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第7話 僕を守れなかったと泣く聖女と女戦士と魔法使いは、僕を聖剣で殺そうとした勇者を復讐のためにダンジョンへ連れていった。でも僕は兄さんのお守りを直して野菜スープに大満足。勇者のおかげで今日も幸せだ!

「……お前は勇者でありながら、別に大して強くもねえ。あたいらが支えてやってただけだ」

「ううっ……!」

「ルウセトがいなけりゃ、お前はとっくに死んでたんだよ」


ガドリカの言葉を否定したくても、ヴェズドにはできなかった。さっき殴りかかったとき、ガドリカには1発も当てられなかった。ポッケナの魔法も破れない。シェファナが治療してくれるかどうかで、生死が決まるようなものだ。


ヴェズドは泣きながらうなずいた。


「俺様は、対して強くもない冒険者です……!」

「なのに、あいつを役立たずだって?」

「ご、ごめんなさい……!」


ガドリカは胸ぐらを離した。ヴェズドは床に崩れ落ちた。誰よりも強い勇者だと思っていた自分が、今は3人の顔色を見ながら謝り続けている。


ポッケナがヴェズドの耳元でささやいた。


「……なあ。もう1つ、聞いてええ?」


ヴェズドは震えた。ポッケナが近づくと、彼は反射的に首をすくめた。先ほど見せられた腐毒竜の姿を思い出したのだ。


「うちらのルウセトを、追放した翌日に殺そうとしたんやろ?」


ヴェズドの顔から血の気が引いた。


「……っ!」

「首を聖剣で斬ろうとしたんよね?」

「ち、違う! あいつが……!」


ポッケナの杖が光った。ヴェズドの目の前に、首を狙って振り下ろされる聖剣が現れた。


「ぎゃあああっ!」


ヴェズドは床に倒れ、頭を抱えた。鋭い刃が首に迫る。目を閉じても、その光景は消えなかった。自分の首が斬られると思い、ヴェズドは体を丸めた。


「やめろ! 死にたくない! お願いだから……!」


幻覚が消えた。ポッケナは笑った。しかし、涙は止まっていなかった。


「……ルウセトが死んでたら、うちはどうなってたんやろな」

「ひぐっ……!」

「うち、あの子がおらん世界なんて、考えられへん」


ポッケナは杖を握りしめた。毎日、ルウセトに会うのが楽しみだった。彼が料理をしている姿を見るのも、くだらない話を聞いてもらうのも好きだった。疲れて帰ってきたとき、彼が笑って迎えてくれると、それまで嫌だったことを忘れられた。ポッケナにとって、ルウセトは誰よりも大切な人だった。そのルウセトを、目の前の男は殺そうとした。


「……あんたは、うちの生きる理由を奪おうとしたんやで。分かるか? これからは、あの子がもう誰にも傷つけられへんように、全部うちが守るんや」


シェファナがヴェズドの前に立った。


「……わたくしも、あの方を失うことなど耐えられません」


彼女は涙を拭った。シェファナは、ルウセトが自分に笑いかけてくれた日のことを思い出した。昔、ひどい言葉をかけたことがある。治療を後回しにして、彼を長く苦しませたこともある。それでも、ルウセトは笑ってくれた。もう謝る必要はないと、優しく言ってくれた。しかし、シェファナは自分を許せなかった。あの方が笑ってくださるたびに、自分が傷つけたことを思い出す。傷を見るたびに、もっと早く守ってあげられたはずだと考えてしまう。


「ルウセト様のお体には、わたくしが治せなかった傷が残っております。あの傷を見るたび、わたくしは自分を責めるのでしょう。ルウセト様が望まれるのでしたら、聖女の地位も、財産も、すべて捨てます。あの方が安心して眠れるように、毎晩そばで見守りたいのです」


ガドリカもうなずいた。


「あいつに嫌われてもいい。許してもらえなくてもいい。あたいの命は、ルウセトのために使う」


ガドリカは自分の拳を見つめた。昔、訓練でルウセトを殴ったことがある。今になって、あのときのルウセトの顔を何度も思い出す。訓練とはいえ、自分も彼を傷つけた。その罪が消えることはない。だからこそ、これからは何があっても守りたかった。たとえルウセトが自分を許してくれなくても、彼が幸せに暮らせるなら、それでいい。


ヴェズドが泣きながら顔を上げた。


「も、もう……許してくれ……!」


ガドリカがヴェズドの襟をつかんだ。


「……楽に死ねると思うなよ」

「いやああっ!」


ヴェズドは必死に逃げようとした。しかし、ガドリカの手を振りほどくことはできない。ヴェズドは泣きながら何度も頭を下げた。それでも、3人は何も答えなかった。




その夜。

3人はヴェズドを連れて、街の外へ出た。日が沈み、街の灯りは遠くなっていた。森へ続く道には人の姿がない。シェファナはルウセトの荷物を大切に抱えていた。ポッケナは魔法でヴェズドを縛っている。ガドリカは縄をつかみ、歩けなくなったヴェズドを引きずっていた。ポッケナの魔法で縛られたヴェズドは、何度も泣きながら助けを求めた。


「やだ……! 行きたくない……! お願いだから許し――」


ポッケナが杖を振った。ヴェズドの口から声が出なくなった。彼は涙を流しながら、必死に何かを叫んでいた。


やがて、森の奥にダンジョンの入口が見えてきた。かつて、ルウセトが血だらけで置き去りにされた場所だった。入口から冷たい風が吹いていた。中は真っ暗で、奥の様子は見えない。ヴェズドはその入口を見た途端、激しく首を振った。


勇者と3人の仲間は、暗いダンジョンの奥へ消えていった。






一方、その頃。

僕は故郷の家で、机の上に小さな木の破片を並べていた。


「うーん。ちゃんと直せるかなあ」


ヴェズドに踏まれて壊れた、兄さんのお守りだ。全部で5つに割れてしまっている。首にかけていた紐も切れていた。でも、破片は1つもなくなっていない。


「よかった。これなら何とかなりそうだね!」


僕は棚から道具箱を取り出した。中には小さなナイフや紙やすり、それに木をくっつけるためののりが入っている。昔、兄さんと一緒に使っていた道具だ。


「うわあ、懐かしいなあ!」


兄さんは、壊れたものを直すのが得意だった。僕が失敗しても、怒らずに何度でも教えてくれたんだ。


「よし。兄さんに教えてもらったとおりにやってみよう!」


僕は破片を1つずつ合わせた。小さな破片には、兄さんが彫ってくれた僕の名前が残っている。そこを傷つけないように、ゆっくりのりを塗った。


「あっ、ちょっとずれちゃった」


もう1度やり直す。細い木の破片を合わせるのは、思ったより大変だった。でも、何度か試しているうちに、少しずつ元の形に戻っていった。


「おおっ! いい感じだね!」


最後の破片をくっつけて、しばらく乾かした。それから新しい紐を通す。


「……できた!」


僕はお守りを持ち上げた。真ん中には大きな割れ目が残っている。細かい傷も増えてしまった。でも、ちゃんと元の形になっていた。表には、僕の名前も残っている。


「やったあ! これでまた首にかけられるね!」


僕はさっそくお守りを首にかけた。胸の前で、小さな木のお守りが揺れる。


「兄さん、ただいま!」


久しぶりに家へ帰ってきたことを、ようやく報告できた気がした。


「これからも大切にするからね!」


僕はお守りを服の中にしまった。

さて、お腹もすいたし、そろそろ夕飯にしようかな。村の人からもらった野菜がある。


台所に残っていた鍋を洗い、ジャガイモとニンジンを切って入れた。火をつけて、しばらく煮込む。


「うーん、いい匂い!」


久しぶりに自分の家で料理を作った。誰かに急かされることもないし、好きな時間に食べられる。


「田舎暮らしって、やっぱりいいなあ!」


できあがったスープを器によそって、机に運んだ。


「いただきます!」


野菜は柔らかくて、とてもおいしかった。


「うん! 最高だね!」


そういえば、今日はすごいことがたくさんあったなあ。

久しぶりに故郷へ帰ってこられた。村の男の子も助けられた。おいしい野菜ももらえたし、兄さんのお守りまで直せた。それに、スキルが覚醒したおかげで、もう誰かを守ってもケガをしなくて済むらしい。


「そう考えると、ヴェズドには本当に感謝しないとね!」


最後にいっぱい殴ってもらったおかげで、足りなかった経験値ポイントがたまったんだ。あのときは痛かったけど、そのおかげでこんなに丈夫になれた。


「やっぱりヴェズドはすごいや!」


今度会ったら、ちゃんとお礼を言おう。聖剣が折れたことも気にしているかもしれないし、元気づけてあげたいなあ。シェファナたちも、今ごろ楽しく冒険しているのかな。新しい盾役の人とは仲良くできているといいね。


「みんな、元気にしてるといいなあ」


僕は残ったスープを飲み干した。


その夜、僕は久しぶりに自分のベッドでぐっすり眠った。ヴェズドが今どこで何をしているのか、僕は何も知らなかった。

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