秘密の関係
「すぐにはやみそうにない、か…」
殿下の言う通り黒い雲はどこまでも続いておりすぐに天気がよくなる気配は一切ない。数時間はこの調子だろう。
「そういえば、どうしてハルシャ卿はあのような案を受け入れたのですか?殿下がなんの相談もなく出された案ですし、文句の1つくらい言っても問題ないと思いますよ。」
フローレス壌の言うあの案とは詳しく説明しよう
特別試験の結果で下位3位以下になってしまったグループに苦学生がいた場合、殿下が責任をとりその者に限り殿下が属するグループからペナルティを代わりに支払う、というものである。
こんな案を出すからには相当な自信があるのだろうと推察する。
説明はこの辺にして、彼女の質問に答えるとしよう。
「今回だけだよ。次からはもちろん反論するつもりだしあまりにも自分勝手だと判断したら強行手段も辞さないつもりだよ。だけど今回だけは殿下のやり方を見たくなった。」
僕らの話に気づいた殿下が振り返りにこりと微笑んだ。
「それはありがたい。ハルシャ卿にはこちら側になってもらいたいからな。」
こちら側というのはおそらく派閥のことだろうがそんなに大っぴらに言ってもいいのだろうか?
「あまり面倒ごとにはかかわりたくないだけどな。…そういえば気になっていたんだけど、どうして殿下とフローレス壌は仲がいいの?」
そう言うと殿下はキョトンとし顔してフッと笑ってきた。
「ふふっ君は本当に面白いね。そこまで深く切り込む人はあまりいないよ。…その問いに一言で答えるならば彼女は“こっち側”だから、としか言いようがない。」
こっち側ということはフローレス壌はスパイか何かなのか?たしかに婚約者として側にいるのなら情報は抜き放題だろう。
あの男はどうもバカみたいだからな。剣術もあの程度なのだからフローレス壌の初級魔法でも十分対処可能だろうし…
「殿下!語弊を生むような言い方はやめてください!…ハルシャ卿、殿下とは婚約前からの友人なのです。立場的には敵というものになりますが、私にとって殿下は初めてできた友人。学院の中ぐらいは仲良くしたいのです。…あ、あとこの話は内緒にしてくれませんか?両親の耳に入るとよろしくありませんので…」
そう言いいながらも視線がどんどん下を向いていく。
そもそもそんな弱みを僕に話していいんだか…
「フローレス壌と殿下の友情に第3者の僕が口を出す権利はないから安心して。大丈夫、あなたが親の決定に逆らえない立場であることは理解している」
取りあえず敵でないことははっきり言っておかないととんだ勘違いをされるかもしれない…
ちなみに貴族間の婚約は生まれる前から決まっている場合もあり、特に女性には決定権がほとんどない。家のためだと心を押し殺す女性がほとんどだ。
「ありがとうございます、ハルシャ卿。」
そう言いながらホッと胸を撫で下ろす彼女もまた貴族社会が作ってしまった被害者だろう。
僕がどうこう言える立場ではないが、学院にいる時だけでも彼女が幸せに過ごせることを祈ろう。あのバカを相手にするのはしんどいだろうしな…
「その代わりといってはなんだけど、暇があったらでいいんだけど僕に魔法を教えてくれないかな?ちゃんと学び始めたのがほんの1ヶ月前だからあまり上手くできなくて…」
「もちろん構いませんよ。といっても私は水と氷の属性しか使えませんが…」
「僕も水と氷を使えるからその点については問題ないよ。よかったら殿下もどう?」
仲間はずれぎみだったので話をふる。
「そうだね、それじゃあ私も参加しよう。」
心なしか少し嬉しそうに見える。
「それでは私はこれから授業があるのでお先に失礼いたします。」
そう言って綺麗にお辞儀をし、彼女はサッと立ち去った。
「それじゃあ私も今から行くところがあるから寮でまた会おう。」
そう言って殿下は雨宿りをする際にはぐれてしまったシドさん達を探しながらどこかに行ってしまった。
1人になりすることもなくなり手持無沙汰になったので、取り敢えず図書館へ行くことにした。
アルバード王立高等学院の図書館はこの国で1番大きくて蔵書量も申し分ない。やる気もなくなったため、この後の授業をサボって図書館に入り浸るのも悪くないだろう。
それに調べたいこともあったのだ。
そう思って図書館への歩みを進めた。




