第二話 三人ともなりたくない
王位継承者を選ぶことになった翌日、三人の王女にもその話が伝えられた。
ただし、いきなり一人ずつ呼び出して希望を聞くようなことはしない。王室卿は、同じ文面の書状を三通用意した。
先に知らせておけば、第一王女は質問を書き出し、第二王女は侍女たちから情報を集め、第三王女は姉たちへ尋ねに行くだろう。
どうせ最後には三人で話すのである。
第一王女カドミアは、自室の書き物机でそれを読んだ。
第二王女コーラルは、翌日の夜会に着ていく衣装を合わせながら読んだ。
第三王女セルリアは、菓子を一口食べてから読もうと思い、先に食べた。
さて、その日の午後には三人とも、姉妹で使っている小さな居間へ集まっていた。
王宮には、来賓を迎える大広間もあれば、外国の使節と会う謁見室もある。しかし、王女たちが普段からそんな部屋で過ごしているわけではない。
三人の居間には、長椅子が二つと肘掛け椅子が三つ、壁際にはカドミアの本が入りきらなくなった棚があり、窓辺にはコーラルが持ち込んだ花が飾られている。セルリアの刺繍枠は、先週から同じ場所に置かれたままだった。
中央の卓には茶と菓子が揃っている。
今日は薄く焼いた生地に木苺のクリームを挟み、上から粉砂糖をかけた菓子だった。
「私は嫌よ」
カドミアが言った。
「私だって嫌よ」
コーラルもすぐに返した。二人は向かい合って座り、セルリアはその間で菓子を切っていた。
「こういうときは、まず第一王女でしょう」
「この国では、第一王女が継ぐとは決まっていないわ」
「決まっていなくても、たいていはそうなるじゃないの」
「だったら今回は、たいていではないことにすればいいでしょう」
カドミアは書状を卓へ置いた。すでに余白へ、確認したいことが細かな字で書き込まれている。
彼女は三姉妹の中で最も頭がよかった。
法律も歴史もよく学び、王室の財産目録を渡せば、誰より早く誤りを見つける。領地から上がってきた報告書にもきちんと目を通し、質問があれば担当者へ直接確かめる。
ここまで聞けば、次の女王にふさわしいように思える。
問題は、本人が人前へ出ることを好まないことであった。
「女王になったら、祝典も、夜会も、外国からのお客様を迎えるのも、全部出なければならないのよ」
「書類は得意でしょう」
「書類だけなら引き受けます」
「そんな女王はいないわよ」
「では、貴女がなればいいでしょう。夜会も挨拶も好きじゃないの」
話を向けられたコーラルは、茶へクリームを足した。
彼女は人前に出るのが苦にならない。舞踏会では最初から最後まで楽しそうに踊り、訪問先では子供から老人まで相手を見つけて話をする。
華やかな赤い衣装もよく似合う。王家の馬車からコーラルが降りれば、集まった人々から自然に声が上がった。
こちらも、次の女王にふさわしく見える。
しかし、本人には別の不満があった。
「女王になったら、結婚相手だけでなく、いつ子供を持つか、何人産むかまで王室会議で話し合われるのよ」
「私でも同じでしょう」
「私は貴女より、そういう話をされやすいの。昨日も父上から、子供は三人以上が望ましいと言われたわ」
「まだ結婚もしていないのに?」
「だから嫌なのよ」
コーラルは匙を受け皿へ戻した。
「結婚するのは私よ。子供を産むのも私。どうして父上や王室卿に人数まで決められなくてはならないの」
なお、王室卿はまだ人数を決めていない。
コーラルの父、第二王配ヴェルディが一人で先走っているだけである。
とはいえ、王家の子供となれば、継承順位も教育も普通の家とは違う。まったく口を出されずに済むとは、コーラルも思っていなかった。
分かっているからこそ、なりたくないのである。
「それなら、セルリアは?」
カドミアとコーラルが同時に妹を見た。
セルリアはちょうど、木苺のクリームが多く挟まっているところを口へ運んだところだった。
「私?」
「そう。貴女も候補なのよ」
「姉上が二人いるのに?」
「先ほどから、その姉二人が嫌だと言っているでしょう」
セルリアは菓子を飲み込み、茶を一口飲んだ。
「私が女王になって、何をするのですか」
「今の母上と同じことよ」
「母上と同じことが、私にできます?」
姉二人は少し考えた。
「儀礼は覚えているわね」
「はい」
「書類も読めるでしょう」
「時間をいただければ」
「人の話は聞くわよね」
「分からないことが多いので」
セルリアは、できないことを隠そうとはしない。
姉たちが難しい本を読んでいれば内容を尋ね、知らない国の使節が来れば、先に外務官から説明を受ける。式典の手順が分からなければ女官に確認し、覚えるまで練習する。
王族として必要な教育は受けており、公務で大きな失敗をしたこともない。
ただし、本人に言わせれば、それは周囲の人々がよく教えてくれたからであった。
「できなくはないんじゃない?」
コーラルが言った。
「嫌です」
セルリアは即座に答えた。
「少しくらい考えなさいよ」
「お二人がなりたくないものを、どうして私がなりたいと思うのです?」
まことに筋の通った話である。
三人はしばらく黙って茶を飲んだ。
王位は一つ、王女は三人。そのうち一人が引き受ければ、残る二人は自由に結婚できる。
つまりこれは、姉妹の中で誰が最も妹思い、または姉思いであるかを試す話でもあった。
今のところ、三人とも同じ程度である。
「ところで、最近いかがですの?」
先に話題を変えたのはカドミアだった。
「いかがって、何が?」
「まあ、しらばっくれちゃって」
カドミアは畳んだ扇で、コーラルの肩を軽く叩いた。
「最近、よくお庭を散策しているでしょう?」
「あら、昔からじゃないの。私があの人と追いかけっこしているなんて」
「それも、いつも貴女が裾を振り乱して」
「風が強かったのよ」
「三日前も?」
「三日前は、あの人が私の帽子を持って逃げたの」
「それを追いかけっこというのではなくて?」
カドミアが笑い、コーラルも口元を隠した。
セルリアは二人の隣で、二つ目の菓子をのんびり味わっていた。
「ちょっとセルリア、こういうときくらい乗ってきなさいよ」
「え?」
姉二人に見られ、セルリアは菓子皿へ目を落とした。
「あ、今日のお菓子、おいしいですね。これ、何といいましたっけ。ええと……」
姉二人は同時に肩を落としたが、セルリアは気付かず、次にシモンを招く日のことを考えていた。
木苺は彼も好きだったはずである。
この日の話し合いで決まったのは、三人とも女王になりたくないということだけだった。
ちなみに、王位継承者を選ぶうえで、本人の希望は大切である。
大切ではあるが、それだけで決まるものでもなかった。




