて。


「──と、言うことだ」


 リエサたちはアレンから、今のミナが置かれている状況とこれからの方針を伝えた。

 折角、大魔族を退けたというのに、すぐに厄介事に巻き込まれた。災難だし、何より、


「⋯⋯ミナ」


 リエサは呟く。アレンはその小声を聞いたが、敢えて何も言わなかった。


「とりあえず、今、動くことができるのは俺たちだけだ。しかしあまり目立つ動きもできない。なにせバックには魔術界の上層部が居るからな」


 リンとヨセフは顔を顰める。二人はGMC所属の魔術師。今回の件には思うところがあるのだろう。


「⋯⋯警戒すべきは、所謂、保守派。規定、掟、習わし。それらを重視する派閥は超能力や科学技術を嫌う傾向にあります。星華ミナという超能力者をマナ家の後継者として支持する者はいないでしょうね」


 リンは魔術師として、見解を述べる。

 魔術は古来より存在しているためか、大きく分けて二つの派閥が存在する。一つは保守派。もう一つは革新派。そして魔術界の上層部の殆どは保守派だ。

 今回、敵に回すのは保守派であり、それはつまり魔術界そのものを相手にすると言っても構わない。


「保守派⋯⋯。敵対するとなると、誰を警戒すべきですか?」


 リエサは真っ先にそれを聞いた。らしくない発言だ。敵対はあくまで仮想であり、やり合うわけじゃない。

 が、リスクを聞いておきたいのだろう。


「⋯⋯⋯⋯そうね。御三家の魔術師は全員。上は一級。最低でも二級相当の魔術師。ああ、でもゼルス・フラームはどちらかといえば中立よりだから、フラーム家は交渉の余地ありってところかな」


 それから、リンは何人かの魔術師の名前を挙げた。

 しかし、聞いている限りだと何も問題はない。


(──全員、殺せる)


 リエサは先の戦いで魔術の感覚を掴みつつあった。特にアルターの魔術操作は良い参考になったものだ。


『⋯⋯⋯⋯』


「──あと、多分、保守派で一番警戒すべきなのが、白霊スズサ。B&Dのメンバーの一人でね、等級は一級。腕っ節だけならともかく⋯⋯彼女の固有魔力が何より厄介なの」


「それは?」


「──『傀儡死生』。魂と死者を操る魔術師よ。B&Dのメンバーは全員特級魔術師に次ぐ化物連中なんだけど、中でも白霊スズサは最も特級に近いって言われてる」


 特級魔術師の選定基準は『国際規模での機能不全』である。

 白霊スズサはその条件を満たす危険性がある。

 だが、特級魔術師には制約が必ず課されなければならず、その制約を受けないために、彼女は一級魔術師のままであるとまで言われている。


「死を伝播させるだの、何度でも生き返るだの、死者を操るだの、終いには周囲すべてを殺し尽くすだの⋯⋯碌な噂は聞かないわね」


 リンはそれだけ言うと、話を終える。

 一先ず、やるべきことは決まっている。まずはミナの捜索だ。問題はその方法であるが、これのためにアレンはリンとヨセフを呼び出した。


「魔力は人によって違う。そして魔力は魔術を使わずとも残る⋯⋯って調べたら出てきたんだけど、君たちなら星華の魔力の痕跡を見つけることはできるのか?」


「そうですね⋯⋯」


 答えたのはヨセフだ。捜索、魔力感知ではリンより得意であるためだ。


「それなりの魔術師なら、普通にしていて魔力が残ることはありません。しかし、星華ミナは魔術師としての経験が浅い。魔術戦における魔力隠蔽とはまた異なる技術が要求されるので、可能かと。しかし、それでもある程度場所を絞らないと、厳しいですね。全くの素人ではないでしょうし」


「あ、それならわたしが。学園都市内なら監視カメラのリレー捜査で足取りくらいは掴めるかも」


 声を上げたのはヒナタだ。超能力を使うことができれば、都市中の監視カメラの情報を収集し、検索を掛けることができる。


「わかった。理事会には俺から言って監視カメラのハッキングを許可してもらう」


 ミナ捜索の方法についてはまとまった。あとは実行に移すだけである。

 諸々を話し合って、会議は終了。一先ずヒナタの調査結果を待つことになった。

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