第13話 魔王に年収金貨1000枚で魔王軍に誘われた僕、荷物持ちを続けたいので断ったら、城で働かせてもらえて前金10枚貰っちゃった! 一方、僕を騙して連れてきた魔王の娘は泣き、魔法使いは僕を探していた
「勇者に捨てられし少年よ。我が魔王軍に、お前の力を貸してもらおうか」
「……ええっ!? 僕が魔王軍に!?」
びっくりした。だって、僕は荷物持ちだよ?
魔王軍って、もっと強い人が入るところじゃないのかな。僕が首をかしげていると、玉座に座った魔王さんが笑った。
「そうだ。お前ほどの人材を、我が軍は何としても欲しい」
「えっ!? そんなに僕を必要としてくれるの!?」
「うむ。お前の力は、すでに聞いている」
魔王さんは大きくうなずいた。
「骸鐘王ベルグリフを倒したそうだな」
「あっ! 知ってるんだ!」
「無論だ。あやつには手を焼いておった。我自ら出向こうと考えていたほどだ」
「そうなんだね!」
「そのベルグリフを、たった1人で倒したというではないか」
「うん! 子供たちを帰してくれなかったから、ちょっと困っちゃったんだ!」
「……ちょっと、だと?」
魔王さんが目を丸くした。
「うん! でも、鐘を縄で縛ったら静かになったよ!」
「……縄?」
「そう! 荷物を運ぶときに使う縄だよ!」
僕は腰に巻いていた縄を見せた。あのときは役に立ってくれたね。やっぱり荷物持ちの道具は大切だ。
「この縄、すごく丈夫なんだ! 大きな荷物でも動かないように縛れるんだよ!」
「…………」
魔王さんが黙った。周りに並んでいた兵士さんたちも、僕の縄を見ている。そんなに珍しいのかな。
「お父様、ルウセトの話は全部本当だよ!」
ジルネカが楽しそうに言った。
「しかも、ベルグリフまで壁にぶつけて倒しちゃったんだよ!」
「……何ということだ」
魔王さんが玉座から立ち上がると、僕よりずっと背が高かった。
「聞いたか、お前たち!」
魔王さんが周りの兵士さんたちを見た。
「骸鐘王ベルグリフを倒した少年が、今ここにいるのだ!」
兵士さんたちがざわめいた。
「たった1人で、あの骸鐘王を……?」
「信じられん……!」
「しかも16歳の人間だと……?」
みんなが僕を見ている。
あれ? 何だか照れちゃうなあ。
「えへへ。ありがとう!」
僕が頭を下げると、魔王さんは大きく笑った。
「はははっ! 実に素晴らしい!」
魔王さんは僕の前まで歩いてきた。
「しかも、お前は7人の子供を救うため、自ら呪いを引き受けたそうだな」
「うん! みんな元気になったよ!」
「7人分もの呪いだぞ。普通の人間なら、生きてはいられまい」
「そうなんだ! 怖い呪いだったんだね!」
「……お前は平気なのか?」
「うん! 全然痛くないよ!」
僕は腕を動かしてみせた。ちゃんと動く。今日も元気いっぱいだね。
魔王さんは僕の腕を見つめた。服の袖から、昔の傷がたくさん見えていた。
「……その傷は?」
「ああ、これ? 昔、仲間を守ったときについたんだ!」
「仲間を守って……?」
「うん! 僕の【肩代わり】は、仲間のケガや毒を引き受けるスキルなんだよ!」
僕は笑った。
「今はスキルが覚醒したから、もう新しい傷はつかないんだ!」
「……なるほど」
魔王さんは腕を組んだ。
「仲間の傷を引き受け、本人は無傷。しかも、あのベルグリフを倒すほどの力を持つ……」
魔王さんは何度もうなずいた。
「素晴らしい。これほどの力を持つ者が、我が軍に加われば……!」
周りの兵士さんたちも、目を輝かせている。
「魔王様! この少年がいれば、我が軍はさらに強くなります!」
「人間の勇者など、恐れる必要もなくなるでしょう!」
「これほどの人材を連れてこられるとは、ジルネカ様はさすがです!」
ジルネカは得意そうに腰に手を当てた。
「ふふん! でしょ!? ボクが見つけたんだから!」
それから、僕の方を見た。
「ねえ、ルウセト! 君って本当にすごいんだよ!」
「えへへ。そんなに褒めてもらえると嬉しいなあ!」
今日はいい日だね。お城に来られたうえに、こんなに褒めてもらえるなんて。すると、魔王さんが僕の肩に手を置いた。
「ルウセトよ。お前を我が魔王軍の重要な役職に迎えたい」
「……重要な役職?」
「そうだ。お前ほどの力を持つ者には、それにふさわしい地位を与えよう」
「へえ! すごいね!」
「住む場所も、食事も、必要な道具もすべて用意する。給料も十分に支払おう」
「えっ!? お給料も出るの!?」
「無論だ。年に金貨1000枚ではどうだ?」
「……えっ?」
金貨1000枚?
僕は耳を疑った。
「き、金貨1000枚!?」
「少ないか?」
「ううん! そんなにたくさんもらえるの!?」
すごい!
金貨1000枚もあったら、何が買えるんだろう。新しい机に椅子。畑で使う道具も買えるし、家の家具を全部新しくできるかもしれない。それでも、まだまだお金が残るよね。
「やったあ! すごいお仕事だね!」
僕は嬉しくなって笑った。魔王さんも満足そうにうなずいた。
「そうであろう。お前には、それだけの価値があるのだ」
「ありがとう、魔王さん!」
「うむ。では、我が軍の一員として……」
「あっ! でも、ちょっと聞いてもいい?」
「何だ?」
「僕、荷物持ちなんだけど、それでもいいの?」
魔王さんは首をかしげた。
「荷物持ち?」
「うん! ジルネカから、お城で荷物を運ぶ仕事があるって聞いたんだ!」
僕は背中の荷物袋を持ち直した。
「僕、荷物持ちの仕事が大好きなんだ! だから、できればこれからも続けたいなあ!」
「…………」
魔王さんが動かなくなった。
あれ? 何かおかしなことを言っちゃったかな。
「ルウセトよ。お前ほどの者に、荷物を運ばせるつもりはないぞ」
「えっ!?」
それは困ったなあ。
「じゃあ、僕は何をするの?」
「我が軍を率いてもらう。お前の力があれば、どのような敵にも勝てるであろう」
「……敵?」
「そうだ。人間の勇者や、その軍勢との戦いも任せたい」
人間の勇者。それって、ヴェズドみたいな人たちかな。
「ねえ、魔王さん」
「何だ?」
「そのお仕事って、誰かを傷つけたりするの?」
「戦いになれば、そういうこともあるだろう」
「そっかあ……」
僕は少し考えた。お給料はとっても魅力的だ。金貨1000枚なんて、今まで見たこともない。でも、誰かを傷つけるために戦うのは嫌だなあ。
「ごめんね、魔王さん」
「……む?」
「僕、誰かを傷つけるためのお仕事は、あんまりしたくないんだ」
魔王さんは目を丸くした。
「……我の誘いを断るというのか?」
「うん。せっかく誘ってくれたのに、ごめんなさい!」
僕は頭を下げた。
「でも、荷物持ちの仕事なら頑張るよ! 重たい荷物もいっぱい運べるからね!」
周りが静かになった。兵士さんたちが、僕と魔王さんを交互に見ている。
「ま、魔王様の誘いを断った……?」
「金貨1000枚だぞ……?」
「しかも、荷物持ちをしたいなどと……」
みんな驚いている。やっぱり、せっかくのお誘いを断るのは失礼だったかな。
「魔王さん、本当にごめんね!」
僕はもう1度頭を下げた。すると、魔王さんが笑い始めた。
「ふっ……。ははははっ!」
大きな笑い声が部屋に響いた。
「面白い! 実に面白い少年だ!」
「えっ?」
「我の誘いを断ってまで、荷物持ちを続けたいとはな!」
魔王さんは楽しそうに笑っている。怒ってないみたいだね。よかった。
「ルウセトよ。お前を追放した勇者は、ヴェズドという男だったな?」
「うん! 知ってるの!?」
「名くらいは聞いたことがある。だが、お前ほどの力を持つ者を、なぜ追放したのだ?」
「僕が役立たずだったからだよ!」
「……役立たず?」
「うん!」
魔王さんは眉をひそめた。
「お前が役立たずだと?」
「そうなんだ! 僕、剣も魔法も得意じゃなかったからね!」
「…………」
「でも、追放してもらえてよかったよ!」
「……なぜだ?」
「だって、ヴェズドのおかげでスキルが覚醒したんだ!」
僕は嬉しくなって説明した。
「最後にいっぱい殴ってくれたおかげで、経験値がたまったんだよ! それで、こんなに丈夫になれたんだ!」
「……殴られた?」
「うん!」
「勇者にか?」
「そうだよ!」
魔王さんの顔が変わった。周りの兵士さんたちも、何だか怒っているみたいだ。
「……その勇者は、お前を殴ったうえに追放したのか?」
「うん! でも、僕は感謝してるんだ!」
魔王さんは僕の腕を見た。
「……その古い傷も、勇者パーティーにいた頃についたものか?」
「そうだよ! みんなを守ったときの傷なんだ!」
「……そうか」
魔王さんは僕から手を離した。それから、低い声でつぶやいた。
「人間の勇者とは、愚かなものだな……」
「えっ? そんなことないよ!」
僕は慌てて首を振った。
「ヴェズドはすごい勇者なんだ! 魔物もいっぱい倒してきたし、僕の荷物も持って帰ってくれたんだよ!」
「……荷物を?」
「うん! 僕がダンジョンで動けなくなったとき、全部持って帰ってくれたんだ!」
魔王さんが僕を見つめた。
「……お前は、そのときどうした?」
「ちょっと休んでから帰ったよ! 帰るのに時間がかかっちゃったけどね!」
「……そうか」
魔王さんは目を閉じた。どうしたんだろう。疲れちゃったのかな。
「魔王さん、大丈夫?」
「……うむ」
魔王さんは目を開けた。
「ルウセトよ。お前は、その勇者が憎くないのか?」
「うん! 感謝してるよ!」
「……本気で言っているのか?」
「もちろんだよ!」
僕は笑った。魔王さんはしばらく黙っていた。それから、小さくうなずいた。
「……お前という少年が、少し分かった気がする」
「本当!? 嬉しいなあ!」
すると、隣から声が聞こえた。
「……お父様」
ジルネカだった。さっきまで楽しそうに笑っていたのに、今は元気がない。金色の目が、僕の腕を見ていた。
「どうしたの、ジルネカ?」
「……ルウセト」
「うん?」
「君、本当に魔王軍で戦うのは嫌なんだよね?」
「うん! 誰かを守るためなら頑張れるけど、誰かを傷つけるために戦うのは嫌かな!」
「……そっか」
ジルネカは唇を噛んだ。それから、魔王さんの方を向いた。
「お父様。お願いがあるんだ」
「何だ、ジルネカ」
「ルウセトが嫌がる仕事は、させないであげてほしいの」
「……ほう?」
魔王さんが目を細めた。
「お前が連れてきたのであろう?」
「……うん」
「我が軍に必要な人材だと、お前が申したのではないか」
「そうだよ……。ボクが連れてきたんだ」
ジルネカは自分の手を握った。
「でも、ルウセトはボクのことを信じてくれたんだ。荷物持ちの仕事があるって言ったら、喜んでついてきてくれたの」
「…………」
「ボク、嘘をついたんだよ……」
ジルネカの声が小さくなった。
「この子が荷物持ちの仕事をしたいって知ってたのに……。本当は魔王軍に入れるために連れてきたんだ……」
ジルネカは僕を見た。
「……ごめんね、ルウセト」
「えっ?」
「ボク、君を騙したんだよ……?」
ジルネカは今にも泣きそうな顔をしている。僕はびっくりした。
「大丈夫だよ!」
「……え?」
「だって、ジルネカのおかげで、こんなに立派なお城に来られたんだよ!」
僕は周りを見回した。広い部屋に、大きな玉座。こんな場所、普通に暮らしていたら来られないよね。
「それに、魔王さんにもいっぱい褒めてもらえたし!」
「……ルウセト」
「だから、ありがとう!」
僕が笑うと、ジルネカはうつむいた。
「……何で」
「ん?」
「何で、怒らないの……?」
「えっ? どうして怒るの?」
「だって……、ボクは君に嘘をついたんだよ……!」
ジルネカが僕の腕をつかんだ。
「君はさっきまで勇者のことを話してたよね……。あんなに傷つけられたのに、ずっと感謝してるって……」
「うん!」
「ボクも……、君の優しさを利用しようとしたんだよ……?」
ジルネカの目に涙が浮かんだ。僕は困ってしまった。どうしたら元気になってくれるかな。
「ジルネカ、僕は元気だよ! ほら! どこも痛くないし、ケガもしてないよ!」
「……っ!」
「だから、心配しなくて大丈夫!」
ジルネカは、古い傷がたくさん残る僕の腕を両手で握った。
「君って、本当に優しいね……」
「えへへ。ありがとう!」
ジルネカの目から涙が落ちた。どうしよう。せっかく元気になってほしかったのに。
「ジルネカ、大丈夫?」
「……うん」
ジルネカは涙をぬぐった。
「ボク、大丈夫だよ……!」
それから、もう1度魔王さんを見た。
「お父様。お願い。ルウセトには、好きなお仕事をさせてあげて」
魔王さんはジルネカを見つめた。少し考えてから、大きくうなずいた。
「……よかろう。ルウセトよ。お前がそこまで荷物持ちを望むのであれば、我も考えを改めよう」
「本当!?」
「うむ。魔王軍への加入は、今すぐ決めずともよい」
魔王さんは僕に向き直った。
「まずは、この城で荷物持ちとして働いてみるがよい。戦いを無理に任せることもせぬ」
「ええっ!? いいの!?」
「無論だ。働いた分の報酬も支払おう」
「やったあ!」
僕は思わず両手を上げた。
「ありがとう、魔王さん!」
「はははっ! それほど喜んでもらえるとはな!」
魔王さんは近くの兵士さんに声をかけた。
「金貨を持ってこい。まずは前金として10枚渡そう」
「はっ!」
兵士さんがすぐに小さな袋を持ってきた。中には、金貨が10枚も入っていた。
「わああっ!」
僕は目を輝かせた。
「こんなにたくさん!?」
「うむ。仕事の前金だ。好きに使うがよい」
「ありがとう!」
僕は金貨を大切に荷物袋へしまった。すごいなあ。今日はまだ荷物を運んでないのに、こんなにお金をもらえるなんて。これなら、新しい机と椅子を買えるね!
「魔王さん! 僕、頑張って荷物を運ぶよ!」
「うむ。期待しておるぞ」
「はい!」
僕が頭を下げると、魔王さんは満足そうに笑った。周りの兵士さんたちも、何度もうなずいている。
一方、その頃。
東の魔法都市では、ポッケナがルウセトを探し続けていた。
「……ここにも、おらへん」
ポッケナは街の東門を出て、森の中を歩いていた。杖を持つ手には力が入っていた。街の人たちに聞いたところ、ルウセトは東の森にある迷宮へ向かったらしい。7人の子供を助けた場所だ。しかし、本人は街へ戻ってきていなかった。
「……ルウセト」
ポッケナは唇を噛んだ。やっと居場所が分かったと思ったのに、また見失ってしまった。
「お願いやから、無事でおってな……」
ポッケナは杖を握り直した。しばらく歩くと、山の下に大きな穴が見えてきた。古い石の柱が並んでいる。
「……ここやな」
ルウセトが入ったという迷宮だった。ポッケナは迷宮の入口に着いた。そこで、足元に何かが残っていることに気づいた。
「……ん?」
地面には細い光が残っていた。魔法を使ったあとに残る魔力で、普通の人には見えないものだった。
「……これ、何の魔法や?」
ポッケナは杖を持ち上げた。紫色の光が地面に広がる。すると、足元に丸い魔法陣が浮かび上がった。
「……転移魔法?」
ポッケナは眉をひそめた。誰かが、ここから別の場所へ移動したらしい。しかも、魔法が使われてからそれほど時間はたっていない。
「……ルウセトが使ったんか?」
ポッケナは首を振った。ルウセトは魔法が使えない。なら、誰かがここで転移魔法を使ったことになる。
「……誰が?」
ポッケナは魔法陣をじっと見つめた。普通の転移魔法とは、魔力の色が違う。人間の魔法使いが使うものではなかった。
「……あかん」
ポッケナの顔から血の気が引いた。
「これ、魔族の魔法や……!」
魔族は、人間とは違う魔力を持っている。
ポッケナは昔、魔族に関する本を何度も読んでいた。だから、すぐに分かった。
「何で、こんなところに魔族の転移魔法が……?」
ポッケナは地面にしゃがみ込んだ。魔法陣の跡を、杖でゆっくりとなぞる。すると、紫色の光の中に、黒い印が浮かび上がった。
「……え?」
ポッケナの手が止まった。その印を、彼女は知っていた。魔法学校の本で見たことがある。魔王軍の転移魔法に残る印だった。
「……魔王軍?」
ポッケナは息をのんだ。どうして、魔王軍の転移魔法がここにあるのだろう。しかも、ルウセトが最後にいた場所に。
「……うそやろ」
嫌なことばかり考えてしまう。ルウセトは、昔から人を疑わない子だった。誰かに頼まれれば、嫌な顔1つせずに手伝ってくれた。自分を傷つけた勇者にさえ、感謝していた。そんなあの子が、魔族に優しく声をかけられたら。困っているから助けてほしいと言われたら。
「あかん。あかんって……!」
ポッケナは杖を握りしめた。ルウセトは、魔王軍がどれほど危険な相手なのか知らないかもしれない。騙されて、連れていかれたのかもしれない。また、誰かのために自分を犠牲にしようとしているのかもしれない。
「……ルウセト」
ポッケナの声が震えた。




