↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第8話 家の修理代を稼ぐため荷物持ちの依頼を受けた僕、鉄喰いの大坑道でA級ボスに噛まれたら牙が折れちゃった! 素手で倒したら【牙砕きの荷物持ち】と呼ばれた。一方、僕を探す女戦士は街でその噂を聞いていた

朝、目を覚ますと、お腹がすいていた。


「ふわあ……。よく寝たなあ!」


僕はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。久しぶりの自分の家は、やっぱり落ち着くね。昨日はおいしい野菜スープも食べられたし、兄さんのお守りも直せた。


今日は家の掃除をしよう。


「よし! 今日も頑張るぞ!」


僕はほうきを持って、床を掃き始めた。しばらく帰っていなかったから、家の中にはほこりがたまっている。窓を開けて、机を拭いて、床もきれいにする。ところが、掃除をしていると、困ったことに気づいた。


「あれ? ここ、穴が開いてる」


壁の板が古くなって、穴が開いていた。天井からも少し雨が入ってきた跡がある。


「うーん。これは直さないといけないね」


僕は壁を指で押してみた。


ミシッ。


「あっ、危ない危ない!」


危うく板が外れるところだった。家の修理なら、兄さんにも教えてもらったことがある。でも、木の板や釘を買わないといけない。そういえば、お金は全部ヴェズドが持っていったんだった。


「そっかあ。じゃあ、また稼がないとね!」


勇者パーティーでは荷物持ちをしていたし、僕にもできる仕事があるはずだ。久しぶりに冒険者ギルドへ行ってみようかな。



僕は兄さんのお守りを首にかけ、家を出た。

近くの町にある冒険者ギルドは、朝からにぎわっていた。剣を背負った人や、大きな盾を持った人たちが、依頼の書かれた紙を眺めている。


「こんにちは!」


僕が受付に声をかけると、短い金色の髪をした女性が顔を上げた。


「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」

「うん! 荷物持ちの仕事を探してるんだ!」

「荷物持ちですね。少々お待ちください」


女性は何枚かの紙を調べた。


「こちらはいかがでしょう。ダンジョンへ向かう冒険者パーティーが、荷物持ちを募集しています」

「本当!?」

「はい。ただし、行き先は【鉄喰いの大坑道】です。危険なダンジョンですが、大丈夫でしょうか?」

「うん! 僕、ダンジョンには何度も行ったことがあるよ!」


それに荷物持ちの仕事なら慣れている。料理もできるし、野営の準備だって得意だ。


「それなら、こちらでお待ちください」

「ありがとう!」


僕は教えてもらった場所へ向かった。

そこには、3人の冒険者がいた。1人は銀色の鎧を着た大きな男の人。腰には立派な剣を下げている。もう1人は、長い茶色の髪を結んだ弓使いの女性だった。背中に弓を背負い、僕を見ると目を丸くした。最後の1人は、丸い盾を持った若い男の人だ。僕より少し背が高いけど、顔つきはまだ若かった。


「お前が荷物持ちか?」


鎧の男の人が聞いてきた。


「うん! ルウセトっていうんだ。よろしくね!」

「……ずいぶん若いな。それに、その傷はどうした?」


男の人が僕の腕を見た。ああ、昔の傷が見えているんだね。


「仲間を守ったときについたんだ!」

「仲間を……?」

「うん! でも、もう痛くないから大丈夫だよ!」


僕が笑うと、3人は顔を見合わせた。


「まあ、荷物を運べるならいい。無理はするなよ」

「ありがとう! 荷物は全部任せてね!」


僕は大きな荷物袋を背負った。食料に水、薬、それから予備の武器も入っている。うんうん。こういう重い荷物を背負うと、なんだか懐かしいなあ。


「よし、出発するぞ!」

「うん!」





僕は3人について歩き始めた。


【鉄喰いの大坑道】は、山の中にある大きなダンジョンだった。入口から奥へ続く道は広く、壁には鉄がたくさん埋まっている。


「うわあ! すごいね!」


僕は周りを見ながら歩いた。


「ここには鉄を食べる魔物がいる。鎧や剣を噛み砕く奴もいるから、気をつけろよ」


鎧の男の人が教えてくれた。


「へえ! 鉄を食べるんだ!」


硬いものを食べられるなんて、すごい歯だね。僕だったら歯が欠けちゃいそうだ。


「お前、本当に怖くないのか?」


盾を持った男の人が聞いてきた。


「うん! みんなと冒険できて楽しいよ!」

「……変わった奴だな」


そうかなあ。僕は荷物持ちの仕事が大好きなんだけど。それからしばらく歩き、坑道の奥へ進んだときだった。


「うわあああっ!」


遠くから悲鳴が聞こえた。


「あれ? 誰か叫んでるよ?」


僕が声のした方を見ると、鎧の男の人が剣を抜いた。


「まずいぞ! 奥に誰かいる!」


3人が走り出したので、僕も後を追った。広い場所に出ると、そこには大勢の冒険者が倒れていた。剣は折れ、盾も砕けている。壁にも大きな穴が開いていた。その真ん中に、とんでもなく大きな魔物がいた。


「うわあ! でっかいなあ!」


黒い鉄のような体に、太い4本の足。口には大きな牙が並んでいる。顔だけでも、僕の体より大きかった。


「ガルドーンだ……!」


鎧の男の人が足を止めた。


「鉄顎獣ガルドーン! このダンジョンのボスだ!」

「へえ! ボスなんだ!」


鉄顎獣ガルドーン。

鉄を食べて体を大きくする、A級の魔物らしい。その牙は鋼鉄の鎧でも噛み砕いてしまうそうだ。


「逃げろ! お前たちも殺されるぞ!」


倒れていた冒険者の1人が叫んだ。その人の腕には、大きな傷がついている。


「あっ! ケガしてる!」


僕が近づこうとすると、ガルドーンが大きく吠えた。


「グルオオオオッ!」


ものすごい声だ。そのままガルドーンは、倒れている冒険者に向かって口を開いた。


「あっ、危ない!」


僕はすぐに【肩代わり】を使った。


ガキンッ!


大きな音がした。でも、僕の体は何ともなかった。


「あれ? やっぱり痛くないね!」


覚醒した【肩代わり】は、本当に便利だなあ。前なら大ケガしていたはずなのに、今はどこも痛くない。


「……え?」


倒れていた冒険者が、自分の体を見ていた。


「お、俺……今、噛まれたはずじゃ……?」

「うん! 僕が肩代わりしたんだ!」

「肩代わり……?」

「もう大丈夫だよ!」


僕が笑うと、その人は口を開けたまま動かなくなった。

どうしたんだろう。まだ痛いところがあるのかな。そのとき、ガルドーンが僕に顔を向けた。


「グルルルル……!」

「あっ、こんにちは!」


僕は手を振った。ガルドーンは大きな口を開け、そのまま僕の腕に噛みついてきた。


ガキィン!


また大きな音がした。


「……あれ?」


僕の腕には傷1つついていない。その代わり、ガルドーンの大きな牙が何本も折れていた。


「うわあ! 歯が折れちゃった!」


大変だ。こんなにたくさん折れたら、ご飯を食べるのも大変だよね。


「ごめんね! 僕の体、思ったより硬いみたいなんだ!」

「グルオオオオッ!」


ガルドーンが怒ったように吠えた。


「あれ? 謝ったのに……」


僕は首をかしげた。後ろでは、冒険者たちが騒いでいた。


「お、おい……見たか?」

「ああ……ガルドーンの牙が折れた……!」

「嘘だろ!? あいつ、鋼鉄の盾だって噛み砕くんだぞ!」


そうなんだ。やっぱりすごい魔物なんだね。僕が感心していると、ガルドーンが前足を振り上げた。狙っているのは、後ろにいる弓使いの女性だった。


「きゃあっ!」

「あっ、また危ない!」


僕は【肩代わり】を使った。


ドゴンッ!


大きな音がしたけど、やっぱり僕は無傷だった。


「よかった! これなら何回でも守れるね!」


僕が喜んでいると、鎧の男の人が叫んだ。


「おい! お前、何者なんだ!?」

「えっ? 僕?」

「ああ! どうしてガルドーンの攻撃を受けて無事なんだ!」

「勇者にいっぱい殴ってもらったおかげで、スキルが覚醒したんだ!」

「……勇者に殴られた?」

「うん! おかげでこんなに丈夫になれたよ!」


今度ヴェズドに会ったら、ちゃんとお礼を言わないとね。でも、その前にこの魔物を何とかしないと。ガルドーンはまだ怒っているみたいだ。逃げようとしている冒険者たちに向かって、何度も前足を振り上げている。


「みんな! 荷物は僕が持ってるから、先に逃げてね!」

「む、無茶だ! お前1人でどうするつもりだ!」

「大丈夫! ちょっとこの子を止めてみるよ!」


僕はガルドーンの前に立った。


「グルオオオオオッ!」


魔物がものすごい勢いで突進してくる。このままだと、後ろにいる人たちまで巻き込まれちゃう。


「よいしょっと!」


僕は両手を前に出して、ガルドーンの頭を押さえた。


ドゴォン!


足元の地面が割れた。


「あれ?」


ガルドーンの体が止まった。大きな魔物なのに、思ったより力が弱いみたいだ。


「おおっ! 止まった!」

「なっ……!」


後ろで鎧の男の人が叫んだ。


「ガルドーンの突進を、素手で止めただと!?」

「うん! ちゃんと止まったよ!」


でも、このままじゃみんな逃げられないね。もっと奥へ行ってもらおうかな。


「ごめんね! ちょっと向こうに行ってくれる?」


僕はガルドーンの頭を押し返した。


ドゴォォォン!


「……えっ?」


ガルドーンの大きな体が後ろへ飛んでいった。そのまま岩壁にぶつかり、壁が大きく崩れた。岩が何個も落ちてきたけど、ガルドーンは動かなかった。


「あ、あれ?」


僕は自分の手を見た。


「ちょっと押したつもりだったんだけどなあ」


もしかして、また力が強くなったのかな。スキルが覚醒してから、こういうことが増えたね。でも、これならもう誰も襲われずに済む。


「よかった! みんな無事だね!」


僕は振り返って、冒険者たちに手を振った。ところが、誰も返事をしてくれなかった。みんな口を開けて、僕のことを見ている。


「あれ? どうしたの?」


鎧の男の人が、ゆっくりと口を開いた。


「お前……今、A級のダンジョンボスを倒したんだぞ……?」

「うん! もう動かないみたいだね!」

「……素手で倒したんだぞ?」

「そうだね! 僕、武器を持ってないからさ!」

「…………」


また黙っちゃった。もしかして、武器を持ってこなかったのがよくなかったかな。荷物持ちだから、戦うつもりはなかったんだけど。


「ごめんね! 次はちゃんと武器も持ってくるよ!」

「そういう話じゃねえ……!」


男の人は頭を抱えてしまった。


うーん。難しいなあ。





ダンジョンから帰ると、冒険者たちがギルドの中で大騒ぎを始めた。


「聞いてくれ! 鉄喰いの大坑道のボスが倒されたぞ!」

「何だって!?」

「ガルドーンがやられた! しかも素手でだ!」

「そんな馬鹿な!」


みんな驚いている。でも、無事に帰ってこられたんだから、よかったよね。僕は受付で荷物持ちの報酬を受け取った。


「わあ! こんなにもらえるの!?」


これなら、家を直すための木の板も買えそうだ。ありがたいなあ。僕が喜んでいると、後ろから声が聞こえた。


「おい、あの少年だ!」

「本当だ! あいつがガルドーンの牙を砕いたんだって?」

「ああ! 全身傷だらけなのに、魔物の攻撃を受けても無傷だったらしい!」

「何なんだ、あの荷物持ちは……!」


みんなが僕の方を見ていた。

あれ? もしかして、僕のことかな?


「牙砕きの荷物持ちだ!」


誰かがそう叫んだ。


「そうだ! 【牙砕きの荷物持ち】だ!」

「すげえ奴が現れたな!」


おおっ! 荷物持ちとして覚えてもらえたんだ!


「ありがとう! また荷物持ちが必要になったら呼んでね!」


僕は笑って頭を下げた。すると、冒険者たちはまた騒ぎ始めた。なんだか今日は、みんな元気だなあ。


「よし! 帰って家を直そう!」


僕は報酬を大切にしまい、ギルドを出た。






一方、その頃。

勇者パーティーの宿屋では、3人の女性が向かい合っていた。聖女シェファナ。女戦士ガドリカ。魔法使いポッケナ。3人は、ルウセトの荷物を机の上に並べていた。


料理道具、着替え、使い古した袋。どれも、ルウセトが大切に使っていたものだった。


「……ルウセト様」


シェファナは、彼の服を両手で持っていた。白紫色の長い髪が顔にかかっている。銀色の目は、まだ赤く腫れていた。


「わたくしたちは、あの方がどちらへ向かわれたのかも存じ上げないのですね……」


ガドリカが拳を握った。


「……くそっ。あたいらが帰ってくるまで、待っててくれりゃよかったのに」


短い赤茶色の髪をかき上げる。けれど、すぐに顔を下げた。


「いや、違うな。あいつが出ていったのは、あたいらにも嫌われてると思ったからだ」

「うちも……」


ポッケナが小さな声を出した。薄緑色のぼさぼさの髪が、いつもよりひどく乱れている。


「ルウセト、うちらのこと、嫌いやって思ってたんやろ……? そんなこと、あるわけないのに……」


ポッケナはルウセトの服をつかんだ。


「うち、あの子にちゃんと好きやって言えてへんかった。あんなに優しくしてもろたのに……」


声が震え、涙が落ちた。シェファナも目を伏せた。


「わたくしも同じです。あの方がどれほど大切なのか、きちんとお伝えできておりませんでした」

「……もう、同じことは繰り返さねえ」


ガドリカが顔を上げた。


「あいつを探そう。何があっても見つけるんだ」

「ええ。わたくしも、そのつもりです」

「うちも行く。絶対に見つけるんや」


3人はうなずいた。けれど、ルウセトがどこにいるのかは分からない。国は広い。1つの町を探すだけでも時間がかかる。


「……手分けしよう」


ガドリカが言った。


「あたいは西へ行く。冒険者ギルドを回れば、荷物持ちの情報が入るかもしれねえ」

「では、わたくしは北へ向かいます。神殿や治療院を訪ねれば、傷だらけの方を見かけた人がいるかもしれません」

「ほな、うちは東へ行くわ。魔法使いや情報屋にも聞いてみる」


3人はそれぞれの行き先を決めた。

シェファナはルウセトの服をそっとたたんだ。


「ルウセト様。どうか、ご無事でいてくださいませ……」


ガドリカは大きな盾を背負い直した。


「あたいが見つけたら、もう2度と1人にはしねえ」


ポッケナは杖を握りしめた。


「待っててな、ルウセト。今度はうちが守ったるから……」


こうして3人は、別々の道へ出発した。





それから、ガドリカは西方の町を回っていた。大きな盾を背負い、冒険者ギルドへ入っては、ルウセトの行方を聞いている。けれど、なかなか手がかりは見つからなかった。


「……ちっ。ここにもいねえのか」


ガドリカはギルドの受付を離れ、酒場の方へ向かった。すると、近くの席から大きな声が聞こえてきた。


「おい、聞いたか? 鉄喰いの大坑道が攻略されたらしいぞ!」

「ああ! A級のボスが倒されたんだろ?」

「それがよ、倒したのは荷物持ちの少年らしいんだ!」


ガドリカの足が止まった。


「……荷物持ち?」


冒険者たちは話を続ける。


「しかも素手で倒したんだってよ! ガルドーンの牙が全部折れたらしい!」

「全身傷だらけの少年なんだろ?」

「ああ。なのに魔物の攻撃を受けても、傷1つつかなかったそうだ!」


ガドリカはゆっくりと振り返った。全身傷だらけ。荷物持ちの少年。その2つを聞いた途端、ルウセトの顔が頭に浮かんだ。いつも笑っていた、あの少年。仲間を守って傷だらけになっても、大丈夫だと言っていたルウセト。


「……おい」


ガドリカは冒険者たちの席へ近づいた。


「その話、詳しく聞かせろ」

「ん? 何だ、あんたも噂を聞いたのか?」

「いいから答えろ。その荷物持ちは、今どこにいる?」

「さ、さあ……。もう町を出たって話だが」

「名前は!?」

「名前? いや、そこまでは知らねえな」


冒険者は首をひねった。


「ただ、みんなこう呼んでるらしいぜ」

「……何だ?」

「【牙砕きの荷物持ち】ってな!」


ガドリカは拳を握った。もし、その少年がルウセトなら。自分たちが探している間にも、また危険なダンジョンへ入っていたことになる。あの体に、また新しい傷を増やしているかもしれない。


「……頼むから、もう無茶しねえでくれよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。