作られた幸せ
コウ視点
「カイ!」
お腹から飛び出している刃物がことの重大さを物語っていた。
「なんでっ、なんで、再生せえへんねん!!」
地面に広がる真っ赤な液体はとどまることを知らず、広がっていく。
ひとまず、再生しやすいように剣を抜き取ろうと力を込めるが、びくともしなかった。
なんでっ…動かんねん!!身体強化までかけてんのにっ…
「うっ…あ…お兄、ちゃん、うしろ…」
幼い子どもの声にハッとして後ろを振り向くと赤い瞳をした子どもが気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。
「あいつがその人を刺したんだ!!」
そう聞いた瞬間、頭よりも先に体が動いていた。
キンっという鈍い音が鳴り、振りかざした剣と黒い何かが交わった。それは、魔力のようでもっと別の禍々しいもののようにも感じた。
「『邪なるエネルギー』を具体化して操る。これが僕の、『1つ目』の能力だよ。一般人が触れたら正気を失い、半神が触れたら神力を抑制することができる。」
なら、カイの傷が回復しないのもその能力のせいか?
「…そんな重要なことを俺に話してもよかったんか?」
「死人に口なしだからね。まったくもって問題はないさ。そこのガキたちも、お前も、この憎たらしい半神も。僕の手で全員死ぬんだ。」
そう言って幼い子供の皮を被った化け物がにんまりと笑った。
♢
カイ視点
「…い…おーい!!起きろー!!カイ!!」
うっすらと目を開けると、バチッと赤い瞳と目が合った。反射的に布団を頭から被ると、ものすごい強い力で引きはがされた。
「こらっ!起きんかい!!学校に遅れるやろ!!」
「学校…?」
「まだ寝ぼけてるんか?今日は月曜日やで。」
「いや…なんか、長い夢を見ていたような気がして…あれ、どんな夢だったっけ?」
僕がそう言いながら首をかしげていると、上からため息が降ってきた。
「…夢は後にして、現実を見た方がええんとちゃうか?あと5分以内準備せーへんかったら遅れるで。」
時計をちらりと確認すると『いつも』家を出る時間をとうに過ぎていた。
「やばっ!!なんでもっと早くに起こしてくれなかったの?!」
「おばちゃんは起こしたって言ってたで。俺はいつも通りお前を迎えに来ただけやし。」
そんなコウの言葉は頭に入らず通り過ぎていく。
『慣れた』手つきで制服を着て、朝ごはんも食べずに家を出た。
「…いや、もうここまで来たら遅れた方がいいのでは?僕、コンビニで肉まん買ってくるから、コウは先に行っててよ。」
「…え?意味わからんねんけど。普通逆やろ。…まあええわ、俺先行くからな。」
「うん。じゃあね。」
コンビニで肉まんを買い、学校までゆっくり歩いた。
「…であるから、この証明は、、」
一時間目って数学だったっけ?僕、教科書持ってきてないんだけど…まあいいや…終わるまでここで待っとこう…
そう思いながら扉に寄りかかって座っていると、ガラガラっと音がして扉が開いた。
「五十嵐、そんなとこに隠れてないで、入ったらどうだ?入りにくいなら、一度保健室に行って2時間目から参加してもいいが…」
「…なんで数学なんですか?月曜日の1時間目って国語ですよね?」
「金曜日に時間割変更があるって言ってただろ。で、入るのか?入らないのか?」
「あー、じゃあ入ります。教科書ないですけど、見逃してください。あとこれ、お土産です。」
袋の中から取り出した肉まんを先生に押し付け、僕は教室に入った。
皆の視線が僕に向くが、そこまで気にならなかった。
窓側の一番前の席に鞄を置いて僕はドサッとイスに座った。
「カイくん、その荷物どうしたの?」
隣の席に座っていた有栖に指摘され、僕はまた袋をガサゴソと漁った。
「これ、あげる。さっきコンビニで買ったんだ。」
「えっ、でも…授業中…」
「先生も食べてるから大丈夫。」
教壇に立って肉まんを頬張っている先生を指さしながら僕も肉まんを口に入れた。
「この学校、ほんと自由だな…」
後ろでぽつりと聞こえた声に僕はくるりと振り返った。
「エレンの分はないからね。」
「いや、別に欲してない。」
「財布には言ってたのが500円だけだったから三つしか買えなかったんだ。」
そう言って僕は窓から見える『月』を見た。それは血に濡れたように真っ赤に染まっていた。
そしてその月は、まるで誰かの瞳のようだった。
「どうした?」
エレンに声をかけられ、僕は我に返る。
「いや、なんでもない。」
そう答えたものの、胸の奥に妙な引っ掛かりが残っていた。
何かを忘れている気がする。
とても大切なことを。
だけど、それが何なのか思い出せない。
「五十嵐。そろそろ授業を再開するから前を向けよ。」
先生に注意され、僕は適当に返事をした。
教室では誰かが笑い、誰かがノートを取っている。
いつも通りの光景。
何一つおかしなところはない。
……本当に?
ふと視線を落とす。
右手に黒い染みのようなものが見えた気がした。
思わず袖をまくる。
しかし、そこには何もない。
気のせいだったのだろうか。
「カイくん?」
有栖が不思議そうに首を傾げる。
「ううん。」
僕は小さく首を振った。
その時だった。
僕を呼ぶ誰かの声が微かに聞こえたような気がした。




