第12話 街中で英雄と称えられ、金貨300枚の報酬が用意されていた僕。でも何も知らずに青髪の少女から荷物持ちの仕事を紹介されて、お城へ行ったら雇い主が魔王でした!? 一方、僕を探す魔法使いは泣いていた
魔法都市の大通りには、大勢の人が集まっていた。
「おい、聞いたか!? 行方不明だった子供たちが全員助かったらしいぞ!」
「本当か!? 7人とも無事なのか!?」
「ああ! それも、たった1人の少年が助けたそうだ!」
街の人たちは、その話ばかりしていた。7人もの子供が次々と姿を消し、街では誰もが怖がっていた。そんな子供たちを救い出したのは、16歳の荷物持ちの少年だった。しかも、子供たちを連れ去った魔物まで倒したという。
「名前はルウセトだってさ!」
「ルウセト……? どこかで聞いた名前だな」
「お前、あの手配書を見てないのか? 誘拐犯として指名手配されていた少年だよ!」
「はあ!? あの少年が子供たちを助けたのか!?」
街中が騒ぎになっていた。冒険者ギルドでも、朝から大勢の冒険者が集まっていた。
「ギルド長! 迷宮の調査に向かった部隊が戻りました!」
職員の報告を聞き、ギルド長は椅子から立ち上がった。
「それで、どうだった!?」
「間違いありません! 骸鐘王ベルグリフは倒されていました! 迷宮にいた死者の軍勢も、すべて動かなくなっています!」
「……本当なのか?」
「はい! 巨大な鐘も鳴らなくなっていました!」
ギルド長は大きく息を吐いた。
「信じられん……。あの骸鐘王を、本当に倒したというのか……」
骸鐘王ベルグリフは、これまで何度も討伐隊を倒してきた魔物だった。
死んだ兵士たちを何度でも動かし、大きな鐘で人間を操っていた。
そんな恐ろしい魔物を、16歳の荷物持ちが1人で倒したのだ。
「しかも、子供たちの話では、少年は全員の呪いを引き受けたそうです!」
「……呪いを引き受けた?」
「はい! 子供たちの体から黒い光を取り出し、自分の体に移したと!」
「そんなことができるのか!?」
ギルド長は目を見開いた。
「7人分もの呪いだぞ!? 普通の人間なら、命がいくつあっても足りん!」
「ですが、少年は笑っていたそうです! 子供たちを安心させながら、全員を連れ帰ったと!」
ギルド長は両手で机をたたいた。
「何という少年だ……!」
部屋にいた冒険者たちも、次々と声を上げた。
「すげえな! 俺なら絶対に無理だ!」
「俺たちが何人がかりでも倒せなかった魔物を、荷物持ちが1人で倒したのかよ!」
「しかも、子供を全員助けたんだろ!? とんでもねえ英雄じゃねえか!」
ギルド長は大きくうなずいた。
「ああ。これほどの功績を上げた少年を、ただの荷物持ちとして扱うわけにはいかん!」
ギルド長は職員に向き直った。
「すぐに討伐報酬を用意しろ! それと、伯爵にも連絡だ! この少年には、街を救った英雄として正式に礼を尽くさねばならん!」
「はい!」
職員たちが走り出した。
その日のうちに、魔法都市を治める伯爵が、ルウセトに金貨300枚の特別報奨金を贈ると発表した。さらに、冒険者ギルドからも高額な討伐報酬が支払われることになった。
街の人たちも負けてはいなかった。
「うちの娘を助けてくれたんだ! 俺にも礼をさせてくれ!」
「うちの息子も助けてもらったんです! 何か贈り物をしたいんですが!」
助けられた子供たちの家族が、次々とギルドを訪れた。その中には、家具を作る職人もいた。
「そのルウセトって少年、荷物持ちなんだろ? 家はあるのか?」
「ええ。登録情報によれば、故郷の村に家があるようです」
「そうか! なら、立派な机と椅子を作ってやる! 娘を助けてくれた恩人なんだ。金なんていらねえ!」
ほかの家族たちも、食べ物や服を贈りたいと言い始めた。ギルドの職員たちは、贈り物の一覧を作るだけでも大忙しになっていた。
しかし、1つだけ大きな問題があった。
「……それで、肝心のルウセト君はどこにいるんだ?」
ギルド長が尋ねた。職員たちは顔を見合わせた。
「それが……、まだ見つかっておりません」
「何だと?」
「子供たちを救ったあと、姿が分からなくなっているそうです」
「街中を探したのか?」
「はい! 宿屋も商店も調べましたが、どこにも……」
ギルド長は頭を抱えた。
「街を救った英雄が、どうしてどこにもおらんのだ……!」
仕方なく、ギルドはルウセトが戻ってくるまで報酬を預かることにした。本人が戻れば、いつでも受け取れる。さらに、故郷の村へ贈り物を届ける準備も始めた。その頃には、街中に新しい張り紙が貼られていた。昨日まで誘拐犯として指名手配されていた少年が、今度は街を救った英雄として紹介されていた。
人々はその張り紙を見て、口々にルウセトを褒めたたえていた。けれど、その本人はどこにもいなかった。
「ルウセト、どこにおるん……?」
ポッケナは街の大通りを歩いていた。緑色の髪は乱れ、紫色の目は赤くなっている。ずっと、ルウセトを探していた。しかし、どこにも見つからない。街の人たちに聞いても、みんな同じ答えだった。
「ルウセト? ああ、あの英雄の少年か!」
「本当に立派な子だよ! うちの息子も助けてもらったんだ!」
「あんなに優しい子が誘拐犯だなんて、おかしいと思ってたんだよ!」
誰もがルウセトを褒めていた。ポッケナは、そのたびに嬉しくなった。あの子の優しさを、みんなが知ってくれた。ずっと仲間を守り続けてきたルウセトが、ようやく褒められている。
「……よかったなあ、ルウセト」
ポッケナは小さく笑った。けれど、次に聞いた話で、その笑顔が消えた。
「そういえば、あの少年、子供たちの呪いまで全部引き受けたそうだぞ」
「ええ!? 7人分もか!?」
「しかも、痛そうな顔を1つもしなかったんだってさ!」
ポッケナの足が止まった。
「……え?」
近くで話していた男たちに駆け寄る。
「ちょ、ちょっと待って! 今、何て言うたん!?」
「ん? ああ、ルウセトって少年の話だよ」
「呪いを……、7人分の呪いを引き受けたって……ほんまなん……?」
「そうだよ! 助けられた子供たちが話してたんだ!」
ポッケナの顔から血の気が引いた。
ルウセトは、子供たちを苦しめていた呪いを7人分も引き受けてしまった。ポッケナは昔のルウセトを思い出した。仲間の毒を引き受けて血を吐いていた。大ケガをしても、大丈夫だと笑っていた。どれほど苦しくても、誰にも助けを求めなかった。
ポッケナの声が震えた。
「あの子……、また自分の体で……!」
ポッケナは口元を押さえた。ルウセトは昔からそうだった。誰かが苦しんでいれば、自分が代わりに苦しもうとする。それでも、周りを心配させないように笑っていた。ポッケナは何度も、その笑顔を信じてしまった。ルウセトが大丈夫だと言えば、本当に大丈夫なのだと思っていた。
けれど、そんなはずはなかった。あの子の体には、今も消えない傷がたくさん残っている。
結局また守れなかった。
「ごめんな、ルウセト……」
涙が落ちた。ポッケナは急いで目をこすった。泣いている場合ではない。7人分もの呪いを引き受けたルウセトが、今どこで何をしているのか分からないのだ。
「……探さな」
ポッケナは杖を握り直した。
「あの子を見つけて、体に異変がないか調べなあかん……!」
ルウセトがどんなに大丈夫だと言っても、今度こそ全部確かめる。もう2度と、1人で苦しませない。
「待っててな、ルウセト……。うち、絶対に見つけるから……!」
ポッケナは涙をぬぐい、また走り出した。
その頃、僕は青い髪の女の子、ジルネカと一緒にいた。ジルネカが荷物持ちの仕事を紹介してくれるというので、魔法で働く場所まで連れてきてもらったんだ。
「うわああっ!」
僕は思わず声を上げた。
「すごい! こんなに大きなお城、初めて見たよ!」
「ふふん! でしょ?」
ジルネカは嬉しそうに笑った。お城は黒い石でできていた。高い塔がいくつも並び、空には大きな旗が揺れている。
門の前には、鎧を着た兵士たちが並んでいた。その兵士たちの頭には、角が生えていた。
「あっ! 角がある!」
「ん? ああ、うちの兵士たちだよ!」
「へえ! 立派な角だね!」
僕が手を振ると、兵士たちは目を丸くした。でも、すぐにジルネカに気づいて、頭を下げた。
「お帰りなさいませ!」
「うん! ただいま!」
ジルネカが片手を上げる。兵士たちは僕を見た。
「そちらの人間は……?」
「ボクのお客さん! お父さんに会わせるから、通してね!」
「はっ!」
兵士たちは道を開けた。
「ありがとうございます!」
兵士たちがまた驚いた顔をした。どうしたんだろう。でも、通してもらえてよかった。
僕たちは大きな門をくぐった。お城の中も、とても立派だった。床はぴかぴかに磨かれていて、壁には大きな絵が飾られている。廊下には、いろいろな姿の人がいた。角のある人や背中に羽のある人、大きな尻尾を持っている人までいた。みんな、ジルネカを見ると頭を下げていた。
「ジルネカって、ここでは偉い人なの?」
「えへへ! まあね!」
「すごいなあ!」
僕は感心した。
「こんなに大きなお城で働けるなんて、楽しみだね!」
「うん! ルウセトなら、きっと気に入るよ!」
ジルネカは笑っていた。でも、僕の顔を見ると、少しだけ目をそらした。
「……ねえ、ルウセト」
「うん?」
「ボクのこと、信じてくれる?」
「うん! 信じてるよ!」
「……まだ会ったばかりなのに?」
「だって、お仕事を紹介してくれたんでしょ?」
僕が笑うと、ジルネカは口を閉じた。
「……そっか」
ジルネカは僕の手を強く握った。
「じゃあ、行こう!」
「うん!」
僕たちは長い廊下を進んだ。やがて、とても大きな扉の前に着いた。扉の左右には、黒い鎧を着た兵士が立っている。ジルネカを見ると、2人とも頭を下げた。
「お父様は?」
「中でお待ちです」
ジルネカは僕を振り返った。
「ルウセト。これからボクのお父さんに会ってもらうね!」
「うん!」
「ちょっと怖い顔をしてるけど、気にしなくていいから!」
「そうなんだ!」
僕はうなずいた。
「ちゃんと挨拶するよ!」
「……うん」
ジルネカは小さく笑った。それから、兵士たちに合図した。大きな扉が開いていく。中は、とても広い部屋だった。赤いじゅうたんが奥まで続いている。左右には大勢の兵士たちが並び、部屋の奥には大きな玉座があった。
玉座には1人の男の人が座っていた。頭には大きな黒い角が2本生えていて、赤い目をしていた。髪は長く、真っ黒だった。黒い服の上から金色の飾りがついたマントを着ていた。すごく立派な人だ。
「うわあ……!」
僕は思わず声を上げた。
「ジルネカのお父さんって、すごい人なんだね!」
「……うん」
ジルネカは僕の手を離し、その人の前まで歩いていった。僕もあとについていった。ジルネカは片膝をつき、深く頭を下げた。
「お父様。ただいま戻りました」
男の人が、ゆっくりと顔を上げた。
「お父様がお探しになっていた少年を連れてまいりました」
「……ほう」
男の人の赤い目が、僕に向いた。
「その少年が?」
「はい。元勇者パーティーの荷物持ち、ルウセトです」
僕は慌てて頭を下げた。
「あっ! 初めまして! 僕はルウセトです! 荷物持ちをしています!」
男の人は黙って僕を見ていた。僕は笑顔で続けた。
「ジルネカから、お城で荷物持ちのお仕事があるって聞きました! ぜひ働かせてもらいたいです!」
「…………」
部屋が静かになった。
あれ?
何か変なこと言っちゃったかな。すると、玉座の男の人が大きな声で笑い始めた。
「……ふっ。ふはははは!」
びっくりした。でも、楽しそうでよかった。
「なるほど。ジルネカよ、よく連れてきた」
「ありがとうございます、お父様」
ジルネカは頭を下げた。それから、僕の方を見た。
「ルウセト。ごめんね」
「えっ?」
「まだ、ちゃんと説明してなかったことがあるんだ」
「そうなの?」
ジルネカは少し困った顔で笑った。
「ボク、本当は魔王の娘なんだ」
「……えっ?」
僕は目を丸くした。
魔王の娘? 魔王って、あの魔王?
「……ジルネカって、魔王の娘さんなの!?」
「うん」
ジルネカはうなずいた。
「それでね、ルウセト。ボクが君をここに連れてきたのは、荷物持ちの仕事を頼むためじゃないんだ」
「……えっ?」
「君に、ボクたちの仲間になってほしいの」
僕は首をかしげた。
「仲間?」
男の人が、僕を見下ろした。
「我こそが、この魔王軍を率いる魔王だ」
僕は目を丸くしたまま、玉座を見上げた。
「勇者に捨てられし少年よ。我が魔王軍に、お前の力を貸してもらおうか」




