第10話 魔法都市で少女を助けた僕、誘拐犯として投獄された! 鐘の音で子供が消えたので鉄格子を壊して助けに行ったら、指名手配に!? 一方、僕を探す魔法使いは手配書を見つけて泣き、無実を証明すると誓った
「よーし! 今日もいい天気だね!」
僕は大きく伸びをした。北の街で荷物持ちの仕事を終えたあと、故郷へ帰ろうと思っていたんだけど、ちょうど東の街まで荷物を運ぶ仕事を見つけたんだ。少し遠回りになるけど、報酬ももらえるし、新しい街にも行ける。帰りに家具を買うお金も、もっと増やせそうだね!
「よし! 頑張って運ぼう!」
僕は大きな荷物袋を背負い、商人のおじさんと一緒に東の街へ向かった。道中はとても楽しかった。おじさんは東の街のことをいろいろ教えてくれたし、途中で食べた焼きたてのパンもおいしかった。それに、荷物を背負っても全然疲れない。スキルが覚醒してから、本当に便利になったなあ。
「いやあ、君がいてくれて助かったよ。こんなにたくさんの荷物を、1人で運べるなんてな」
「荷物持ちだからね! これくらい任せてよ!」
「ははは。頼もしいな!」
おじさんに褒めてもらえて嬉しかった。でも東の街が近づくと、おじさんの顔が少し暗くなった。
「……最近は、あの街も物騒になっていてな」
「そうなの?」
「ああ。子供が何人も行方不明になっているらしい」
「ええっ!?」
それは大変だ。小さな子供が1人で知らない場所へ行ったら、迷子になっちゃうよね。
「もう7人も消えたそうだ。衛兵たちも探しているが、誰も見つかっていない」
「7人も!? それは心配だね!」
「そうなんだよ。街の人たちも、ずいぶん怖がっているらしい」
早く見つかるといいなあ。僕にも何か手伝えることがあればいいんだけど。
東の魔法都市に到着した。街には高い塔が何本も建っていて、道には魔法の道具を売る店が並んでいた。空を飛ぶ小さな荷物箱まである。
「うわあ! すごい街だね!」
僕は目を丸くした。さすが魔法都市だ。勇者パーティーにいた頃、ポッケナもこんな街に行きたいって言っていたっけ。ポッケナは魔法が大好きだったからね。今も元気にしているかなあ。
「さて、まずは荷物を届けよう!」
僕は商人のおじさんと一緒に、依頼された荷物を店まで運んだ。報酬を受け取って外へ出ると、広場に大勢の人が集まっていた。みんな壁に貼られた紙を見ている。
「あれ? 何かあったのかな?」
僕も近づいてみた。紙には、小さな男の子や女の子の絵が描かれている。その下には、行方不明になった日付が書いてあった。
「あっ……。これが、いなくなった子供たちなんだね」
7人とも、まだ小さな子供だった。みんな、どこへ行っちゃったんだろう。僕が紙を見ていると、近くから女性の声が聞こえてきた。
「お願い……。誰か、娘を見つけて……!」
振り返ると、小さな女の子の手を握った女性が泣いていた。どうしたんだろう。僕が近づこうとしたときだった。
ゴォォォン……。
「……ん?」
どこからか、鐘の音が聞こえてきた。ずいぶん大きな鐘だね。近くに教会でもあるのかな。
ゴォォォン……。
もう1度、鐘が鳴った。すると、女性の隣にいた女の子が、急に歩き始めた。
「あれ?」
女の子は目を閉じたままだ。お母さんが手を引いているのに、まっすぐ歩こうとしている。
「ちょっと、どこへ行くの!?」
お母さんが慌てて呼び止めた。でも、女の子は返事をしない。そのまま手を振りほどいて走り出した。
「あっ! 待って!」
お母さんも後を追いかける。ところが、女の子はものすごい速さで人混みを抜けていった。
「危ないよ!」
僕も走り出した。女の子は街の外へ向かっている。途中で転んでも立ち上がり、どんどん走っていく。何だかおかしい。目を閉じたままなのに、どうして走れるんだろう。
「ねえ! 止まって!」
僕が呼びかけても、女の子は返事をしなかった。そのまま街外れの坂道へ入っていく。坂の先には、深い崖があった。
「あっ! そっちは危ない!」
女の子は止まらない。あと少しで崖から落ちてしまう。僕は地面を蹴った。
「よいしょっ!」
すぐに女の子へ追いつき、後ろから抱き上げた。
「よかった! 間に合ったね!」
女の子の足が、崖の端から離れた。僕は安全な場所まで戻り、女の子の顔を見た。
「大丈夫? どこか痛くない?」
女の子は目を閉じたままだった。返事もしてくれない。
「あれ? 眠ってるの?」
頬を軽くつついてみる。でも、起きなかった。困ったなあ。お母さんも心配しているだろうし、早く連れて帰ってあげないと。
「よし! お母さんのところへ戻ろうね!」
僕は女の子を抱きかかえ、街の方へ歩き始めた。すると、前から鎧を着た男の人たちが走ってきた。
「いたぞ!」
「そこの少年! 止まれ!」
「あっ、こんにちは!」
僕は笑って手を振った。でも、鎧を着た人たちは剣を抜いていた。どうしたんだろう。
「その子供を下ろせ!」
「えっ? この子?」
「そうだ! お前、その少女をどこへ連れていくつもりだった!」
「お母さんのところだよ!」
「何だと?」
「この子、崖から落ちそうになってたんだ! だから助けたんだよ!」
僕が説明すると、男の人たちは顔を見合わせた。その中で、立派な鎧を着た男の人が前へ出てきた。衛兵の隊長さんみたいだ。
「……お前、この街の人間ではないな?」
「うん! 今日来たばかりなんだ!」
「名前は?」
「ルウセトだよ! 荷物持ちをしてるんだ!」
「荷物持ち……?」
隊長さんが僕の体を見た。服の袖から、昔の傷が見えている。
「……ずいぶん傷だらけだな」
「ああ、これ? 仲間を守ったときについたんだ!」
「仲間を守った……?」
「うん! でも、もう痛くないから大丈夫だよ!」
僕が笑うと、隊長さんの顔が険しくなった。
「お前、こんな場所で意識のない子供を抱えて、何を笑っている!」
「えっ?」
「最近、この街では子供が次々に消えているんだぞ!」
「うん! 7人もいなくなったんでしょ?」
「……詳しいな」
「さっき広場で見たんだ!」
隊長さんは、さらに顔をしかめた。
「お前が犯人なんじゃないのか?」
「ええっ!? 僕が!?」
びっくりした。そんなことを言われるとは思わなかったよ。
「違うよ! 僕、この子を助けたんだ!」
「だったら、どうしてこの子は目を覚まさない!」
「うーん。それが僕にも分からなくて……」
「魔法で眠らせたんじゃないのか!」
「えっ? 僕、魔法は使えないよ?」
そう言うと、隊長さんが剣を構えた。
「言い訳は牢屋で聞く! その子供を渡せ!」
「あっ、うん! 大切にしてあげてね!」
僕は女の子を衛兵さんに預けた。衛兵さんは驚いた顔をしていたけど、ちゃんと抱きかかえてくれた。
「この子のお母さん、広場にいたんだ。探してあげてね!」
「黙れ! お前はこっちへ来い!」
「うん!」
僕は隊長さんについて歩き始めた。どうやら、いろいろ話を聞きたいみたいだね。子供たちが7人もいなくなっているんだ。衛兵さんたちも大変なんだろうなあ。僕にできることがあれば、手伝ってあげたいね。
「……えっ? ここに入るの?」
僕は鉄の扉を見上げた。衛兵さんたちに連れてこられたのは、街の牢屋だった。中には鉄格子が並んでいる。隊長さんが扉を開けた。
「さっさと入れ!」
「うん!」
僕は言われたとおりに中へ入った。すると、扉が閉まった。
ガチャン!
「あれ?」
鍵までかけられちゃった。
「隊長さん! 僕、ここで待ってればいいの?」
「当たり前だ! お前は誘拐事件の容疑者なんだからな!」
「そっかあ。ちゃんと調べないといけないんだね!」
「……何を笑っている!」
「だって、子供たちを探すために頑張ってるんでしょ? えらいなあって!」
隊長さんが黙った。それから、ため息をついた。
「……お前、本当に何なんだ?」
「荷物持ちだよ!」
「もういい!」
隊長さんは牢屋から出ていった。
うーん。怒らせちゃったかなあ。
僕は鉄格子の中を見回した。
「おおっ! ベッドまである!」
小さなベッドと、木の椅子が置いてある。思ったよりきれいな部屋だった。せっかくだから、少し座らせてもらおう。僕はベッドに腰を下ろした。でも、女の子のことが心配だなあ。あの子、ちゃんと目を覚ましたかな。それに、ほかの7人もまだ見つかっていないんだよね。
「早くみんなが帰ってくるといいなあ」
僕は窓の外を見た。空は少しずつ暗くなっていた。
そのときだった。
ゴォォォン……。
「あれ?」
また鐘の音が聞こえた。さっきと同じ音だ。
ゴォォォン……。
今度は、さっきより大きく聞こえた。すると、牢屋の外が急に騒がしくなった。
「大変だ!」
「また子供が消えたぞ!」
「何だと!?」
衛兵さんたちが走り回っている。どうしたんだろう。僕は鉄格子のそばへ行った。
「ねえ! 何かあったの?」
近くにいた衛兵さんが振り返った。
「また子供が鐘の音を聞いて、街の外へ歩き始めたんだ!」
「ええっ!?」
「しかも、今度は2人だ! 呼び止めても返事をしないらしい!」
それって、さっきの女の子と同じだ。
大変だ! また崖へ向かったら、落ちちゃうかもしれない。
「僕も助けに行くよ!」
「何を言ってる! お前は容疑者だろうが!」
「あっ、そうだったね!」
でも、このまま待っていたら子供たちが危ない。
「ねえ、衛兵さん。ここから出てもいい?」
「いいわけないだろ!」
「そっかあ。じゃあ、ちょっと困っちゃうな」
僕は鉄格子を見た。ずいぶん太い鉄の棒だ。でも、今の僕なら動かせるかもしれない。
「よいしょっと!」
両手で鉄格子をつかみ、少し押してみた。
バキンッ!
「……あれ?」
大きな音がした。鉄格子が外れてしまった。
「うわあ! 壊れちゃった!」
どうしよう。こんなに簡単に外れるとは思わなかったよ。僕は外れた鉄格子を床に置いた。
「ごめんね! あとでちゃんと直すから!」
「…………」
衛兵さんが口を開けたまま動かなくなっていた。
あれ? どうしたんだろう。
「じゃあ、子供たちを助けてくるね!」
僕は鉄格子のあった場所から外へ出た。
「ま、待てえええっ!」
後ろで衛兵さんが叫んだ。
「脱走だ! 容疑者が脱走したぞ!」
あれ? 脱走って、僕のことかな?
うーん。 でも、今は子供たちを助ける方が大切だよね。
「ごめんなさーい! あとで戻ってくるからね!」
僕は衛兵さんに手を振り、街の外へ向かって走り出した。広場には、大勢の人が集まっていた。
「子供がいない!」
「また鐘の音だ!」
「衛兵は何をやっているんだ!」
みんな困っているみたいだ。僕は近くにいたおじさんに声をかけた。
「ねえ! 子供たちはどっちへ行ったの?」
「あ、ああ! 東の門の方だ!」
「ありがとう!」
僕は走り出した。東の門を抜けると、遠くに小さな人影が見えた。
「あっ! いた!」
小さな男の子と女の子が、手をつないで歩いている。2人とも目を閉じたままだ。しかも、道から外れて森の方へ向かっていた。
「待ってー!」
僕は走って追いついた。男の子の肩に手を置く。
「大丈夫? どこへ行くの?」
返事がない。女の子も同じだ。2人は僕が目の前にいても、歩こうとしている。
「困ったなあ。これじゃ危ないよ!」
僕は2人を抱き上げた。すると、2人とも手足を動かし始めた。まるで、どうしても森の奥へ行きたいみたいだ。
「あれ? そんなに行きたいところがあるの?」
ゴォォォン……。
また鐘が鳴った。2人の体が、大きく動いた。
「あっ!」
そういえば、さっきの女の子も鐘が鳴ってから走り出したんだよね。もしかして、この音が原因なのかな。
「うーん。だったら、鐘を止めればいいのかも!」
僕は2人を抱えたまま街の方へ戻った。門のそばには、子供たちを探している大人が集まっていた。
「あっ! その子たち!」
「見つかったの!?」
お母さんらしい女性たちが駆け寄ってきた。
「うん! 森の方へ歩いてたから、連れてきたんだ!」
「ありがとうございます!」
女性は泣きながら子供を抱きしめた。よかった。これでひと安心だね。
「この子たち、鐘の音が鳴ると歩き始めるみたいなんだ。だから、音が聞こえたら気をつけてね!」
「鐘の音……?」
「うん! 僕、その鐘がどこにあるのか探してみるよ!」
僕は笑って手を振った。子供たちが7人も行方不明になっている。もしかしたら、その子たちも鐘の音についていったのかもしれない。だとしたら、早く見つけないとね。
「よし! 行ってみよう!」
僕は鐘の音が聞こえた森の方へ走り出した。
一方、その頃。東の魔法都市では、大勢の衛兵が街中を走り回っていた。
「急げ! 逃げた容疑者を探せ!」
「牢屋の鉄格子を破壊して逃げたそうだ!」
「何だと!? そんなことができる人間がいるのか!?」
衛兵たちは大騒ぎだった。そのうえ、街の壁には新しい紙が貼られ始めていた。指名手配書だった。そこには、茶色い髪をした傷だらけの少年の絵が描かれている。
名前はルウセト。
容疑は、連続誘拐事件への関与と牢屋からの脱走。見つけた者はすぐに衛兵へ知らせるようにと書かれていた。
「はあ……。また、ここにもおらへんかった……」
東の魔法都市に、1人の少女がいた。薄緑色のぼさぼさの髪に、大きな紫色の目。たくさんのポケットがついたオレンジ色のローブを着た、小さな魔法使いだった。
ポッケナだ。
彼女はルウセトを探して、東の街まで来ていた。魔法学校や情報屋を回り、傷だらけの荷物持ちを見かけなかったか尋ねている。しかし、まだ手がかりは見つかっていなかった。
「ルウセト……。どこ行ってしもうたん……?」
ポッケナは杖を抱きしめた。最近は、夜もよく眠れなかった。目を閉じると、ルウセトの姿が浮かんでくる。自分の魔法の実験に何度も付き合ってくれた、あの優しい少年。魔法が失敗しても、ルウセトは怒らなかった。痛い思いをしても、いつも笑ってくれた。ポッケナは、その笑顔に何度も甘えてしまった。
「うち、あの子に何回もひどいことしてしもうた……」
目に涙が浮かぶ。
「それでも、ルウセトはいつも優しかったんよ……」
もう1度、会いたい。今度こそ、ちゃんと謝りたい。そして、もう誰にも傷つけさせたくなかった。ポッケナは涙を拭い、歩き始めた。すると、近くの壁に大勢の人が集まっていた。
「なあ、聞いたか?」
「また誘拐犯が逃げたんだって?」
「ああ! しかも牢屋をぶっ壊したらしいぞ!」
「とんでもない奴だな!」
ポッケナは足を止めた。
「……誘拐犯?」
何だか騒がしいなあ。そんなことを考えながら、壁の紙を見た。そこには、少年の顔が描かれていた。
「…………え?」
ポッケナの目が大きく開いた。茶色い髪。若い男の子。そして、全身に残るたくさんの傷。絵はあまり上手ではなかった。それでも、見覚えのある顔だった。
「……ルウセト?」
ポッケナは紙に近づいた。指名手配書に書かれた名前を見る。
ルウセト。
「……っ!」
間違いない。ずっと探していた少年の名前だった。しかし、その下には信じられないことが書かれていた。連続誘拐事件の容疑者。牢屋から脱走。危険人物として指名手配中。
「……何や、これ」
ポッケナの声が低くなった。何度も文字を読み返す。でも、書かれていることは変わらない。
「ルウセトが……子供を誘拐した……?」
ポッケナは紙をつかんだ。
「そんなわけないやろ……!」
周りの人たちが振り返った。けれど、ポッケナは気にしなかった。
「あの子が子供をさらうわけないやん! 困ってる人がおったら、自分が傷ついてでも助ける子なんやで!」
指名手配書を握る手が震えた。ルウセトは誰よりも優しい。自分が痛い思いをしても、仲間のことを心配してくれた。そんな子が、子供を傷つけるはずがない。
「……何でやねん」
ポッケナは唇を噛んだ。
「何で、うちが知らん間に……。あの子、またひどい目に遭うてるん……?」
目に涙が浮かんだ。勇者パーティーにいた頃もそうだった。ルウセトは何も悪くないのに、ヴェズドに殴られていた。追放され、お金も荷物も奪われた。ダンジョンに置き去りにされ、殺されそうにまでなった。そのことを知ったとき、ポッケナは勇者に復讐した。魔法で手足を縛り、怖い幻を何度も見せた。泣いて許しを求めるヴェズドを見ても、許す気にはなれなかった。けれど、そんなことをしても、ルウセトの傷は消えない。
それなのに今度は、自分たちがいないところで、誘拐犯にされている。
「うち……。あの子を守るって決めたのに……」
ポッケナは指名手配書を見つめた。しばらくして、顔を上げた。
「……絶対に、許さへん」
その声を聞いて、周りの人たちが静かになった。
「ルウセトを犯人扱いした奴ら、全部調べたる。あの子が悪いことなんかしてへんって、うちが証明したるわ」
ポッケナは杖を握りしめた。そのときだった。
ゴォォォン……。
大きな鐘の音が街に響いた。




