13 本当の敵…
ブルーバードダットサンは世田谷駅前を右折し、世田谷通りを走った。環七通りを左折、国道二十号を斜め前方左方向に進む。ブルーバードダットサンのもののけはさすがに道をよく知っている。僕がウインカーを出す前に自動的に点灯する。ステアリングを離せば運転してくれるかもしれない。ぜひ仲間になってもらいたいもののけだ。
電源を切っていたスマートフォンをオンにする。
「『戸田市彩湖で男女の乗った車が池に落下。男女とも行方不明―』出てるよ。僕たちのことが」
「名前が出てますか?」雪乃が聞く。
「きみ、読んでくれないか。詳しいページを開くよ」
スマートフォンを雪乃に見せる。オカメインコは僕の肩からおなかに移動する。こいつも読む気らしい。
「はい、読みます。『埼玉県戸田市の彩湖に男女の乗った車が落下。落下地点が岸から離れていることから、スピードをあげて意図的に池に落下した心中と思われる。男女の遺体は発見されておらず、女性のものと思われるケータイがひとつ発見された。警察は遺体が車内から投げ出され、泥水の中に埋没した可能性があるとして、引続き遺体の捜索を継続する方針。ケータイに残るデータから身元の割り出しを急いでいる』・・・」
「まだ有名人ではないらしいね、僕たち。そのほうが、ストーカーの皆さんには都合がいいわけだ。脅す材料になる。そこをどう切り抜けるかだ」
「池のなか、とっても臭かったです。泥だらけでけっこう深かったです」天明さんが顔をしかめる。
「泥だらけ、か・・・遺体がその中に沈んで出てこなければ好都合だね・・・」
西新宿に入る。高層ビル群が車に影を落とした。新宿パークタワーの地下駐車場に入り、駐車スペースにゆとりのある地下5階に車を置いた。すぐには車を降りなかった。時計は一時二十分。二時まで時間はある。
「どきどきしますね」雪乃が声を震わせる。
「思いついたよ」僕は久しぶり腕組みをした。雪乃を圧迫しないように腕は中に浮かした。
「さすが高野さん、頼りになります」
「兼田の要求を飲もう・・・」
「天明さんたちもいますもんね」
「そういうこと」
スマートフォンが鳴る。
「兼田からだ」
オカメインコが肩に上ってピーと鳴いた。
「ケータイをオンにしているということはパーティに来る気だね?」兼田の声は穏やかだった。
「もう来てますよ」
「さすが高野くん、確かにきみは有能な部下だったよ。二時まであと三十分あるが、どうかね、わたしの食後のコーヒーに付き合う気はないかね?」
オカメがピーピー鳴く。「静かにしてくれよ!」僕は小声で怒鳴った。
「元上司の言うことに従いましょう」
「なんだね今のは? 高野くん、もう小細工はなしだ。四十一階。『ピーク・ラウンジ』で待ってる」
電話が切れた。
「オカメちゃんなりに威嚇してるんでしょうね」雪乃はインコの肩をもつ。
「こいつはそもそも古文書なんだよ? 謎解きをしなきゃいけない、やっかいな代物だよ・・・そうだ」
僕は天明さんに車で待機するように指示し、エレベーターに乗る。
「いいアイデアですけど、みなさんに申し訳ないような・・・」雪乃が言う。
「仕方ないよ、流血を防ぐにはね・・・」
地下駐車場、一階、その他の階と乗客が多く、四十一階にたどり着くまでに七回停止した。
『ピーク・ラウンジ』に入ると中央に竹林が見えた。天井からはまばゆい自然光が降り注ぐ。容赦ない開放感に眼がくらむ。眼下には、東京の街並みから遠く関東平野の壮大な景色が見える。これが東京だといわんばかりに圧倒される。兼田の存在など忘れかけた。シャツを開いて雪乃にもゆっくり見せた。
「きれいですねえ」雪乃はため息をついた。
「こんないいホテルにいつか泊まりたいものだね」
見ると雪乃が顔を赤らめている。おなかが熱くなるのがわかった。不用意なことを言うものではない。
「もうそろそろ見飽きていいんじゃないかね?」
振り返ると兼田が立っている。
「都会の街並みより、さわやかな竹林のほうが心を洗われるよ」
兼田は背を向け歩き出し、ラウンジのほぼ中央の席に座った。手を伸ばして竹林の葉に触れている。
「係長には似合わないセリフだと思いますが・・・」兼田の対面に座る。
「なんだか高野くん成長したね。わたしを対等な視線で見るね。うれしくもあり悲しくもある。まだきみは一応うちの社員だ。そしてわたしは上司」
「あれ? 元部下ではないんですか?」
「池に落ちた車の男女の身元は不明だからね、今のところ。立場をわきまえてくれたまえ」
「ええ、全面降伏です。係長の背後にはお客さんもおられますし、ね」
ウエイターが来る。
「コーヒー・タイムと言ったがここは紅茶がおいしい。それでいいね」係長が指を立てる。
「上司のおごりなら・・・。もうひとりのお客さんはどこに?」
「それがわかればわたしはもっと陽気だよ。きみの紅茶においしいケーキだってつけてやる。きみ、雪乃は大丈夫かね? 車にいるんだろ、地下駐車場の・・・」
「大丈夫ですよ」
紅茶だけがきた。テーブルに置かれる前から紅茶の香が鼻をくすぐった。雪乃に飲ませることができないのが残念だ。
「おいしいね。久しぶりにいい紅茶を飲んだ。しかしわたしと高野くんにもっとも不似合いな飲み物を注文してしまったね」
「ダークな僕たちに、ピュアなレモンティーですからね」
「さて、そのお客さんだが、会社の人間だろうと思っている。部長クラス、役員クラスにおかしいのはたくさんいるからね。間違いない。きみが雪乃を誘拐した晩、お客はわたしを見ている。でなければ、わたしに電話してくるはずがない。きみが雪乃を自分のマンションに運んだときも、わたしの様子は見ていたのだろう。つまりわたしも監視されていた。はなはだ気分が悪いがね。さらにきみが運転しない車を高いタクシー代を払って追いかけ、池に落ちたアベックの報告を警察にタレこむ役回り、ハードボイルド小説好きのわたしには、この立場は悲しくてたまらないね」
「係長に僕の居場所を教えたのはなぜでしょうか?」
「腹立たしいが間抜けなわたしへの憐れみか、利用しようとしているか、あるいは馬鹿なのか」
「係長、お客さんもここで紅茶を飲んでますよ、きっと。あまり怒らせないほうが・・・」
「そんなに利口なやつなもんか。わたしにきみが生きてることを教えてくれたのはありがたいが、わたしならそんなことはしない」
「係長に恩義があったとか?」
「心当たりはないね」
僕と兼田はお互いの背後にいる人物に注意を払っていた。お客さんを探すためだ。いわば、僕と兼田との暗黙の共同作業だった。長年の上司と部下関係がもたらした恩恵といえば恩恵だった。
「高野くん、このラウンジにいるのは十五人。そのうちの七組が対になって話してる。一人で雑誌を読んでいるのは外国人。それらしい人物がいるかね?」
「係長、先ほど艶のいいスーツを来た紳士がひとり入ってきました」
「そうかね? 失敗したな。僕はきみの席に座るべきだった。入り口が見えるように。安全のためにもね」
「飛行機が突っ込んだとき、係長はすぐに逃げられますよ」
「しかしきみ眉一つ動かさなかったが、どこでそんな訓練などしたんだね」
「視界に勝手に入ってきたんですよ。視線を動かすまえに。それに、なんてことはない紳士ですし・・・ところで、僕のマンションに手紙が入ってたんですが、係長じゃないんですね?」
「なんて手紙だね? コンビニにレターセットはあったと思うが、知らないね」
「『犯罪者をわたしは許さない』それだけです。わざわざ四階まで上がって部屋の玄関のポストに投函したんです」
「そんな陳腐な文章は、わたしは嫌いだよ。きみのマンションに数人出入りした。そのなかにいたか・・・」
「見覚えのある顔はなかったんですね?」
「わたしも張り付いていたわけじゃないからね。にしてもきみにはびっくりしたよ、高野くん。あの晩、わたしは車のほんの近くできみの顔を見た。夜中だったが街明かりでもよく見えたよ。なぜきみが、と思ったね。きみはわが社のヒットメーカーだし、沢井祐未との結婚の噂もあった。わたしも結婚式に呼ばれるだろうと思っていたよ。そのきみが、雪乃を誘拐するなんて・・・」
僕は紅茶を飲み干した。
「それには、わけが―」
「わたしだってね、高野くん。ここまでするつもりはなかった。紳士的なストーカーがわたしの信条だったからね。しかし、きみのあの大胆の行動を見て、負けるわけにはいかないと思った」
「そんなところで張り合わないでくださいよ」
「なにを言ってるんだね、雪乃を誘拐されて黙っているわけにはいかないよ、わたしだって仕事どころじゃない。それに知っていたかね、次の人事で、きみは部長に抜擢される予定だった。わたしを飛び越えてね」
「初耳です」
「『ベビーチョコ』がわたしの『うんチョコ』に勝ったんじゃない。未だに売れている『オランチョ』。その生みの親であるきみに、いわば報酬人事だよ。大したもんじゃないか、三十一歳で部長なんて」
「僕は部長なんてどうでもいいんですよ」
「いや、確かにきみはやり手だよ。車ごと池にダイビングするなんて、よくもやるね。しかもちゃんと生きている。わたしはお客から世田谷の豪徳寺と聞いて、半信半疑だった。しかしほんとにきみが電話に出た。きみも驚いたようだが、わたしはもっと驚いたと言わせてほしいね」
「雪乃のマンションに侵入したのは係長ですか?」
「それは、わたしだ・・・。きみがマンションに運ぶのを見届けてから戻ってきた。本当に雪乃が誘拐されたのか確かめたくてね。部屋に入ると荒らされてない。もしかすると誘拐ではなくて、きみたちが恋仲だということも想像した。嫉妬したよ。もてもてのきみにねえ。だからつい部屋を荒らしたくなった。下着もほしくなった」
「すべてはわたしのせいですか?」
「ところで雪乃は生きているのかね?」
「あたりまえです」僕は強い口調で言った。
「きみが雪乃を抱えて車に乗せたときのあの様子。生きてる感じがしなかった。まるで死人だったよ。沢井と二股かけていて、邪魔になった雪乃を殺したんじゃないか、そう考えるとね、もう気が気じゃなくて、きみの部屋を襲おうかと思ったくらいだ。そう思ったとき、コンビニにきみが現れた。わたしは後悔したよ。コンビニで張り込みをしたことをね。間一髪でトイレに逃れた。しかしわたしは見ていたよ。惣菜コーナーで弁当を二人分買うきみをね。焼肉弁当だったよ、確か・・・そのときは雪乃が生きているとわかった。しかし池に車ごと落ちたときは、やっぱり殺したんだと思ったね。だってきみはあのとき雪乃を毛布にくるんで車に乗せてだろう?」
「彼女は生きてますよ」
「わたしは三十分は池にいたが、誰も浮いてこなかった。証拠を見せたまえ」
「沢井祐未と結婚するまえに、すこしつまみ食いをしたかっただけなんですよ。あれだけの女ですからね。すぐに家に返すつもりでした」
「その話は信じられないね。池に車ごとダイビングするくらいだから。わたしは映画を見ているような気持ちになったよ」
「あの晩、言うことをきかない雪乃を連れ去ったのは事実です。次の日雪乃の友人がマンションに来ると知り、なんとかごまかそうとしたんですが、気のきいた上司のおかげで警察に通報する羽目になったんですよ。映画みたいになったのは、係長の脚色のせいです―」
「そうか、今になって自分の罪を自覚したよ。しかしすべて責任転嫁されては困る」
「もうひとり、お客さんからのラブレターもいただきましたからね。雪乃を返そうと思ってももう遅い。僕はあとには引けなくなった」
「わたしがお茶などに誘ったのはね、きみを見るなり殴りかねないと思ってね、自制するには公衆の面前で会ったほうがいいと思ったのさ。雪乃は殺されたと思っていたからね―誰か入ってきたね?」
「女性です。年配の・・・」
「今度は目が動いたよ、高野くん」
「女性には年配でも目が行きますね」
「さすがに過激派ストーカーだね」
「で、どんな取引を考えていたんですか?」
「雪乃がいないとなると、その悲しみを癒すものはひとつしかないだろう? きみを尾行するのにタクシー代もかかったしね」
「どうでもいいことですが、奥さんがいるのによく動けましたね」
「プライバシーの侵害だよ。妻とは別居中だと言わざるを得ないじゃないか。長男を連れて千葉に帰ってるよ。車でね。もっと聞きたいかね? 別居の理由とか?」
「結構ですよ。それで、雪乃が生きているとなれば、どう出ますか?」
「そこだよ。雪乃を返せと言うべきか。必要経費をいただくか。その両方にするか。ただお客さんも無視できない。お客さんの正体も思惑もわからないしね。今考えているところだよ。きみになにか提案があるかね」
「お菓子の企画会議を思い出しますよ。結論として、雪乃を渡すわけにはいきません」
「本題に入る前に、雪乃を見せてもらおう。生きた彼女をね。どこにいる?」
「実はもう来ています―」
「嘘をついたのかね? 年配の女性だと―」
「タイミングがありますからね。移動しましょう」
兼田は立ち上がった。兼田を制し、案内すると視線で伝えた。兼田はわたしに続く。雪乃は竹林の真下の席に座っていた。
「こちら、兼田係長」
僕が紹介すると雪乃は立った。無言で一礼する。
体温冷却装置でも作動したのか、係長は蒼白だった。
「森下、雪乃さん―」
係長を雪乃の前に導く。着座した係長は、『借りてきたライオン』だった。
「どうも。わたしは、商品開発部二課係長、兼田です。きみの上司の東海林課長とは同期でしてね」
「どうしたんですか係長。さっきの勢いは。『わたしの雪乃ちゃん』でいいですよ」
「おちょくらないでほしいね高野くん!」
森下雪乃をまえに、係長は平静を失っている。僕は優位に立ったと感じた。椅子に座るとつい脚組みをしたくなるほどに・・・。
「わたしの提案です、係長」
そういって僕はセカンドバッグから札束を出した。
「必要経費です。三つあります」
「おいおい、裸で出さないでほしいね。お札が寒がるじゃないか」
兼田はハンカチを出してくるんだ。
「ほんとに必要経費程度だね。まあ、雪乃さんが生きているとわかればいいが・・・だが高野くん、きみたちは池に落ちて死んだことになってる。通報したのは僕なんだよ。僕は世間を欺いていることになる。わたしは正直者だから、世間に嘘をつきとおすのは心苦しいんだがね?」
「雪乃のマンションを荒らした罪はどうなりますか?」
「もちろんその分は差し引いてのことだよ。これじゃあ一月だよ、わたしの堅い口が閉じているのも」
「雪乃で稼いだら、また納めますよ。お代官様」
僕は不適な笑みを浮かべて見せた。
「雪乃で稼ぐ? なるほど、きみの魂胆がわかったよ。そうか、きみはそんな副業をやってたわけか」
「どうです、共同経営者になりませんか。僕も世間から消えてやりやすくなったわけです」
「わたしのおかげだね。共同経営者というより共犯者だろう、そういう商売は」
「係長、どうです、名誉ある一人目のお客になりませんか?」
「雪乃さんを道具にするのは賛成できないね、高野くん」
「雪乃の前で紳士ぶらなくても・・・下着を盗んでおきながら」
「余計なことは言わんでいい。雪乃ちゃんと面と向かうのは初めてだ。少年みたいに狼狽するのは仕方ないじゃないか。ねえ雪乃さん?」
雪乃は人形のようにうなずいた。
「雪乃さんの声が聞きたいな―」兼田は雪乃にすり寄る。
「よろしく・・お願いします・・・」
僕のおなかからではない。目の前の雪乃が言った。
「声もかわいいね」兼田が豹変しつつある。
「係長が取引を断るなら、僕たちは地下駐車場に向かうことになります。応ずるなら、このまま雪乃とご自分のお部屋にどうぞ」
兼田は雪乃をすでに目で犯している。
「他のやつに抱かせるのは地獄だが、仕方ない・・・そのかわりわたしが雪乃の体が傷ついてないか、毎日チェックしてやろう。共同経営者だからね」
「毎日はかんべんしてください。雪乃が仕事できませんよ」
「実に意外だよ、きみがこんな悪党だったなんて。子どもに夢を与える製菓会社のエースがねえ」
「そのギャップがまた自分でもたまらないんですよ。夜は係長のようなナイスミドルに夢を与えているわけです」
僕は立ち上がった。
「部屋を用意します」
「見晴らしのいい部屋を頼む・・・」
僕は嬉々とする兼田の声を背にラウンジを出た。
「大成功だ!」雪乃に話しかけた。
「なんだか、気分がすぐれません・・・」雪乃が暗い。
「ごめん、きみをあんなやつに渡して。でも一晩だけだから」
「一晩でもいやです」
「なにも、きみが抱かれるわけじゃない」
「それでも、気分的に・・・」
「兼田をいっときでも味方につけなきゃ、もうひとりの客に太刀打ちできない」
フロントで一番高い部屋を予約した。『パークスイートのキング』。ふたりで十四万五千五百三十円。クレジットカードで支払う。これくらいで兼田が片付けば安いもんだ。
ラウンジに戻り、兼田に部屋のカードを手渡す。兼田は雪乃の隣の椅子に座りなおし、手をとっている。三百万はテーブルから消えている。
「一晩だけですよ」
兼田にカードを渡す。
「わたしが誘拐しないように見張るかね?」
「信用してますよ。係長と僕は、すっかりお代官様と越後屋ですからね。明日まで消えてますよ」
「そうしてくれると有り難い。落ち着かないからね。心置きなく楽しましてもらうよ」
「明日の十時までです」
「ホテルのチェックアウトと同じか。まあいい」
兼田は立ち上がった。雪乃は手を引かれてついていく。雪乃がちらりと僕を見た。困惑した表情を見せた。一瞬全身が元に戻ったので、慌てて(頼むよ)と拝んだ。
ラウンジを出るふたりを見送る。
「頼む、がまんしてくれ。変身もうまくやってくれよ」僕は心のなかでつぶやいた。
これで兼田は片付いた。明日の朝兼田が目覚めたとき、僕たちはもう高野山にいるだろう。
「天明さんたちに申し訳ありません」雪乃が声を落とす。
「確かに嫌そうだったな・・・」
僕もラウンジを出た。出てすぐ小走りに走る。廊下の十字路で横切り身を隠す。招かざる客を待つ。
「こないね、それらしいの・・・」
「もうひとりのストーカーですね」
「ラウンジにはいなかったか・・・」
「車の本体、大丈夫でしょうか?」
「怪しいやつが近づいたら移動するように言っといたからね」
「でもあの車、返事をしませんでした・・・」
「僕にはわかるんだ。大丈夫だよ・・・ほら、わかった! なんだか背中がむずむずする。車が動いてる。僕にも霊力がついてきたよ、修行もしてないのに。地下に急ごう」
エレベーターを一階で降り、地下駐車場へのエレベーターに乗り換えた。地下五階に行くと、やはりブルーバードダットサンはいない。
「ほらね」
「心配ですね・・・いないのも・・・」
「怪しい人物を避けて移動しているんだろう。探そう」
五階は駐車スペースがかなりすいている。それだけ人気もない。ブルーバードダットサンの姿は見えず、四階に上がってみた。すると意外な人物に出くわした。
「誰ですか?」雪乃が聞く。
「鰻さんだよ・・・」




