第5話 勇者に殴られたおかげで【肩代わり】が覚醒! A級魔物を軽く殴り倒し、男の子を守れて幸せだよ! 一方、僕を嫌っているはずの聖女と女戦士と魔法使いは、僕の血を見つけて泣きながら勇者を問い詰めていた
何も起きなかった。攻撃を受けた感じはある。でも、痛くない。腕も足も無事だった。新しい傷もついていない。
「おかしいな。ちゃんと肩代わりしたはずなんだけど」
僕は自分の体を確かめた。どこにも新しい傷はない。すると、頭の中で声が聞こえた。
『スキル【肩代わり】の覚醒効果をお知らせします』
「あっ、この前の声だ!」
『スキル【肩代わり】は、他者が受ける攻撃、ケガ、毒、呪い、病気を使用者が引き受ける能力です』
「うん! 知ってるよ!」
『覚醒により、使用者の身体強度が限界まで上昇しました。あらゆる攻撃に対して、ほぼ無傷で耐えることができます』
「えっ、本当に!?」
『さらに、筋力、移動速度、反射速度が大幅に上昇しました』
「へえ! そんなに強くなったんだ!」
『なお、覚醒前に負った傷痕は消えません。また、【肩代わり】の効果はこれまでどおり使用できます』
「そっかあ。じゃあ、これからも誰かを守れるんだね!」
しかも、今度は僕もケガをしなくて済むらしい。
「すごいや! これなら何回でもみんなを守れるね!」
こんなに便利な能力になるなんて、思わなかったなあ。
「ヴェズドにいっぱい殴ってもらったおかげだね! 今度会ったらお礼を言わないと!」
僕が喜んでいると、バーサクベアがもう1度男の子を狙った。
「おっと、まだ危ないね!」
僕は再び【肩代わり】を使った。バーサクベアの爪が地面をえぐる。しかし、やっぱり痛くなかった。
「おおっ! 本当に平気だ!」
これは便利だね。今まで【肩代わり】を使うたびにケガをしていたけど、これなら何度でも仲間を守れるかもしれない。僕が喜んでいると、バーサクベアがこちらを向いた。大きな口を開けて、ものすごい声で吠える。
「うわっ! びっくりした!」
バーサクベアは僕に向かって歩いてきた。でもここで逃げたら、また他の村人が襲われるかもしれない。
「困ったなあ。僕、何の武器も持ってないんだけど」
でも、今なら何とかなるかな。僕はバーサクベアに近づいた。魔物が腕を振り下ろしてくる。避ける前に、頭を殴られた。
ゴンッ!
大きな音がした。でも、痛くない。むしろバーサクベアの爪の方が折れてしまった。
「おおっ。頭も丈夫になってる!」
これはすごいや。バーサクベアはさらに大きな口を開け、僕に噛みついてきた。鋭い牙が肩に当たる。しかし、牙の方が欠けてしまった。
「うわあ、歯が折れちゃった」
大丈夫かな。ご飯が食べにくくなったら困るよね。
「ごめんね。僕の体、思ったより硬かったみたい」
バーサクベアは怒ったように吠えた。どうしよう。謝ったのに、余計に怒らせちゃったかな。バーサクベアがもう1度襲いかかってくる。僕は拳を握った。
「じゃあ、ちょっと向こうに行ってもらおうかな!」
それから、バーサクベアのお腹を軽く殴った。
「それっ!」
ドゴォォォン!
「……えっ?」
バーサクベアの体が吹き飛んだ。大きな体が遠くまで飛んでいき、岩山にぶつかった。岩が崩れ、ものすごい音がする。しばらくして、土ぼこりが落ち着いた。バーサクベアは岩の下で動かなくなっていた。
「……あれ?」
僕は自分の拳を見つめた。今、何が起きたんだろう。軽く殴ったつもりだったんだけど。
「僕、こんなに力が強くなってたんだ!」
すごいや。どうやらスキルが覚醒して、体がものすごく丈夫になったらしい。殴られても痛くないし、こっちが殴れば大きな魔物まで倒せる。これなら、これからの冒険がずいぶん楽になりそうだ。
僕は男の子のところへ戻った。
「大丈夫? ケガしてない?」
男の子は目を大きく開いたまま、何度もうなずいた。
「よかった!」
僕は男の子を抱き起こし、服についた土を払った。足を少しくじいているようだったので、肩を貸してあげる。
「お母さんのところまで送ってあげるね」
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「ありがとう……!」
男の子は泣きながら笑った。僕も嬉しくなって笑い返した。
「どういたしまして!」
その後、男の子を家族のところへ送り届けると、何度もお礼を言われた。お母さんなんて、泣きながら僕の手を握ってくれた。
「本当にありがとうございます! この子が無事で……!」
「うん! 元気そうでよかったね!」
僕は男の子の頭をなでた。すると、男の子が僕の腕を見つめた。
「……お兄ちゃん、傷だらけだね」
「ああ、これ?」
僕は腕を見た。古い傷が何本も残っている。
「昔、仲間を守ったときについたんだ!」
「……痛くないの?」
「うん、大丈夫だよ!」
「でも、お兄ちゃんがケガしたんでしょ?」
「うん! でも、僕がケガしたおかげで、みんなケガしなくて済んだからいいんだ!」
僕は笑った。
「よかったよね!」
男の子は何も言わなかった。お母さんも、なぜか泣きそうな顔をしていた。どうしたんだろう。もっと喜んでもいいのになあ。
「そうだ! お兄ちゃん、今日からしばらくこの村で暮らすんだ!」
僕は自分の家がある方を指さした。
「また会ったら、一緒に遊ぼうね!」
男の子は何度もうなずいた。
「うん……!」
お母さんは、野菜の入った籠を持ってきてくれた。
「これ、よかったら持っていってください」
「えっ、いいの?」
「はい! うちの畑で取れたものです」
「ありがとう!」
籠の中には、大きなジャガイモやニンジンが入っていた。おいしそうだなあ。
「よし! 今日は野菜のスープにしよう!」
久しぶりに帰ってきた故郷で、こんなにいいものをもらえるなんて。今日はいい日だね。
一方、その頃。勇者パーティーの宿屋に、3人の女性が戻ってきた。
聖女シェファナ。
女戦士ガドリカ。
魔法使いポッケナ。
3人は別の依頼を終え、勇者パーティーの部屋へ向かっていた。
「ルウセト様は、もうお戻りでしょうか」
シェファナが楽しそうに言った。腰まで伸びた白紫色の髪に、銀色の目。白い聖女服を着た20歳の女性だ。
「さあな。あいつ、また1人で荷物を運んでんじゃねえか?」
ガドリカが答えた。短い赤茶色の髪に、褐色の肌。背中には巨大な盾を背負っている。24歳の女戦士だった。
「だったら早く帰らなきゃな。うちらが荷物を持ったるって言うても、ルウセト、いつも笑って断るんやもん」
ポッケナが笑った。ぼさぼさの薄緑色の髪に、大きな紫色の目。たくさんのポケットがついたオレンジ色のローブを着た、18歳の魔法使いだ。
3人はルウセトに会うのを楽しみにしていた。
最近は、彼と一緒に食事をすることが何よりの楽しみだった。しかし、部屋の扉を開けると、そこにルウセトの姿はなかった。
「……あれ?」
ポッケナが首をかしげた。
「ルウセト、どこ行ったん?」
部屋には勇者ヴェズドがいた。白と金の鎧を着た男が、椅子に座って酒を飲んでいる。
「ふん。あの役立たずなら、もういないぞ」
「……いない?」
シェファナが聞き返した。
「どういう意味でしょうか?」
「辞めたんだよ。自分からパーティーを抜けたいと言い出した」
3人は固まった。
「……は?」
ガドリカが低い声を出した。
「ルウセトが、自分から?」
「ああ。俺様たちと一緒にいたくないそうだ」
「そんな……」
シェファナの顔から血の気が引いた。
ルウセトが、自分たちと一緒にいたくない? そんなはずはない。だって、あんなに楽しそうに笑っていたのに。
「嘘やろ……?」
ポッケナの声が震えた。
「ルウセト、うちらに何も言うてへんかったで……?」
「だから、黙って出ていったんだろうが」
ヴェズドは1枚の書類を取り出した。
「ほら、証拠だ。あいつの署名もある」
シェファナが書類を受け取った。そこには、ルウセトの名前が書かれていた。間違いなく、彼の字だった。
「……そんな」
シェファナの手が震えた。ルウセトは自分からパーティーを辞めた。書類には、そう書かれている。しかも、パーティーでの問題はすべて自分の責任だと。
「わたくしたちが、嫌になってしまわれたのでしょうか……」
シェファナの目に涙がたまった。昔、自分はルウセトの治療を何度も後回しにしていた。役立たずだと思い、ひどいことも言った。最近は彼のことを大切にしていたつもりだった。しかし、彼は昔のことを許していなかったのかもしれない。
「……あたいのせいか」
ガドリカが顔を下げた。
「あたいが昔、あいつにひでえことばっか言ってたから……」
「うちも……」
ポッケナの目から涙が落ちた。
「うち、何回もルウセトを実験に付き合わせた……。嫌われても仕方ないんよ……」
3人は何も言えなくなった。ヴェズドはそんな3人を見て、口元をゆがめた。
「そういうことだ。あいつはお前らが嫌になったんだよ。もう忘れろ」
しかし、そのときだった。
「……あれ?」
シェファナが床を見た。机の近くに、小さな赤い跡が残っている。乾いた血だった。
「……これは?」
シェファナは床にしゃがみ込んだ。指先に回復魔法の光を集め、血の跡に触れる。聖女は、治療した相手の血に残る魔力を調べることができる。シェファナは何度もルウセトを治療してきた。だから、その反応を見間違えるはずがなかった。
「ルウセト様の、血……?」
声が震えた。ガドリカが顔を上げる。
「……何だって?」
「この血は、ルウセト様のものです……」
ポッケナが駆け寄ってきた。
「何で……? 何でルウセトの血がここにあるん……?」
シェファナは床を見つめた。血の跡は1か所ではなかった。机の下にも、扉の近くにも残っている。誰かに殴られ、床に倒れたときについたような跡だった。
「……ヴェズド様」
シェファナがゆっくり立ち上がった。銀色の目から涙が落ちている。
「ルウセト様は本当に、ご自分から出ていかれたのですか……?」
「当たり前だろうが! 書類も見せただろ!」
「では、どうして、ここにルウセト様の血があるのでしょうか……?」
ヴェズドは答えなかった。ガドリカが近づいてくる。大きな手が、勇者の胸ぐらをつかんだ。
「おい、ヴェズド」
「な、何だ! 離せ!」
ガドリカは離さなかった。その目は、怒りでいっぱいだった。
「あたいの目を見て答えな」
ヴェズドの体を持ち上げる。
「お前、ルウセトに何をした?」




