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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~  作者: 存在証明
断翼のレクイエム

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見えない戦場

カイ視点

フィオーラを倒した後、僕はすぐにその場を離れて街の中心部へと急いだ。


しばらく走っていると、ある場所を境に突風が吹き荒れていた。


「これは…秋か…」


走るのをやめてその場に立ち止まる。

気配は確かに感じるのに、どこにいるか全くつかめない。『索敵』も『魔力探知』も機能していないところを見ると、それが『秋』の能力なのだろう。


あまりにも厄介な能力だ。


「ひとまずこの暴風が当たらない場所へいか…っ!!」


殺気を感じ後ろへ跳ぶと、さっきまでいた場所が大きく抉れていた。


一体どこから…


周囲を見渡す。


誰もいない。


建物の屋根。


崩れた家屋の影。


空。


どこにも人影は見当たらなかった。


その代わり、風だけが鳴いている。


ゴォォォォ――。


「音まで操作してるのか。」


風が瓦礫を転がし、建物を軋ませ、無数の音を作り出している。

そのせいで足音も、呼吸も、衣擦れの音も全てかき消される。


『魔力探知』が機能しない理由はこれか。

ここ一帯全てが巨大な魔力で包まれている。魔力の中に僕がいるといっても過言ではないのだ。そんな状態の中『魔力探知』が使えるはずもない。


ともかく、視覚だけじゃなく聴覚まで封じられているとなるとできることは限られている。


「厄介だね。」


そう呟いた瞬間。


ヒュッ。


首筋に冷たいものを感じた。


反射的に体を傾ける。


ズバァッ!!


背後の石壁が紙のように切り裂かれた。


「……風の刃。」


目には見えない。


だから避けることさえ難しい。


もし半歩遅れていたら、首が飛んでいただろう。


そう気づいて背中に冷たいものがはしる。


「へぇ。」


どこからともなく、楽しそうな声が響いた。


「今の、避けるんだ。」


男とも女ともつかない、中性的な声。


年齢すら分からない。


「さすがは半神…」


風に乗って声が四方八方から響く。


これじゃあ場所が特定できない。


「でもさ。」


クスリ、と声が嗤う。


「君は"アタシ"を見つけられない。その状態で、いつまで耐えられるかな?」


その瞬間。


ゴォォォォッ!!


暴風が一段と勢いを増した。


瓦礫が空へ舞い上がり、砂埃が視界を奪う。


そして風そのものがまるで牙を持った獣のように僕へ襲いかかってきた。


水を創造し、盾のように展開した。


風は水を貫通したものの、勢いが落ち簡単に避けれるようになった。

といってもジリ貧状態だが…


僕一人じゃ手に負えない…。コウを探さないと…いや、無理だ。探すことに脳のリソースを割けない。なら向こうが気づけるように何か派手なことをしないと。


「……少し、街には悪いけど。」


僕は深く息を吸い、両手を地面へと向けた。


神力を一気に流し込む。


ゴゴゴゴゴゴッ――!!


地面が大きく揺れた。


地下を流れる水脈が僕の呼びかけに応え、一斉に地上へ噴き出す。


無数の水柱が街の中心から天へ向かって立ち昇った。


1本、2本……3本。


やがてそれらは互いに絡み合い、一本の巨大な水柱となって空高く伸びていく。


「これなら……。」


街のどこからでも見えるはず。


しかし、


「そんなもの、意味ないよ。」


声と同時にさぁーっと周りが霧で覆われた。

一寸先は霧どころか、自分が踏みしめている地面すらも見えなくなっていた。


これが街全体を覆っているとなると普通に考えてコウが僕を見つけるのは困難だろう。


なら、この霧を晴らすまで。


霧とは、地表近くの空気中に細かい水滴が浮遊し、視界が悪くなる気象現象のこと。これを魔力によって発生させたといっても、原理は同じはず。水が使われているのであれば、僕の領域だ。


「……やれる。」


そう思って僕は静かに目を閉じた。


意識を霧の一粒一粒へと広げていく。


空気中に漂う水分。


地面に染み込んだ湿気。


建物の隙間に溜まった微細な水滴。


それらすべてが、ゆっくりと“繋がって”いく感覚がした。


街全体を覆っていたと思っていた霧は、どうやら中心部だけだったということに気づく。


「……見えた。」


霧の中に混ざっている魔力の根源を。


そこをつけば何かが変わるかもしれない。


ただ、ひとまずこの霧をどうにかしなければ…。


僕が指を軽く鳴らした瞬間。


ゴォッ!!


霧の流れが変わった。


拡散していた水分が一斉に引き寄せられ、街の中心へと渦を巻き始める。

だんだんと視界があらわになっていき、水分が全て雨に変わる。


だが、その直後。


「へぇ……やるね。」


再び声が聞こえた。


今度は、すぐ“背後”だった。


ゾクリ、と空気が凍る。


反射的に振り向いたが、そこには誰もいなかった。


代わりに――。


スッ。


首に一筋の浅い切り傷が走り、ポタリと血が落ちた。

もう少しずれていたら大量に出血していたに違いないだろう。


「っ……!」


見えない。


気配が消えているのではない。

“風そのものに溶けている”のだ。


「当たり。」


楽しげな声が霧の中に響く。


「君、かなり厄介だね。水を全部支配しようとするなんてさ。さっき手に入れた力のくせに、もう使いこなしてる。」


風が、笑うように揺れた。


「でもさ。」


ゴォォォォッ!!


風が再び牙を剥く。


「“水を全部支配できる”って思った時点で、負けてるよ。」


声の主はそう言って、不敵に嗤ったような気がした。

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