黒翼の烏
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急ぎの用件につき、書面にて失礼する。
三日以内に、ハレール近郊において大規模なスタンピードが発生する可能性が高い。
現時点で明確な証拠は提示できないが、看過できる危険ではないと判断した。
万一発生した場合、周辺村落および街道地帯に甚大な被害が及ぶ恐れがある。
ついては、騎士および兵の派遣を要請したい。
特に対大型魔物と飛行系魔物の戦闘経験を持つ者を優先してもらえると助かる。
動員に伴う費用については、ハルシャ公爵家または国が負担する。
結果として杞憂で終わるなら、それに越したことはないが、備えず被害を出す事態は避けるべきだと考えている。
以上、本状の趣旨理解されたし。
カイ・ハルシャ
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「ハルシャ家と国が費用だすと言い切ってよろしいのですか?」
「うん。予知夢で見た確定的な未来を脱するために行う行為は全部公爵家か王家につけとけってお祖父さまが言ってたから。」
といっても不安だから陛下と叔父様にはちゃんと謝罪文を送っておくけども…
「公爵家と王家を匂わせておけば普通は兵士を送ってくれるはずだから、あとは僕らが対策を練るだけだね。」
「対策といっても、スタンピード自体初めてでして、何をしたら被害が減るのかまだ不透明なところがありますから、外部から専門家を呼ぶのが無難でしょうか…?」
「3日以内に来てくれる専門家がいればの話だけどね。」
まあたぶん来てくれないだろうな。そもそもの数が少ないうえに、スタンピードの研究は西の大森林でやってるみたいだし、さすがに東のハレールに来るには時間が足りなさすぎる。
「たしか、カイくんは飛行系の魔物を『見た』んですよね?」
「うん。そうだよ。卒業試験で戦った空影鴉の最上位種、黒翼鴉がたくさんいた。」
「やはりおかしいです。黒翼鴉はもちろん、飛行系の魔物はこの辺りに生息していないんです。スタンピードが自然に起こる現象であれば、今回のものは確実に通常のものではありません。」
「…人工的なスタンピード…か。そんなことをして何のメリットが…。国境に隣するハレールの機能を停止させたとしても得する人はいないんじゃ…」
「ええ。政治的なものが原因ではないでしょう。ただ、個人的なものであれば、そのメリットは本人にしか知る由がありません。」
「ただ、一個人があれほどまでの魔物を先導できるとは思えない。」
「ええ。確実に何らかの『組織』が動いているのでしょう。」
「ひとまず、このことを皆に伝えないと。」
「ダメです。どう説明するつもりですか?予知夢のことは国家機密になっているんですよ。」
「ええーダメなの?予知夢のことを言えないならスタンピードのことも言えないじゃん。」
「なので、ひとまずハレール周辺の魔物たちに変わったことがないか調査をお願いしましょう。変わったことがあれば強引にスタンピードが起きそうという仮説にもっていけますしね。」
「じゃあその調査、僕が行くよ。急にそんなことを頼んだら、怪しまれるでしょ?」
「分かりました。ただ、私も連れて行ってもらえませんか?」
「えっ、なんで?アイリスはまだ安静にしなくちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「一週間前に主治医からもう大丈夫だと証言をもらっていますから、問題ありません。」
「そう…分かった。実際アイリスがいてくれた方が捗るからね。」
「出発は今からでいいですか?」
「そうだね。なるべく早い方がいいと思う。そうと決まればはやく行こう。」
書きあげた手紙を三通持って、僕らは部屋を出た。
「カイやん!どこ行くん?」
げっ、こんなときにコウに会うなんてついてないな。
「あーデートだよデート。」
「え?カイとアイリスが?絶対嘘やん。」
「ほんとダヨ。とっ、とにかく、僕らはこれから出かけるから、この手紙を早便で出しておいてくれない?」
「早便ってワイバーンで送るやつやんな?ええの?結構値段高いらしいけど。」
「うん。大丈夫。これで払っといて。おつりはいらないから。」
そう言って金貨を一枚渡して、そそくさと僕らはコウのもとを去った。
裏口からレインを連れてアイリスと共にこっそり外へ出る。
「あの…カイくん。もしかしてレインに乗って調査に行くんですか?」
「そうだよ。」
「…私の馬術の成績、知ってますよね?」
あーそういえば、馬術はアイリスが唯一D評価をとった授業だっけ…
「僕が前に乗るから大丈夫。アイリスは振り落とされないようにしたらいいだけだから。それに、レインは大人しいから君のことを蹴り飛ばしたりしないから安心してよ。」
「…なんで馬術の授業で馬に蹴り飛ばされかけたことがあるって知ってるんですか?」
「昔、殿下が言ってたんだ。」
そう言って僕はレインに飛び乗った。
「ほら、手を出して。」
アイリスの手を掴み、ぐっと上に引き上げた。
「…ありがとうございます。」
「怖かったら目をつぶったらいいよ。」
「そこは、服を掴んでもいいよというところでは??」
「ははっ、そうかもね。でも、服はもう掴んでるじゃん。」
そう言って僕はレインの手綱をぎゅっと握りなおした。




