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1.ボツ考察:ニュルンベルクの卵

 ボツンがボツ作品を読んでいる一方、えるえるはパソコンで動画を見ながらゲラゲラと笑っていた。

 『ニュルンベルグの卵』を読み終えたボツンは、えるえるに訪ねた。 


 「えるえる先生、何故これがボツなんですか? 傑作ではないと思いますけど、普通に読める作品だと思いますよ」

 

 するとえるえるは渋そうな顔をして、こういうのだ。


 「いや、確かにね、読める作品だし、テーマもしっかりしてるし、悪くはないと思うよ。時間をかけて文章構造を見直して、書き直せばそれなりになると思ってる」


 「ですよね? まぁ確かにクソ真面目な感じがして、面白くないとは思いますけど」


 「そうなんだよ、面白くないのよ。これが面白くない理由は、老人が志半ばで亡くなってしまうところだと私は思っているんだ。これが老人が生きたまま完成させる話にするべきだったんだ。しかし私にはそれを書き直す時間が、それこそなかったんだよ!」


 ボツンは不思議に思った。ダメな所が解っていて、直せばさらによくなるというのに、何故直さないのだ? 老人が亡くなってしまう所が問題の理由は分からないが、それを直せばよくなると考えているはずなのだ。するとえるえるは続けてこういった。


 「これは、トップダウン・デザインという手法を応用して書いた小説なんだ。ようするに最初に全体のテーマを決める。この小説の場合は、『ニュルンベルグの卵』と『時間の大切さ』になる。これが一番最初に来るんだ。この題名は、時計の歴史に詳しいものならすぐに『世界で初めて作られた小型時計の話』だと分かる。テーマを決めてから詳細に物語を書き上げていく手法なんだ。小説の全体像を決めて、じゃあ後はどんな話にするかを考えるわけだね。この場合は、どうして時計が作られたのか? を考えていったわけだ。すると、常に時間が知りたかったという老人が思いついた。ある程度書き上げて思ったよ。トップダウン・デザイン手法は短編小説の技法として、私はまだまだ使いこなせないとね」


 「そんなもんなんですか。まぁこの話は書き直せば面白くなりそうな感じはしますが、このままでは面白くはないですね」


 「そう、最も重要なところはそれだ。面白くないんだよ! 読み返して思ったね、"なんか"面白くないと。私がそう感じる理由はいろいろだが、ストーリー上の要因は、老人が亡くなってしまうことだ。老人は目標を立てて実行に移したのに、失敗した。老人の友人であるチームの仲間が完成させたって、何だって話だよ。老人が何を思ったのか、時計を作ったことへの悦びが伝わってこないんだ。それに文章構造にも問題が合って、何だか説明的なところもある。オチもそうだ。それのせいか、まったく感情移入ができない。あのままでは駄作だと思うよ、私は」


 「あぁ、なるほど。確かにそうかもしれません。面白くなりそうですが、面白くない。老人の悦びが表現されていないのは確かですね。『小型時計』と『時間の大切さ』が最初に来て老人がおざなりになり、話が説明臭くなってしまったんですかね?」


「そうかもしれないね。最も、ボツン君の言うとおり、この作品は良くなる可能性を秘めている。この作品が読者へ与えるのは、時間を大事にせよというメッセージなのは明らか。つまるところ老人が時計を完成させて、時間を有効に使えたぞという感情を露わにできればより面白くなったと思う。

 その欠陥を補うためにこの小説を直そうと思うと、老人の人物像から見直さなければならない。なぜなら私は『題名』と『テーマ』のみをはっきりと定めて、その環境をきっちりと定義しなかったからだ。そして着地点もだ。老人の衝動から、この作品の良さであるメッセージ性が現れる。だけど老人のバックボーンが深く考えられてないからいまいち魅力に欠けるのだと思う。それに登場人物の考えを中心とせず『題名』と『メッセージ性』から話を動かしてしまったから、有機的な作品ではなくなってしまった。老人やチームの設定をしっかりと考えて、その結果『メッセージ性』が現れたなら、もう少し良い話になったと思うよ」


 「へぇ、じゃあ時間をおいて書き直せば良かったじゃないですか。それこそ時間なんてしぼり出せるでしょ、このストーリー的にも」


 「そう、その通りなんだが……、それを書いた最後の日付が「2018/09/28」になっていたんだ。半年以上ほったらかしてしまった。それに一応は話が『完成』しているんだ。だから、書き直す気がでなくなってしまったんだよ。それに私は、書きたい話がとんでもなくたくさんあるんだ。それならば、こうやってボツ作品として、何故ボツになったかを考察した方がいいだろう? それこそ、時間は『有限』だ」


 「なるほど、まぁ納得しましたよ。完成を見て、時間をおいてしまった作品、確かにそうなる『運命』かもしれません」


 ボツンが時計を見るとなるほど、「2019/04/24 0時」を示している。


 ボツンは、『ニュルベルグの卵』をひっそりと拾い上げ、書棚の中に入れ込んだ。

 ボツだけどボツじゃないと書いたラベルを、ひっそりと張り付けて。


ニュルベルグの卵


執筆日:2018/09/27~2018/09/28

執筆時間:6時間程だったと思う

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