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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~  作者: 存在証明
断翼のレクイエム

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繋がれた絆

突如として四方八方から風が吹き、僕の身体は空中へと持ち上がった。


一緒に巻き込まれた屋根や瓦礫が次々と身体へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


骨が砕けてはすぐに再生する。


そしてまた砕ける。


その繰り返しだった。


まずいな……。


空中では思うように体を動かせない。当たり前にできていた動作さえ、おぼつかない。


風に翻弄されるだけで精一杯だ。


このままでは、そのうち致命傷をもらうことになるだろう。


いくら再生できるとはいっても、痛いものは痛いのだ。


どうにかせねばと風の流れを読もうとしても、流れそのものが何度も変化する。


完全に遊ばれていた。


その時だった。


「カーイ!! 避けてぇぇ!!」


聞き覚えのある叫び声が風を裂いた。


「え――」


ゴッ!!


後頭部に強烈な衝撃が走る。


「うぇっ……!」


何かが思い切りぶつかってきたかと思えば、そのまま腕をがっちり掴まれた。


「うわああああああ!!」


「ちょっ……何!?」


二人まとめて暴風に振り回される。


視界がぐるぐると回転し、空と地面の区別すらつかない。


「ご、ごめん!!勢い止められへん!!」


「ぶつかるなら先に言ってよ!!」


叫んだ次の瞬間。


ヒュンっ!!


目の前を屋根が丸ごと飛び抜けていった。


反射的に体をひねり、間一髪でかわす。


そのまま今度は街灯が飛んでくる。


「また!?」


「右ぃ!!」


コウの声に反応して身を反転させる。


街灯が鼻先数センチをかすめて通過した。


「……ほんまに危なかったな。」


「危ないで済ませないでよ……当たってたら君は確実に死んでたよ。」


ようやく互いの勢いが少し落ち着く。


それでも暴風は容赦なく二人を巻き上げ続けていた。


「カイ!」


コウが伸ばした手をしっかりと掴む。


「手ぇ離すなよ!」


「言われなくても!」


その手を強く握った瞬間だった。


まるで錨でも下ろしたかのように、お互いの身体の回転が少しずつ収まっていく。


一人では流されるだけだった身体が、二人で支え合うことで風に耐えられるようになった。


「……なんで?」


思わず呟く。


「知らん!でも一人ん時よりはずっと動きやすいで!」


確かにそうだった。


互いの体重が釣り合いとなり、風に流される方向をある程度制御できている。


完全ではないが、それでもさっきまでとは比べものにならないほど自由が利いた。


「カイ! イリアスもおんねんけど、この風のせいではぐれてしまってん!!」


「イリアスも……!?」


まあ、イリアスは自分で回復できるから僕らよりも生存率が高いだろうが。


「コウ、この風の中に秋の天使がいるんだ。具体的な場所、分かったりしない?」


「無理や!気配があらゆるところにあるから、どこが本命か分からへん!!」


コウもか…どうしよう…気配と魔力以外で探る手立てを早急に考えないと…


「……待って。」


ふと、一つの違和感が頭をよぎった。


「コウ。」


「なんや?」


「僕ら、ずっと風に巻き込まれてるよね。」


「せやけど…」


「なのに、一度も秋の天使本人の姿を見ていない。たとえ風に『意志』を託せたとしても、本体は必ず存在する。一度も姿を見ていないってことは、この暴風が及ばない場所にいるか、巻き込まれないようにうまく『安全地帯』をつくっているかのどっちかだよ。」


僕がそう言うと、コウは一瞬だけ目を丸くした。


「……あ。」


「この暴風は街の中心部を覆ってる。見たら分かると思うけど、これは地上から上空まで竜巻のように現象が起きているから、上下に逃げたとは考えにくい。」


「せやな……。」


「現状を見ると、この暴風の中に『安全地帯』を作って堂々と存在しているって線が濃厚かな。」


そう言って僕はコウの紅い瞳を見た。


「その安全地帯を見つけよう。風の流れがどこか不自然な箇所があるはずなんだ。」


「でも、この暴風の中でそんなもん分かるんか?」


「……普通なら無理だろうね。」


でも、僕は『普通』じゃない。


コウに体の主導権を預けたまま僕はそっと目を閉じた。


僕は風魔法を使えないけど、水の権能が使える。


この世界はありとあらゆるものが『水』で構成されている。人体から植物、空気中、『水』はどこにであるのだ。


だから、天使に支配されたこの空間にも目には見えないほどの小さな水滴が無数に漂っている。


それらは風に流され、渦を描きながら動いている。


つまり、水の動きというのはそのまま風の流れを映し出す。


もし風を避けている場所があるのなら、そこだけ水の軌道が乱れるだろう。


「……見つけた。」


僕はゆっくりと目を開いた。


視線の先には、そこだけ水滴がぽっかりと避けるように流れていた。


「十一時の方向!」


叫ぶと同時に、僕は水の槍を創り出し、コウに見えるように対象に向かって投げた。


「コウ!」


「任せろや!」


炎をまとったコウが、僕の身体を踏み台にして一直線に跳躍した。


その瞬間。


「……ちっ。」


初めて、秋の天使の舌打ちが風に紛れず、はっきりと聞こえた。

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