未来を視る眼
次の日
「カイくん、思ったのですが、『予知眼』で見たものは本当に正しいのでしょうか?」
「どういうこと?」
「予知眼で見る未来とは、確実に起こることなのか、あらゆる可能性の一つなのか。考える余地があると思いませんか?だってカイくんはその未来を変えるために準備しているんでしょう?つまり、予知眼で見た未来は変えられる。それはカイくん以外の人間だって変えることができるということです。もし、予知眼で見たものを、何らかの方法で敵も見ることができたら、、」
「もしそうなれば、かなり面倒くさいね。ただ、そんな話は聞いたことがないな。前例がないってだけで可能性を無視するわけにはいかないけど、敵が予知眼で見たものを見ている確率は限りなく低いと思うよ。」
「…そう、ですよね。」
「どうかした?」
「いえ、何か嫌な予感がして…気のせいだといいんですが。」
アイリスが心配していることは、スタンピードが予定よりも早く起きることだろう。
もしかしたら今日や明日にでも起きるかもしれない。
一応布石は打っているけれど、明後日を想定していたため、時間が足りないな。
新たな策を考えるために、イスから立ち上がったその直後、カンカンカンカンっと3回鐘がなった。
意味は、『緊急避難』。
「カイくん!!」
窓を開けて外を見ると、空には黒い何かが西の方面からものすごいスピードでこちらに向かっていた。また、街の中には大量の魔物が侵入しており、阿鼻叫喚な状態だった。
「…気配を感じなかったということは、転移系の魔法を使って魔物をここに移動させた可能性が高いね。アイリス、至急騎士団を動かした方がいい。このままじゃあ全員助からない。」
そう言いながら、どくっ、どくっと心臓が波打つのが分かった。
「プランCが妥当だね。それじゃあ僕は先に現場に行って、街に出かけているコウたちと合流するよ。」
「分かりました。お願いします。」
「うん、お願いされた。」
僕はそう言って、窓から飛び降りた。
スキル索敵を使い、屋敷の中の魔物の数を把握する。
屋敷の敷地内におよそ100体か。
このぐらいなら、騎士団の人でも十分対処可能だろう。
身体強化をかけながら、全速力で街に繋がる正門まで走った。
正門の前には逃げてきた人達が何かを叫びながら門番につかみかかっていた。
「中に入らせろ!伯爵の家が一番安全だろうが!!」
「だから、俺にそんな権限ないっつうの!!あっ、カイ様!助けてください!」
「門を開けて構わない。ただ、屋敷の内外にも魔物はいる。騎士団が来るまでは中に入らないほうがいい。」
「えっ、いいんですか?!」
「うん。避難所は神殿ではなく、フローレス家の屋敷にすると、小伯爵が言っていたから問題ない。」
そう言いながら僕に向かってきたゴブリンの首を切り落とす。
この調子だと街の中心部は本当にヤバいかもな。
そう思って僕は、屋根の上に飛び乗って魔物の位置を確認した。
♢
2分前
「ふっふふーん。」
鼻歌を歌いながらスキップしていると、知り合いのおばさんに声をかけられた。
「あら、ごきげんね。何かあったのかい?エディー。」
「あっ、おばさん、こんにちは!今日は僕の誕生日だから、今から家に帰って皆でケーキを食べるんだ!」
「そう、それはよかったわね。これ、よかったら持ってて。あたしからのプレゼントだよ。」
「えっ、いいの?!ありが…」
ビチャッという音とともに、目の前が真っ赤になった。
「…ぇ…なにが…」
おばさんの体が真っ二つに裂かれ、内臓や心臓が飛び散っていた。
ドスンドスンと、4メートルをゆうに超える怪物が、おばさんの死体を丸ごと食べた。
ぐちゃ、ぐちゅ…っという音が聞こえ、思わず僕は耳を塞いでその場に崩れ落ちてしまった。
逃げないといけないのに、僕の足は凍りついたように動かなかった。
「…おい!坊主!危ないから離れてろ!」
そんな怒号に顔をあげると、怪物の顔が僕の目の前にあった。
「…ひっ!!」
声にならない悲鳴が喉から出て、気づいたら僕は走り出していた。
先ほどまで恐怖で固まっていた足は上手く動いてくれず、足がもつれては何度も転びそうになった。
怪物はすぐに後ろにいて、気味の悪い笑みを浮かべて僕を見ていた。
「ぐぁああああ!!」
いろんな場所から聞こえてくる悲鳴に涙をこらえながら、僕は必死に走った。
「そうだ、神殿に、神殿にいかないと!」
避難場所として指定されていた神殿に行けば、誰かが助けてくれるかもしれない。
そんな浅はかな考えは一瞬のうちに崩れ去った。
神殿の周りには、自分と同じ考えの人間がたくさんいて、そのどれもが死体となっていた。
「ひっ…なんで…」
神殿の中から感じる強烈な殺意が、その答えだった。
気づいたときにはもう遅く、突如として現れた二匹目の怪物がにんまりと笑いながら僕に手を伸ばした。
ああ、ここまでなんだ…
そう思って、僕はぎゅっと目をつむった。




