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Absolute Zero 4th  作者: DoubleS
第四章
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40/146

重視すべきもの 8

 一月二十二日 火曜日 晴れ


 朝の気温は低く、霧矢は布団の中でもぞもぞと動いていた。昨日雨野に攻撃された腰はまだ痛んでおり、動くのも億劫だった。正直に言えば、今日は学校を休みたいと思っていた。

 しかし、そんなわけにもいかず、霧矢は布団から出ようとする。しかし出たくない。冬の朝の葛藤として最もメジャーなものだが、メジャー故に強力だ。

(……もう少し寝てよ…)

 誘惑に負け、霧矢の頭部は布団の中にもぐり込む。しかし、その瞬間、霧矢の部屋の戸が勢いよく開いた。戸の開く音に霧矢が反応する前に、霧矢の体へ布団越しに猛烈な衝撃が走った。

「ぐぼはあ!」

 内臓が潰れるかと思うほどの衝撃と、痛みの続く腰への圧力が合わさり、霧矢の視界が真っ黒になった。口からは唾液が吹き出している。

 痛みをこらえて腕で口元を拭い、霧矢は布団から抜け出した。目の前には黒髪おかっぱ頭の小柄な少女の姿があった。

「僕は…トランポリンじゃない。起こすならもっとまともな方法で起こせ……」

「だって最近霧矢、私が攻撃しかけても平気でかわすようになったし、不意打ちでも半分くらいは当たらないから、寝込みを襲うしかないもの。光里の教え方が上手すぎるのも考え物だね」

「何で、僕に攻撃することが前提になってるんだ……理由としておかしいだろ」

 うめきながら霧矢は文句を口にするが、風華はまったく聞く耳を持たない。恨めしそうな顔で霧矢は痛みで目元に浮かんだ涙を拭い、椅子を引き寄せて座った。

「最近の霧矢って、寝起きが悪いよね。疲れてるの?」

「…心配してくれるのはありがたいが、だったらなおのこと不意打ちなんてしないでくれ。そっちの方がよけい体に悪影響を及ぼすぜ」

「別に霧矢を心配なんてしてないよ。でも、霧矢、昨日も何かを考え込むようにして夕ご飯の間中、焦点の合わない目をして唸り続けてたし、行動が何か怪しすぎ」

 昨夜は時雨と晴代のバランスの折り合いをどうつけるかを考え続けていた。自分としては特に挙動不審なことをした覚えはないのだが、霜華や風華の目にはそう映らなかったらしい。

 霧矢は首を振るとあくびをしながら伸びをする。風華はトコトコと窓に歩み寄ると、一気に窓を開けた。部屋に一気に冷たい風が流れ込んでくる。

「へっくし! おい、閉めてくれ。いきなりはきつい。それに着替えるから出てった」

 くしゃみをしながらハンガーにかけてある制服を手に取った。背中を押して風華を部屋から追い出すと、霧矢は部屋の戸と窓を閉めた。

「あいたたた……」

 ズボンをはこうとして腰を曲げると、神経に痛みが走る。湿布を貼ってはいるが、痛みは取れていない。今日中はこの状態で過ごさなければいけないだろう。

(…有島先輩の回復術を頼む必要があるな…)

 痛みをこらえてゆっくりと制服に着替えると、霧矢は朝食をとるため階段を下りていく。階下からは、味噌汁の香りが漂ってきていた。

 居間に入ると、風華がこたつに入りながら朝のニュースを適当に見ていた。霧矢は手を合わせると、ご飯に箸をつける。

『今日の運勢ですが、特に運が良い人は……』

 民放らしく朝のニュースには占いコーナーがあった。霧矢はもともと占いを信じないので聞き流していたが、霜華と風華は熱心に聞き入っていた。

「今日は、ついてないことが起こりそうか……気を付けないといけないよう」

「私は、良くも悪くもないか…微妙だなあ」

「……下らない。半雪女も占いを信じたりするのか?」

 霧矢は最後に残った味噌汁をすすると、こたつの脇に無造作に置かれている新聞紙を取り上げた。一面は政治スキャンダルでの与党政治家の進退についてという高校生にとって大して重要ではないものだった。

 一面を見出しだけ眺めて適当に紙面をめくると、相変わらず京浜製薬がらみで評論家の意見が寄稿されていた。何度も繰り返して鮮度の落ちたネタをここまで続けているということは、世間ではよほど面白いネタがないということなのだろうか。霧矢の身の回りでは面白すぎて逆にネタにならないレベルの奇怪な事象が起きているのだが。

「…片平社長は辞任すべき…か。まあ、常識的に考えればそうなるよな…」

 投書欄も非難的な声であふれていた。市井の人々は断片的な情報しか得られないせいでもあるのだが、その方が世の中は上手くいくというのも皮肉な話だと思う。

「美香のやつ、どうするつもりなんだか…」

 一人ぽつりとつぶやくと、霧矢は新聞を脇に置いた。手を合わせごちそうさまと言うと霧矢は腰に負担を掛けないようにそっと立ち上がる。

「あれ。もう霧君学校行くの? いつもより十分以上早めだけど」

「腰を痛めてるからな。ゆっくり歩いてたら遅刻しかねない」

 霜華から弁当の包みを受け取ると、霧矢はコートを羽織って家を出た。外は晴れていたが、路面はてかてかに凍り付いていた。車がスリップしたとしてもおかしくない。

(変な歩き方して万が一転んだら、腰の痛みが余計ひどくなるしな…注意しないと)

 転ぶまいとそろそろと慎重な足取りで霧矢は学校に向けて歩き始めた。

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