交差する戦場
半神が持つ神の力は、固有のものであり、その効果は絶大となる。
二代目当主は、手足のように水を操り海さえも創造しうる水の権能。
三代目当主は、炎を管理し消えない黒炎を創造する炎の権能。
それら全て何かを操り創造する力である。
ただし、そういった神の力はいつどこでどうやって与えられ、自身がその力を自覚のするのかは分かっていない。5才で発現した者もいれば、50を超えてから発現した者もいる。
しかし、全員に共通することは、権能を得たその瞬間から、『邪なるもの』を正確に感じ取ることができるようになるということである。
そう、このように。
降り注ぐ氷の槍から発する『邪なるもの』を感知して、自分に向かってくる氷を把握。そして一定距離近づいた瞬間に主導権を奪いとる。
そう、僕の能力は、『水と氷を操る』権能。
降り注ぐ氷槍の軌道を見極める。
いや、見る必要すらない。
神力を通して触れた瞬間、それらは僕の支配下に入る。
「返すよ。」
パチン、と指を鳴らした。
次の瞬間、僕に向かっていた数百本の氷槍が一斉に反転する。
轟音が鳴り響き、吹雪を切り裂きながら氷槍はフィオーラに向かってものすごいスピードで飛んで行った。
「っ……!」
フィオーラの周囲に巨大な氷壁が展開される。
氷壁と氷の槍が激突し、地面が揺れる。氷は砕け散り、白い霧が辺りを覆った。
視界が閉ざされるものの、気配は揺るがなくそこにあった。
むしろ強くなっている気がする…
「やっぱり簡単にはいかないか。」
短剣を握り直し、神の力を短剣をもつ左手に集中させた。
コーティングするように、薄い氷が短剣を覆った。
相手も氷を操る。
それも、おそらく僕以上に。
なら勝負は単純だ。
どちらが先に支配権を奪うか。
どちらが先に限界を迎えるか。
吹雪の向こうでフィオーラが苦しそうに息を吐いた。
♢
コウ視点
カイと別れた後、消えて行った子どもを探すため、俺は『強い気配』がする方へ向かった。
しばらく走っていると、知っている顔を見つけた。
「イリアス!こんなとこで何してんねん!!エレンとユウリはどうしたん?!」
「あっ、コウ!探してたんだ。いきなり女の人の声が聞こえて、コウと合流しろって…。よくわからなかったけど、天の啓示だと思ってコウを探していたところなんだ。」
「俺は今、小さい子どもの恰好した『人ならざる者』を探してんねん!あれが多分全ての元凶や。カイとは相性が悪いから俺が仕留めないと…」
「子ども……?」
「ん?」
「もしかして、赤黒い目をした子どものことか?」
ピタリと足が止まる。
「知っとるんか?」
イリアスは少し考えるように眉をひそめた。
「さっき見た。」
「どこでや!」
「すぐそこの路地だ。コウと会う1分ほど前だよ。珍しい瞳だったから覚えてる。」
「なんか変わったことはなかったんか?」
「うーん…まるで、何かを知っているみたいに僕を見て嗤っていたな。そのときは気にも留めていなかったけど、改めて考えると不自然だ。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に不快感が広がった。
あのガキ、全部計算して動いている。
偶然なんかじゃない。
孤児院にいたことも。
カイを刺したことも。
逃げたことも。
全部。
「他には?」
「それだけだ。」
イリアスは首を振った。
「路地は危険だから入るのを止めようとしたけど、その直後に大量の魔物が現れて、姿を見失ってしまった。」
「……そうなんか。」
情報としては少ない。
だが、無駄ではない。
少なくとも近くにいる。
そう考えたその時だった。
ゾクリ。
全身に悪寒が走った。
「っ!」
俺とイリアスが同時に振り返る。
遠く。
街の中心部。
そこから凄まじい魔力のようなものが噴き上がった。
いや。
魔力ではない。
もっと禍々しい何か。
「なんや……あれ。」
空を見上げると、雲が渦を巻いていた。
まるで何かを中心に集まっているように。
そして、その中心から黒い何かが溢れ出している。
イリアスの顔色が変わった。
「まずい。」
「なんか知ってるんか?」
「いや。」
イリアスは杖を深く握りこむ。
「でも、本能が警告している。」
その声には珍しく緊張が混じっていた。
「近付かせてはいけないものだ。」
同感だった。
理屈ではない。
あれは危険だ。
触れてはいけない。
存在してはいけない。
そんな気配だった。
そして。
その中心から、聞き覚えのある笑い声が響く。
『あはははははっ!!』
子どもの声。
間違いない。
孤児院にいたあのガキだ。
「見つけた。」
俺が剣を抜いたぬいた瞬間、炎が刀身を包み込んだ。
「イリアス。」
「ああ。」
サッと視線を合わせる。
言葉なんていらない。
それだけで十分だった。
次の瞬間。
俺たちは同時に地面を蹴った。




