第4話 勇者が聖剣で僕の首を斬ったら、剣のほうが折れちゃった! 兄さんのお守りは壊れたけど修理できそう。荷車を押して食べ物をもらい、村に帰るとA級魔物が男の子を襲っていた。よし、【肩代わり】で守ろう!
ガキィン!
「……えっ?」
大きな音がした。僕の首に当たった剣が、真ん中から折れた。折れた刃が地面に落ちる。僕は首に手を当てた。
「あれ?」
血が出ていない。新しい傷もついていなかった。
「おおっ! すごい!」
昨日までなら、大ケガをしていたはずだ。でも、今は何ともない。
「僕、ずいぶん丈夫になったみたいだね!」
「……な、何だと?」
ヴェズドは折れた聖剣を見つめていた。顔が青くなっている。
「ば、バカな……! 俺様の聖剣が……!」
「大丈夫? 手はケガしてない?」
「近づくな!」
ヴェズドが後ずさった。僕は心配になった。
「剣が折れちゃったから、びっくりしたんだね。でも、ヴェズドは勇者なんだから、また新しい聖剣を手に入れられるよ!」
「……くそっ!」
ヴェズドは折れた聖剣を地面に投げつけた。それから、僕の胸元を見た。
「何だ、その汚い木切れは?」
「ああ、これ?」
僕は首から下げている小さな木のお守りを手に取った。
「兄さんがくれたんだよ! 僕が小さい頃に作ってくれたんだ。ずっと大切にしてるんだよ!」
僕には、昔、優しい兄さんがいた。何でもできる人だった。荷物の運び方も、魚の釣り方も、畑の仕事も教えてくれた。でも、兄さんはもういない。兄さんがくれたお守りは、僕にとって大切な宝物だった。
「ふん。そんな安物を大事にしているのか」
「うん! 兄さんが作ってくれたからね!」
「どうせ、お前の兄貴も役立たずだったんだろうな!」
「えっ? そんなことないよ!」
僕は笑って首を振った。
「兄さんはすごい人だったんだ! 僕よりずっと強くて、何でも知ってたんだよ!」
「俺様の前でくだらねえ自慢をするな!」
ヴェズドがお守りをつかんだ。
「あっ、それは……」
首にかけていた紐が切れた。ヴェズドはお守りを地面に投げつけた。さらに、その上から踏みつけた。
バキッ!
小さな木のお守りが、いくつかに割れた。
「あっ!」
僕は地面にしゃがみ込んだ。木の破片が土の上に散らばっている。
「ありゃあ。壊れちゃった」
ヴェズドは鼻で笑った。
「お前にはお似合いだな!」
「そっかあ。ずいぶん古かったからね」
僕は破片を1つずつ拾い集めた。兄さんが小さなナイフで削ってくれた木のお守り。表には、僕の名前が彫ってある。真ん中から割れてしまったけど、文字はちゃんと残っていた。
「よかった。これなら直せそうだね!」
「……何だと?」
「家に帰ったら、くっつけてみるよ! 兄さんも、物は大切にしろって言ってたからね!」
「お前……!」
ヴェズドは拳を握った。でも、僕がお守りの破片を拾っていると、何も言わなくなった。
「そうだ! ヴェズドも何か壊れたものがあったら、僕に言ってね! 修理なら得意だから!」
「……もういい。勝手にしろ!」
ヴェズドは馬に乗った。
「二度と俺様の前に現れるな! お前みたいなゴミ、顔も見たくねえ!」
「うん! 気をつけて帰ってね!」
僕が手を振ると、ヴェズドは馬を走らせた。あっという間に見えなくなってしまった。
「いやあ、ヴェズドって働き者だね!」
昨日も忙しそうだったのに、今日は僕のために書類を持ってきてくれた。きっと勇者の仕事は大変なんだろうな。
僕はお守りの破片を服の中にしまった。
「よし。帰ったら修理しよう!」
「ぐぅうう……」
お腹減った。
それから少し歩いたところで、1台の荷車を見つけた。道の真ん中で、車輪が泥にはまっている。商人らしい男性が、困った顔で荷車を押していた。
「うーん、どうしたものか……」
「こんにちは! 何か困ってるの?」
僕が声をかけると、男性は振り返った。
「ああ。車輪が泥にはまってしまってな。馬にも引かせているんだが、動かないんだ」
「そっか! じゃあ、僕も押すよ!」
「いや、君はケガをしているじゃないか!」
男性は僕の顔を見て驚いた。頬は腫れているし、唇も切れている。服には昨日の血が残っていた。
「大丈夫だよ! 歩けるし、手も動くから!」
「しかし、その顔は……」
「昨日、勇者に殴られちゃって!」
「……勇者に?」
「うん! でも、元気だから心配しないで!」
男性は口を開けたまま、僕を見つめていた。僕は荷車の後ろに回った。
「じゃあ、押すね!」
両手を荷車に当てる。少し力を入れた。
「よいしょっと!」
ズボッ!
荷車が泥から抜けた。それどころか、勢いよく前に進んでしまった。
「うわっ!」
男性が慌てて手綱を引いた。馬まで驚いている。
「あっ、ごめんなさい! ちょっと強く押しすぎちゃった!」
「ちょっと……?」
男性は荷車と僕を交互に見た。
「君、今のを1人で押したんだよな……」
「うん! 思ったより軽かったよ!」
「軽い……? この荷車には荷物が何百キロも積んであるんだぞ?」
「へえ! たくさん運んでるんだね!」
僕は荷台を見た。大きな木箱が何個も積まれている。中には食べ物や布が入っているみたいだ。
「すごいなあ。僕も荷物持ちをしてたんだよ!」
「そうか……」
男性は何度も首をかしげていた。
「とにかく助かったよ。何かお礼をさせてくれ」
「えっ、いいの?」
「ああ。君のおかげで街に帰れるんだからな」
「じゃあ、何か食べ物をもらってもいい?」
「食べ物?」
「うん! 昨日から何も食べてなくてさ!」
僕が笑うと、男性の顔が変わった。
「……何だって?」
「お腹がぺこぺこなんだよね!」
「君、その体で昨日から食事もしていないのか?」
「うん! でも、今から食べられるなら嬉しいな!」
男性は何も言わず、荷台からパンを取り出した。それから干し肉と水も渡してくれた。
「ほら、食べなさい」
「わあ! こんなにいいの!?」
「ああ。全部食べていい」
「ありがとう!」
僕はパンを受け取った。少し硬かったけど、とってもおいしかった。
「おいしい! こんなおいしいパン、久しぶりだよ!」
男性は僕の隣に座り、何も言わずに見守ってくれた。僕が食べ終わると、古い外套まで渡してくれた。
「夜は冷えるから、これを着ていきなさい」
「えっ、でも、こんなにたくさんもらっちゃ悪いよ!」
「気にしなくていい。君にはそれだけのことをしてもらったんだ」
「そっか! ありがとう!」
僕は外套を羽織った。少し大きかったけど、暖かい。これなら夜もぐっすり眠れそうだ。
「いやあ、世の中には優しい人がいっぱいだね!」
僕が笑うと、男性はなぜか目元をぬぐった。どうしたんだろう。風で目にゴミでも入ったのかな。
「本当にありがとう! また困ったことがあったら言ってね!」
僕は手を振り、故郷へ向かって歩き始めた。
数日後。
「ただいまー!」
久しぶりに故郷の村へ帰ってきた。グラドフェル王国の外れにある、小さな田舎の村だ。周りには畑が広がり、少し歩けば森と川がある。僕の家は村の端っこに建っていた。古い木の家だけど、庭には小さな畑がある。
「うわあ、草がいっぱいだ!」
家の前には、僕の腰くらいまで伸びた草が生えていた。しばらく帰っていなかったからね。家の中にも、きっとほこりがたまっているだろう。
「これは掃除のしがいがあるね!」
僕は腕まくりをした。そのときだった。
「誰かぁ! 助けてぇ!」
村の方から、子供の泣き声が聞こえてきた。
「ん? どうしたんだろう?」
振り返ると、森の方から村人たちが逃げてくる。その後ろで、大きな木が倒れた。続けて、地面が揺れ始める。
「バーサクベアだ! みんな逃げろ!」
村人の叫び声が聞こえた。
バーサクベアはA級に分類される魔物で、熟練の冒険者が何人も集まらなければ倒せないほど強い。体は家よりも大きく、頭には太い角が2本生えていた。大きな前足で木をなぎ倒し、太い爪で地面を削りながら追いかけている。
「うわあ、でっかいなあ!」
村人たちは悲鳴を上げながら逃げている。その中で、小さな男の子が転んでしまった。
「うわああん!」
男の子は立ち上がろうとするが、足をくじいたのか動けない。バーサクベアが男の子に向かって大きな腕を振り上げる。
「あっ、危ない!」
僕はすぐに【肩代わり】を使った。男の子が受けるはずだった攻撃を、僕が引き受ける。バーサクベアの巨大な爪が振り下ろされた。普通の人なら、体がばらばらになってしまうほどの攻撃だ。いつもの僕なら、最低でも骨が折れていたと思う。
「……あれ?」




